人工知能は変革をもたらすと期待されていますが、その未来を予測するのは容易ではなく、複数の道筋をたどる可能性があります。
雇用の代替から生産性、エネルギー需要から若者への普及まで、AIの影響には数多くの矛盾やパラドックスがあります。
期待が現実を大きく先行するなか、この技術の未来は、技術的要因、地経学的要因、市場要因と同じほど、人間ならではの特性や人間の主体性に左右されるかもしれません。
2025年がAIへの期待が高まった年だったとすれば、2026年はAIの実力が問われる年になるかもしれません。
AIの強力な能力は、医療や製造業などですでに進歩を促していますが、一部の分野では、投資収益はまちまちで、将来の利益も確実ではありません。
その一方で、AIがもたらす変革の可能性は大きいものの、その導入は現実世界でのトレードオフに左右されます。社会的不平等の拡大、エネルギー需要の急増、雇用市場の変化といった重大な課題から、人類の存続に関わる課題までさまざまです。
AIバブルをめぐる議論が盛んになるなか、世界は不安を抱きながら世界経済の動向を見守っています。AIインフラへの支出は前例のない規模に達していますが、AIを導入し、AI競争で先行しようという意欲は、2026年に向けてほぼ世界共通の優先課題であり続けています。
技術が急速に進化し、既存の産業を揺るがし、新たなビジネスモデルを生み出すなか、多くの専門家は、長期的な利益をもたらすシステムに注力するよう呼びかけています。ただし、対立的な地政学的状況のもとでは、これを世界規模で実現するのは困難です。
AIの普及に伴い表面化している5つの矛盾、あるいはパラドックスを紹介します。そこから見えてくるのは、技術そのものよりも、それを使い、開発する人間ならではの特性かもしれません。
1. AIは私たちの仕事を奪うのか、それとも新たな仕事を生み出すのか?
世界経済フォーラムの「2025年版・仕事の未来レポート」 は、新たな職種への需要が高まっていることを示しています。その多くは、人間に固有のスキルを必要とします。少なくとも現時点では、経済成長には、人間ならではの斬新なアイデアが依然として必要なようです。
雇用主が最も求める中核スキルは分析的思考で、企業の10社中7社が必須と考えています。次いで、レジリエンス、柔軟性、俊敏性に加え、リーダーシップや社会的影響力が挙げられます。
このレポートは、世界を代表する雇用主1,000社超を対象とした調査に基づいています。2025年から2030年の間に、1億7,000万の新たな職種が生まれ、9,200万の職種が失われると見込まれ、雇用は差し引き7,800万人増加するとしています。
一方、雇用主の半数はAIに対応して事業の方向転換を計画し、3分の2は特定のAIスキルを持つ人材の採用を計画しています。また、40%はAIが業務を自動化できる分野で人員削減を見込んでいます。
今後5年間で、現在の仕事で必要とされるスキルの約5分の2が変化すると予測されています。予想どおり、技術関連の職種は最も急速に増加している職種の一つであり、AIの運用を指揮、監督、評価するスキルへの需要も高まる見込みです。
同様に、農業従事者、配達員、建設作業員、看護師、教師、ソーシャルワーカーなど、現場を支える職種も大幅な増加が見込まれています。
最近発表された別の論文、「明日の仕事:テクノロジーと世界最大の労働力の未来」は、産業ごとの違いを強調しています。自動化される仕事がある一方で、特に複雑な問題解決力、対人スキル、創造性を要する仕事は、AIによって能力が強化されます。
したがって、意外にも、AIの導入が進むにつれ、人間中心のスキルへの需要が高まる可能性があります。スキルの需給ギャップを埋め、縮小する職種から成長する職種へ移行することが、成長と雇用の見通しにとって不可欠です。
