なぜ私たちはこれほど多くの言語を話すのか、ご存じですか?

Neth Pheaktra, Press Officer at the Extraordinary Chambers in the Courts of Cambodia (ECCC) speaks as people attend the closing statement in case 002/02 against former Khmer Rouge leaders Nuon Chea and Khieu Samphan, on the outskirts of Phnom Penh, Cambodia, June 23, 2017. REUTERS/Samrang Pring - RTS18AIJ
The 7,000 languages are not spread randomly across the planet, with New Guinea having over 900 languagesImage: REUTERS/Samrang Pring
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茅葺き屋根は太陽光を遮っていましたが、熱帯の暑さまでは防げませんでした。研究ワークショップに参加していた人々が休憩のため外に出ると、小さなグループに分かれ、ヤシの木陰に集まってそよ風を楽しみました。私はグループからグループへと歩き回り、話し合いに加わりました。そのたびに、会話の言語が先住民の言語から、私にも理解できると彼らが知っているビスラマ語や英語に切り替わることに気づきました。参加者がいとも簡単に言語を切り替えることに驚きましたが、先住民の言語がこれほど多いことには、さらに驚かされました。

南太平洋のこの島で開かれたワークショップには30人が集まり、私以外は全員、バヌアツという国にあるマケルア島の出身でした。彼らは16の異なる地域社会に暮らし、16の別々の言語を話していました。

多くの場合、ある村の端に立てば、隣の地域社会のはずれが見えるほどでした。それでも各村の住民は、まったく異なる言語を話していました。マックス・プランク人類史科学研究所の同僚たちによる最近の研究によれば、長さわずか100キロ、幅20キロのこの島には、おそらく40もの異なる先住民言語を話す人々が暮らしています。なぜこれほど多いのでしょうか?

この問いは、地球全体についても投げかけることができます。人々は、世界共通語を一つだけ話しているわけでも、ほんの数言語を話しているわけでもありません。むしろ今日、人類は全体として7,000を超える異なる言語を話しています。

こうした言語は地球上に無作為に分布しているわけではありません。たとえば、はるかに多くの言語が温帯地域より熱帯地域で見られます。熱帯にあるニューギニア島には900を超える言語があります。面積がその20倍のロシアには、先住民の言語が105あります。熱帯地域の中でも、言語の多様性には大きな差があります。たとえば、バヌアツの80の島々に暮らす25万人は110の異なる言語を話しますが、人口がその600倍のバングラデシュで話されている言語は41にすぎません。なぜ人類はこれほど多くの言語を話すのでしょうか。そして、なぜそれらは地球上にこれほど偏って分布しているのでしょうか。実のところ、人類がどのように意思疎通をしているかという、こうした根本的な問いに対する明確な答えはほとんどありません。

仮説はあるが、証拠は乏しい

多くの人は、こうした興味深い問いに対する答えを簡単に思いつくでしょう。言語の多様性は歴史や文化の違い、山や海による人々の分断、あるいは昔のいさかいが大きく影響したに違いない、と考えるかもしれません。「相手を憎んでいたから、話しかけないことにした」というように。

この問いは、言語学、人類学、人文地理学など、多くの学問分野の根本に関わるものに思えます。しかし2010年、多様な専門性を持つ私たちのチームが、6つの異なる分野、8か国から集まった研究者とともに、既知の知見を検討し始めたとき、先行研究がわずか12件しかないことに驚きました。その中には、私たち自身が行った太平洋地域における言語の多様性に関する研究も含まれていました。

これらの先行研究は、いずれも、環境・社会・地理に関するさまざまな変数が、特定の場所で見られる言語の数とどの程度相関しているかを調べていました。結果は研究ごとに大きく異なり、明確なパターンは見いだされませんでした。また研究には多くの方法論上の課題があり、最大の課題は「相関関係は因果関係を意味しない」という古くからの統計学の格言に関わるものでした。

私たちは、ある場所では多くの言語が生まれ、別の場所ではわずかな言語しか生まれなかった、その具体的な過程を知りたいと考えました。しかし、これまでの研究には関係する具体的な過程についての確かな理論がほとんどなく、用いられた手法も、言語の多様性のパターンが生じる原因の理解に近づくものではありませんでした。

たとえば、先行研究では、低緯度地域では高緯度地域よりも狭い範囲で言語が話されることが多いと指摘されています。赤道に近づくほど、一定の面積の中により多くの言語が存在し得ます。しかし、この結果だけでは、言語の多様性を生み出す過程についてあまり分かりません。人々の集団が地図上の仮想の緯度線を越えたからといって、自動的に二つの異なる集団に分かれ、それぞれが別の言語を話すようになるわけではありません。緯度は言語の多様性と相関しているかもしれませんが、それを生み出したわけではありません。

単純なモデルで現実を予測できるか?

