2000年代初頭から創作物のオープンな共有を可能にしてきた、インターネットの基本原則である「クリエイティブ・コモンズ」のモデルが、生成AIによって課題に直面している。
大規模かつ出典表示のないコンテンツ収集が進むなか、クリエイティブ・コモンズのCEO、アンナ・トゥマドッティル氏は、互恵性に基づく倫理的なAI利用の仕組みを提唱する。
世界経済フォーラムの報告書「責任あるAIイノベーションの推進:実践ガイド」は、AIバリューチェーン全体で透明性、説明責任、協働、互恵性を確保するための倫理的なAIイノベーションについて詳述している。
「クリエイティブ・コモンズ」の著作権ライセンスモデルは、2000年代初頭以降のインターネットの発展と密接に結びついている。ウィキペディア、デジタル美術館のコレクション、オープンな教科書は、「CC」なしには存在し得なかった。
しかし、生成AIの登場は、創作物をオープンに共有するという理念にとって試練となっている。大規模言語モデルは公開コンテンツを大規模に収集し、多くの場合、元の制作者への言及を取り除き、作品を互恵的に共有したいという制作者の意向を無視している。
世界経済フォーラムは、2025年のサステナブル開発インパクト会合で、クリエイティブ・コモンズのCEOであるアンナ・トゥマドッティル氏に、この緊張関係とその解決策について話を聞いた。
クリエイティブ・コモンズとは何か、どのように機能するのか?
CCライセンスは、インターネット黎明期の2001年に開発され、従来の著作権の制約に対処し、創作物のオープンな共有と合法的な再利用を可能にするものだった。
2002年に最初のライセンスを発行し、安定した条件のもとで作品を共有したり、共同でプロジェクトに取り組んだりしたい人々のための基盤を築いた。
「人々が初めてインターネットを使い始めた頃、作品を共有し、一緒に何かに取り組みたいと考えていました。当時の著作権は、知識が自由に流通するのを許すには制約が強すぎたのです」とトゥマドッティル氏は語った。
従来の「すべての権利を留保する」著作権モデルに代えて、CCは「一部の権利を留保する」という考え方を設け、制作者が作品の再利用や改変をどのように認めるか指定できるようにした。
「そのすべてを支える中核的な原則は、クレジットの表示です。元の制作者に功績を帰するという考え方です。そうすることで、創造性と知識の網が美しい形で世界中に広がっていきます。」
クレジット表示に加えて、制作者が留保したい権利もある。CCはさまざまなライセンスの種類を用意しており、知的財産の非営利利用のみを認めるもの、改変した作品もオープンに公開するよう定めるもの、変更を制限するものなどがある。
クリエイティブ・コモンズが重要なのはなぜか?
CCは、共有された地球規模の資源としてのインターネットの拡大と成功を支える重要な要素となってきた。現在、そのライセンスは世界900万のウェブサイト上にある25億点を超える作品を対象としており、音楽や写真などの創作物から教育資源、科学研究まで幅広く及んでいる。
CCライセンスの最も顕著な例は、おそらくウィキペディアだろう。Flickr、YouTube、VimeoなどのプラットフォームはいずれもCCライセンスの利用を支援しており、アラブのテレビ局アルジャジーラ、政府のデータアーカイブ、学術界、多くの出版社も同様だ。。
トゥマドッティル氏によると、その根底には、CCの発足以来息づく互恵性がある。それは一対一の交換を超えた理念だ。
人類が皆、恩恵を受けられる共有の作品群があるのです。
――アンナ・トゥマドッティル、クリエイティブ・コモンズCEO
アンナ・トゥマドッティル、クリエイティブ・コモンズCEO
AIはクリエイティブ・コモンズの利用にどのような影響を与えているのか?
AIの登場により、この互恵的な関係とそれを支える社会的な合意が、ますます脅かされているとトゥマドッティル氏は警鐘を鳴らした。
「コモンズから不均衡な恩恵が生じることは、以前からありました。ウェブの大規模なクロールや、AIモデルの訓練にウェブコンテンツを利用することで、それが大幅に加速しています。」
AIプラットフォームは、訓練用にも回答生成用にも、インターネット全体から膨大な量のコンテンツをクロールして収集する。その結果、クレジット表示と互恵性は後回しにされている。最低限の互恵性としてリンク経由でサイトにトラフィックを送る場合でも、またリンクが示されている場合でも、利用者は必ずしもリンク先をたどらなくても答えを得られる。
組織や個人が創作物や独自の研究を生み出すために多大な時間と労力を費やしても、出典へのリンクがないままAIにコンテンツを収集されることで、出典表示、報酬、見返りとなる取り決めが得られないリスクがある。これまでに、著作権侵害を理由とする50件を超える訴訟が提起されている。
生成AI時代に、互恵性をどう取り戻せるのか?
トゥマドッティル氏は、創作コミュニティがオープン性を価値観および進むべき方向性として受け入れてきた経緯を説明した。しかし、AIがその力学を変えた。
「AIの登場に加え、自分の作品の使われ方に対する制作者の主体性や管理権が弱まったことで、このオープン性が共有のあり方として今も適切なのか、それともオープン性の定義を集団で協力して見直す必要があるのか、という問いが生まれました」とトゥマドッティル氏は語った。
同氏は、恩恵を受けてきたオープンなコミュニティやエコシステムに組織が還元することを前提とした、倫理的なAI利用、あるいは公共の利益に資するAI利用に解決策があると考えている。
「大手テクノロジー企業で、コモンズを使って訓練した結果、多額の収益を得ているなら、そのエコシステムにどう還元できるかを検討していただきたい、というのが私たちの強い希望です。根本的に、このイノベーションとテクノロジーは、そのエコシステムの上に成り立っているからです」とトゥマドッティル氏は語った。
これに沿って、世界経済フォーラムの最近の報告書「責任あるAIイノベーションの推進:実践ガイド」は、世界の組織における責任あるAIの成熟度が依然として初期段階にあり、運用可能な枠組みを全面的に整備している組織は1%未満であると指摘している。同報告書は、AIバリューチェーン全体にわたる知的財産の保護を含め、透明性、説明責任、協働、互恵性を確保する倫理的なAIイノベーションを推進するための、9つの戦略的な「実践項目」を示している。
生成AIが創造性の共有や評価のあり方を変えるなか、私たちは選択を迫られている。イノベーションが倫理を追い越すのを許すのか、それとも創造を可能にする制作者を尊重する仕組みを築くのか。CCの互恵性の理念は、オープン性、公平性、敬意に根ざした次の時代への力強い指針となる。イノベーションのあらゆる段階に責任あるAIの実践と透明性の高いデータガバナンスを組み込むことで、組織はテクノロジーが私たちの創造性を消し去るのではなく、強めることを確かなものにできる。