2. AIによる生産性向上は仕事を増やすのか?
AIが急速に進化していることを考えれば、その恩恵も同じ速さで実感できると期待するのはもっともでしょう。しかし、MITスローンによると、AIを導入した製造企業では、当初、生産性が低下することが少なくありません。
これは生産性のパラドックスとして知られています。米国の製造企業におけるAI導入の調査では、AI導入によって測定可能な業績低下が一時的に生じることが多いと分かりました。しかし、その後、長期的にはより良好な事業成果につながります。
この「AI導入のJカーブ」は、データインフラへの投資、研修、業務プロセスの再設計をめぐり、デジタルツールと従来のプロセスがかみ合わないことで生じます。
このパラドックスの一因は、AIの導入方法にあるかもしれません。AIエージェントはシステムをまたいで作業を計画、調整し、完成したように見える成果物を作成できます。しかし、フォーラムのレポート「実践で活用するAIエージェント」 が指摘するように、 導入後も継続的な評価、監視、人間による監督が必要です。
その結果、エージェントは作業を加速させる一方で、AIが生成した成果物が実際に信頼できるものかを確認するための労力を増やす可能性もあります。
しかし、長期的には、AIを導入した組織は、導入していない同業組織を生産性と市場シェアの両面で上回る傾向があると、MITスローンの調査は明らかにしました。
知識集約型産業の見通しは一筋縄ではいきません。労働者にはAIの活用が奨励されていますが、MITメディアラボの最近のレポートによると、組織の95%は測定可能な収益を得られていません。さらに、一部の労働者はAIが「ワークスロップ」を生み出していると述べています。質の低いAI生成の成果物は、不要な追加作業を招きます。
ただし、最近のマッキンゼーの調査によると、ほとんどの組織ではAIの利用はなお試験段階にあり、具体的な成果につながる形で技術を拡大できていない企業も多くあります。AI活用で先行する企業は効果を報告しています。したがって、結論はまだ出ていません。
3. 「AIスロップ」によって、人間が作ったコンテンツの価値は高まるのか?
大規模言語モデルは急速に進歩し、人間が作ったものとほとんど見分けがつかない文章を作成できるようになりました。生成AIツールは今や、簡単な指示だけで、非常にリアルな音声、画像、動画を作成できます。
同時に、オンライン上のAI生成コンテンツは爆発的に増えています。一部の推計では、AIが生成した記事の数は、人間が書いた記事の数を上回ったとされています。
最悪のケースを免れたとしても、無難で平凡なコンテンツ、いわゆる「AIスロップ」が大量に生まれるでしょう。最悪の場合、虚偽または誤解を招くコンテンツが急増します。たとえば、コンテンツプラットフォームで共有されるディープフェイクは、2025年に800万件に達すると予測されており、2023年の50万件から1,500%増加します。
世界経済フォーラムの2025年版「世界のリスクトップ項目」に挙げられた偽情報や誤情報は、同フォーラムの2025年版「グローバルリスク報告書」によると、真実の情報との見分けがますます難しくなっています。ある調査では、TikTokで主要なニュースを検索した際、動画のほぼ20%に誤情報が含まれていました。また、人間が高品質のディープフェイク動画を見破れるのは、4回に1回程度にすぎません。
真実と虚偽の境界が曖昧になり続けるなか、人々はあらゆるものを偽物として扱い始めるかもしれないと指摘する論者もいます。その結果、真正で透明性が高く、正確なメディアの価値が高まるでしょうか。情報空間がAIスロップであふれるなか、信頼できる個人やプラットフォームが人間の手で作ったコンテンツの価値が上がる可能性はあるでしょうか。
フォーラムの最近の論文、 「介入への道のり:効果的なデジタル安全対策のロードマップ」は、オンライン上の信頼は自動的に生まれるのではなく、築き、強化しなければならないと明示しています。つまり、真正性、説明責任、人間による監督を明確に示すことが、信頼できる情報を際立たせる鍵になるかもしれません。