特定のパターンの原因を見極めるには、それを生み出していると考えられる過程をシミュレーションするほうが有効です。モデルの結果が、私たちが知る現実に近いほど、実際に作用している過程を理解している可能性は高まります。

私たちのグループのメンバーである生態学者のチアゴ・ランゲルとロバート・コルウェルは、シミュレーション・モデリング手法を開発し、種の多様性のパターンに関する研究に用いていました。しかし、この手法を人類集団の多様性の研究に使った人は、それまでいませんでした。

私たちはその可能性を探ることにし、まず単純なモデルを構築しました。地球の一地域、オーストラリア大陸における言語の多様性のパターンを、いくつかの基本的な過程でどこまで説明できるかを検証するためです。

Image: 全米科学財団

同僚のクレア・バウエルンは、イェール大学の言語学者です。彼女は、ヨーロッパ人との接触以前にオーストラリアで見られた先住民言語の多様性を示す地図を作成しました。その数は合計406言語でした。北部や沿岸部にははるかに多くの言語があり、砂漠の内陸部には比較的少数しかありませんでした。単純な過程の組み合わせに基づくモデルが、この言語の多様性の地理的パターンをどこまで再現できるかを、私たちは確かめたいと考えました。

私たちのシミュレーションモデルには、基本的な仮定が三つだけありました。第一に、集団は、ほかに誰も住んでいない空間を埋めるように移動します。

第二に、降雨量によって、ある場所に暮らせる人の数が制限されます。モデルでは、雨が多い地域ほど人口密度が高くなると仮定しました。オーストラリアの年間降水量には大きな地域差があり、北東部の熱帯雨林では3メートルを超える一方、アウトバックでは10分の1メートルです。

第三に、人類集団には最大規模があると仮定しました。理想的な集団の規模は、集団が大きいことの利点(配偶者候補の選択肢が広がること)と、負担(血縁関係のない人々を把握すること)との兼ね合いで決まります。モデルでは、集団が最大閾値を超えると、二つの集団に分裂し、それぞれが異なる言語を話すとしました。この閾値は、狩猟採集民の集団規模に関する世界的な分布に基づいて、無作為に設定しました。

このモデルを使って、オーストラリアの言語多様性の地図をシミュレーションしました。各反復では、地図上のどこかに初期集団が無作為に生まれ、成長し始めて、無作為な方向へ広がっていきます。基礎となる降雨量の地図が人口密度を決め、人口があらかじめ定めた最大規模に達すると、集団は分裂しました。このように、シミュレーション上の人類集団は、オーストラリア大陸全体を埋めるように広がりながら、成長し、分裂していきました。

私たちの単純なモデルには、集団間の接触、生活の糧を得る方法の変化、近隣集団から文化的な考えや言語の要素を借用する影響など、ほかにも考えられる多くの過程が含まれていませんでした。そのため、まったくうまくいかないだろうと予想していました。

驚くべきことに、モデルは407の言語を生み出しました。実際の数との差はわずか一つでした。

Image: DOI

シミュレーションによる言語地図でも、北部や沿岸部にはより多くの言語があり、オーストラリア中部の乾燥地域には少なく、観測された言語の多様性の地理的パターンが再現されました。

このことから、オーストラリア大陸では、降雨量が人口密度に課す制約と集団規模の上限という少数の要因が、言語の数と、場所によって話される言語数が異なることのかなりの部分を説明し得ると考えられます。

Image: DOI

モデルを他の地域に適用する

しかし、他の地域における言語多様性のパターンは、異なる要因や過程によって形作られている可能性があります。バヌアツなどの地域では、オーストラリアほど降雨量に大きな差がなく、人口密度はほかの環境条件によって左右されているかもしれません。

別のケースでは、人類集団間の接触が言語の多様性の様相を変えたと考えられます。たとえば、農耕集団の拡大によって、インド・ヨーロッパ語族やバントゥー語を話す集団が広がり、それぞれヨーロッパとアフリカの広大な地域で、人口集団の構成や話される言語が変化した可能性があります。

地球規模で見られる言語の多様性のパターンには、間違いなく、さまざまな社会的・環境的要因や過程が関与しています。場所によっては地形や気候、重要な天然資源の密度がより大きな意味を持ち、別の場所では戦争の歴史や政治組織、異なる集団の生計手段が、集団の境界や言語の多様性のパターンを形作るうえで、より大きな役割を果たしているかもしれません。現時点で私たちが確立したのは、それぞれの場所で作用している異なる過程を明らかにするために使える手法のひな型です。

言語の多様性は、人類集団間の交流や人類の歴史を形作るうえで重要な役割を果たしてきました。それにもかかわらず、この多様性を形作る要因について、私たちは驚くほど多くを知りません。ほかの科学者たちも、私たちの研究グループと同じように言語の多様性の地理に関心を持ち、人類がなぜこれほど多くの言語を話すのかを解明する探究に加わってくれることを願っています。

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