研究者らは、曲げたり押したりすると少量の電力を生み出す超薄型エネルギー回収システムを開発した。人の動きに特徴的な非常に低い周波数でも発電できる。
このデバイスにより、動きを利用してエネルギーを生み出し、その電力で携帯電話やその他の小型電子機器を充電する衣服が実現する可能性がある。
人間が「充電拠点」に
「将来は、私たちが皆、自分の動きや周囲の環境から直接エネルギーを取り込んで、個人用デバイスの充電拠点になると期待しています」と、研究を率いたヴァンダービルト大学機械工学科の助教、ケアリー・ピントは語る。
「ウサイン・ボルトを見れば、地球上で最も速い男だと思うでしょう。私には、5ヘルツで動く機械に見えます。」
「外骨格やスマート衣料などのウェアラブル機器が広がるなか、時宜にかなった刺激的な研究です。ピント博士の材料研究とエネルギー回収の進歩は、こうした機器に役立つ可能性があります」と、デバイス開発には参加していない、歩行の生体力学を専門とする機械・生体医工学科の助教、カール・ゼリックは述べる。
現在、多くの研究が、周囲に存在するエネルギー源を効果的に利用する方法を探っている。振動や変形からエネルギーを取り出す機械デバイス、温度変化からエネルギーを得る熱デバイス、光や電波などの放射からエネルギーを取り込む放射エネルギーデバイス、生化学反応を利用する電気化学デバイスなどがある。
「人の動きからエネルギーを回収する他の方法と比べて、私たちの手法には根本的な利点が2つあります」とピントは言う。「材料は原子レベルの薄さで、布地の見た目や手触りを損なわずに織物へ組み込めるほど小さく、10ヘルツ(毎秒10サイクル)より遅い動きからも、人の動きに当たる低周波数帯全体にわたってエネルギーを取り出せます。」
「ウサイン・ボルトを見れば、地球上で最も速い男だと思うでしょう。私には、5ヘルツで動く機械に見えます」と、デバイスの製作と試験を共同で主導した博士課程の学生、ニティン・ムラリダランは語る。
このような低周波の動きから利用可能なエネルギーを取り出すことは、非常に難しいことが分かっている。複数の研究グループが、機械的ひずみを電気に変換する圧電材料を用いたエネルギー回収装置を開発している。
しかし、こうした材料は多くの場合、100ヘルツを超える周波数で最もよく機能する。そのため、人の動きのごく一部でしか作動せず、最適な条件下でも効率は5~10%未満にとどまる。
「理想的なデバイス構成なら、私たちの回収装置は25%を超える効率で動作すると計算されています。最も重要なのは、座る、立つといったゆっくりした動きでも、その全時間にわたってエネルギーを回収できることです」とピントは言う。
何度でも挑戦
研究室の超薄型エネルギー回収装置は、同グループによる先進的な電池システムの研究を基盤としている。
この3年間、チームは電池材料が曲げや伸長にどう反応するかを基礎から調べてきた。電池材料に応力を加えると動作電圧が変化することを、実験で初めて実証した。引張時には電圧が上がり、圧縮時には下がる。
チームは機械工学科准教授のグレッグ・ウォーカーと協力した。ウォーカーはコンピューターモデルを使い、リチウム電池材料についてこれらの観察結果を検証した。この研究の成果は学術誌「ACS Nano」に掲載された。
こうした観察結果を受け、ピントのチームは正極と負極の両方を同じ材料で作るよう電池を再設計した。
…技術者は、用途に応じてデバイスを必要な薄さにも厚さにもできる…
これによりデバイスはエネルギーを蓄えられなくなるが、曲げやねじりによる電圧変化を最大限に利用できる。その結果、人の動きに応じて相当量の電流を生み出せる。
研究室の初期の研究成果は2016年に発表された。さらに、マサチューセッツ工科大学のグループによる、これと並行した画期的な研究にも着想を得た。同グループは、ピントらが調べていた効果を利用してエネルギーを回収する、シリコンとリチウム製の切手大のデバイスを作製した。
これを受け、研究者らは黒リンのナノシートを使って、可能な限り薄くすることにした。黒リンは、優れた電気的、光学的、電気化学的特性を備え、二次元材料研究の分野で最近注目を集めている材料だ。
エネルギー回収装置の基本構成要素は人の髪の毛の約1/5000の厚さしかないため、技術者は用途に応じてデバイスを必要な薄さにも厚さにもできる。
試作デバイスを曲げると、1平方フィートあたり最大40マイクロワットを発電できることが分かった。また、0.01ヘルツ、つまり100秒に1サイクルという非常にゆっくりした動きでも、その全時間にわたって発電を続けられる。
研究者らは、デバイスが生み出す電圧が比較的低いことを課題の一つとして認めている。ミリボルトの範囲だ。しかし、プロセスに関する基礎的な知見を応用し、電圧を高めようとしている。
また、液晶ディスプレイなど、通常より低い電圧で動作する電気部品の設計も検討している。
「論文の査読者の一人から、安全性について質問がありました」とピントは言う。「ここでは問題になりません。
「通常、電池は正極と負極が短絡して電解質に着火すると発火します。この回収装置は同一の電極を2つ備えているため、短絡してもエネルギー回収が妨げられるだけです。試作品を火炎放射器の炎にさらせば発火するのは確かですが、固体電解質を使えばこの懸念さえ解消できます。」
未来を考える
この技術の未来的な用途の一つに、電気を使う衣服が考えられる。液晶ディスプレイを組み込んだ衣服に電力を供給し、着用者がスマートフォンをひと撫でするだけで色や模様を変えられるようになるかもしれない。
「この技術には多くの可能性があります…」
「衣服の厚さや面積に合わせて性能を換算すると、すでに中型の低消費電力液晶ディスプレイに必要な電力に近い性能を測定しています」とピントは言う。
ピントはまた、このデバイスには電力システム以外にも応用の可能性があると考えている。
「衣服に組み込めば、このデバイスは人の動きを高感度の電気信号に変換し、動きの記録を残せる可能性があります。あるいは、三次元で動きを追跡する衣服を、仮想現実技術と統合することもできます。この技術には多くの可能性があります」と彼は語る。
研究者らは、新たなエネルギー回収システムについて学術誌「ACS Energy Letters」で説明している。