4. AI世代は失われた世代になるのか?
デジタルネイティブであっても、若者とAIの関係は複雑です。
Z世代の多くがこの技術を利用しており、米国のある調査では47%が生成AIを毎週使うと回答しました。一方、41%はこの技術に不安を感じ、ほぼ半数は批判的に考える力が損なわれることを懸念しています。
その懸念は現実となるかもしれません。最近のMITの調査は、AIへの過度な依存による弊害として、「脳活動の低下、記憶の定着の弱まり、独創的思考の減少」を挙げています。
この技術が自分たちにもたらす恩恵を理解している若者もいますが、利用が地球に及ぼす影響を懸念しています。AIインフラに必要な水やエネルギーの使用に加え、重要鉱物の採掘が及ぼす影響も心配されています。
最近の論文、「新しい経済に必要なスキル:成長に向けたAI、データ、デジタル能力の構築」は、Z世代にとっての労働市場への影響を明らかにしています。かつて若年労働者の入り口となっていた職種の多くは、自動化やAI搭載ツールによって再編されたり、縮小したりしています。一方、成長している職種では、最初から経験、デジタル活用能力、専門スキルが求められることが少なくありません。
若者は、よくある板挟みに置かれています。「AI対応済み」で職場に来ることを期待される一方、仕事を通じて学ぶ機会は減っています。質の高い教育や研修、雇用主の支援を受けられない人にとって、リスクはAIへの不安にとどまらず、安定して意義のある仕事に就く道が狭まることにもあります。
これと並行する変化として、単に作業を支援するだけでなく、ワークフロー全体を計画、調整し、実行するAIエージェントの台頭があります。フォーラムの「実践で活用するAIエージェント」レポートが指摘するように、こうしたシステムは、固定的なツールというより、人間の意思決定者にますます似てきています。
また、より多くのエージェントが仕事を担うようになれば、かつて初級職の労働者が担っていた仕事を通じて身につけてきた判断力、文脈を理解する力、自信を、若者がどのように培うのかが問われます。
認知面のリスクや就職の見通しにとどまらず、私生活でも、一部のZ世代は感情と向き合うためにAIを頼り、意思決定や人間関係の取捨選択にも使っているようです。それが必ずしも本人のためになるとは限りません。
5. AI向けのソリューションはAIのエネルギー需要を満たせるのか?
AIのエネルギー消費は、重大な課題です。2035年までに、米国だけでもデータセンターが総電力消費量の8.6%を占める可能性があり、現在の割合の2倍を超える見込みです。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のデータセンターは2024年に約415TWhを消費し、2030年までにその消費量は2倍を超えると予測されています。
しかし、エネルギー分野におけるAIの役割は、増加する電力需要にとどまりません。
AIはシステムの知能層として機能し、再生可能エネルギーの発電予測、電力網の需給調整、予知保全を改善できます。また、建物のエネルギー効率を最適化し、太陽光や風力の出力変動に応じる柔軟な需要を可能にします。
パラドックスは、AIが電力消費を増やすだけでなく、より適応力、レジリエンス、公平性の高いエネルギーシステムの構築に役立つ可能性があることです。AIの成長は、テクノロジー企業がクリーンで安定した電力に投資する動機にもなっています。
COP30での「二重の移行」(デジタル変革とエネルギー移行を結びつけること)をめぐる議論では、AIの成長は自らの電力需要を満たすだけでなく、クリーンエネルギーの大規模な導入を加速させなければならないと確認されました。
AIやデータセンターのインフラへの投資は、再生可能エネルギー、電力網のレジリエンス、公平なアクセスを支え、独立した分断型のエネルギー需要を生むことなく、より広範なエネルギーシステムを強化する可能性もあります。
フォーラムのレポート「パラドックスから進歩へ:AIのエネルギー収支をプラスにする枠組み」は、AIのエネルギー影響への対処はもはや将来の課題ではなく、「今まさに求められるイノベーションの必須課題」だと述べています。
このレポートは、政策立案者やテクノロジー企業の経営幹部が、AIの成長をエネルギー、経済、気候の目標と整合させるための枠組みを提示しています。
そうすることで、組織はAIのエネルギー収支をプラスにする取り組みを加速し、責任ある設計を競争上の優位性にできると、レポートは述べています。



