より幸福な記憶を思い出すことで、うつ病を回復させられる可能性

より幸福な記憶を思い出すことで、うつ病を回復させられる可能性
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MITの神経科学者らは、うつ病の発症前に形成された楽しい記憶を人工的に再活性化することで、マウスのうつ病の症状を治せることを示した。

6月18日付の『Nature』誌に掲載されたこの研究成果は、うつ病患者に楽しかった経験を思い出すよう促す心理療法が効果を上げる理由について、説明の可能性を示している。また、記憶が保存されている脳細胞を操作することで、うつ病を治療する新たな方法につながる可能性も示唆している。研究者らは、脳全体に作用する既存の抗うつ薬の大半に比べ、こうした標的を絞ったアプローチなら副作用が少ない可能性があると考えている。

「記憶回路のうち、うまく機能していない、あるいは活性を高めれば有益な結果をもたらす特定の部位を特定できれば、薬を投与して脳のあらゆる場所で作用させるのではなく、回路の特定部分に改善の標的を絞る新たな医療技術を考案できる可能性があります」と、論文の責任著者であるススム・トネガワ氏は述べる。同氏は、MITピコワー学習・記憶研究所の生物学・神経科学ピコワー教授であり、同研究所にあるRIKEN-MIT神経回路遺伝学センターの所長を務める。

この種の介入は、まだ人間には実施できないものの、「この種の分析によって、特定の疾患の標的をどこに定めるべきかが分かります」とトネガワ氏は付け加える。

大学院生のスティーブ・ラミレス氏が論文の筆頭著者である。

記憶の制御

2012年、トネガワ氏、当時MITの博士研究員だったシュー・リウ氏、ラミレス氏らは、特定の記憶を保存する脳細胞の集団に目印を付け、再活性化できることを初めて報告した。彼らはこれをエングラムと呼んだ。その後、研究者らは 誤った記憶を植え付けられること、また 特定の記憶に結びついた感情を肯定的なものから否定的なものへ、またはその逆へと 切り替えられる ことを示した。

今回の研究で研究者らは、既存の記憶を再活性化する能力を、うつ病の治療に応用できるかどうかを明らかにしようとした。

そのため研究者らは、まずマウスに楽しい経験をさせた。この実験では、すべて雄のマウスを用い、雌のマウスと一緒に過ごすことを楽しい経験とした。その間、記憶エングラムを符号化する海馬の細胞に、青色光に反応してニューロンを活性化させる光感受性タンパク質を標識した。

肯定的な記憶が形成された後、研究者らはマウスを慢性的なストレスにさらし、うつ病に似た症状を引き起こした。こうしたマウスは、困難な状況に直面するとすぐに諦めたり、通常なら楽しい活動から喜びを感じられなくなったりするなど、人間のうつ病患者に見られる症状に似た行動を示す。

しかし、そうした症状を調べるために設計された状況にマウスを置いたところ、過去に楽しかった経験の記憶を保存するニューロンを再活性化すれば、症状を大幅に改善できることが分かった。そのマウスは、うつ病になったことのないマウスと同じように行動し始めた。ただし、それは楽しい記憶が活性化されている間に限られた。

別の一連の実験では、マウスにうつ病様行動の検査を行う前に、肯定的な記憶を担う細胞を1日2回、各15分間、5日間にわたって再活性化すると、より長く続く改善が得られることが分かった。今回は検査中に記憶を再活性化しなかったが、マウスはうつ病になったことのないマウスと同じように行動した。

研究者らは、記憶を繰り返し活性化すると、海馬の歯状回と呼ばれる部位で新しい脳細胞の形成が促されることを発見した。行動検査中の短時間の活性化では、これは起こらなかった。その代わり、うつ病様行動は、海馬、扁桃体、側坐核にあるエングラム細胞を結ぶ回路の活性化によって克服された。

「脳の力を活用する」

興味深いことに、マウスがうつ病になった後に楽しい経験をさせても、古い記憶を再活性化した場合ほど症状は改善しないことが分かった。

「うつ病に苦しむ人たちの脳には、そうした肯定的な経験があります。しかし、それを思い出すために必要な脳の仕組みが壊れているのです。私たちがマウスで行っているのは、その回路を迂回して、再び動き出すよう強制することです」とラミレス氏は言う。「脳の内側にある力を活用し、肯定的な記憶を強制的に活性化しています。一方、人や動物に自然な肯定的経験を与えても、うつ病があると、その経験に喜びを見いだせなくなります。」

この研究は、うつ病患者の一部に心理療法が効果を発揮する理由について、科学的な説明の可能性を示しているとトネガワ氏は述べる。「何らかの形で、このうつ病の状態が肯定的な経験を思い出す能力を抑えています。精神科医が行っているのは、それを乗り越えられるようにし、患者がそうした記憶を思い出す手助けをすることです」と同氏は言う。

マウスの神経回路を操作する研究と、現在人間に用いられている治療法との関連性があることから、この研究成果は特に興味深いと、米国国立精神衛生研究所の所長トム・インゼル氏は述べる。

「これは、うつ病のような深刻な病気の根底にある回路だけでなく、治療の基盤となる回路を理解するうえでも、大きな前進です」と、研究に関与していないインゼル氏は述べる。

研究者らによると、この研究成果は、新しい種類のうつ病治療を開発するための新たなアプローチにつながる可能性もある。科学者が特定の脳回路を非侵襲的に刺激する方法を開発できれば、光遺伝学を用いた今回の研究で見られたのと同じ効果を得られるかもしれない。その方法の一つとして、より標的を絞った脳深部刺激法が考えられる。この治療法では、脳の特定部位に電気刺激を送る脳ペースメーカーを埋め込む。脳深部刺激法は、パーキンソン病、うつ病、強迫性障害などの治療に用いられることがある。

「脳深部刺激法の問題は、精度が粗く、脳の広い範囲を活性化してしまうことです」とラミレス氏は言う。「将来的に、脳深部刺激の標的を脳の領域ではなく、肯定的な記憶を保持していると考えられる特定の細胞群に絞ることができれば、新たな治療の道が開けるでしょう。」

この記事は、 MIT Newsとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムによる見解への賛同を意味するものではありません。

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著者:アン・トラフトンはMIT Newsに記事を執筆している。

画像:アーティスト、オラファー・エリアソンによる太陽の巨大な表現作品。ロンドンのテート・モダンのタービン・ホールで開催された「ウェザー・プロジェクト」の一部。REUTERS/Peter MacDiarmid

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