研究資金のあり方を変えなければ、新薬が尽きるおそれがある

A researcher uses a pipette to develop assay to detect specific gene of corn at a lab in Syngenta Biotech Center in Beijing, China, February 19, 2016.
Image: REUTERS/Kim Kyung-Hoon
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マリア・エレナ・トレス=パディージャ教授は、ヘルムホルツ・ミュンヘンのエピジェネティクス・幹細胞研究所所長を務め、受精後の胚着床を成功させるために必要な要因の解明に取り組むチームを率いています。教授は、政策立案者、教育関係者、そして社会全体が、科学の仕組みと、科学にどう資金を提供すべきかを、より根本的に理解する必要があると考えています。ここでは、その理由と実現方法を説明します。

Q:社会が科学的プロセス、特に基礎科学の役割を理解することが重要なのはなぜですか。

A:科学研究には多大な時間と資金が必要です。社会が関与し、科学者がその資金を責任を持って使っているかを監視することが重要です。しかし、それを科学と社会の双方にとって有効なものにするには、社会が科学的プロセスを理解している必要があります。社会が科学について考えるとき、多くの場合、成果を求め、具体的な結果を期待し、病気を治す薬を望みます。それはもっともなことであり、科学者もそうした成果を重視しています。しかし忘れてはならないのは、過去100年、あるいは200年にわたり科学者が発見してきたことを活用できる時代に生きているからこそ、こうした応用につながる成果を実現できるという点です。簡単に言えば、何を標的にすべきかが分かっているから、今は薬を開発できます。そして、その知識は基礎研究、基礎科学から生まれたのです。

私の専門分野では、基礎科学は生命の根本的な仕組みを理解することを目指します。しかし基礎科学は、人文科学や宇宙研究などにおいても同様に不可欠です。研究の応用につながる部分を築くための土台と考えることができます。土台がしっかりしていれば、その上に建つものも強固になります。

この種の知識をさらに生み出すことに投資し、より多くの疾患メカニズムへの理解を深めれば、将来、新たな治療法、そして最終的には治癒法の開発につながる標的を、より多く特定できるようになります。この科学的プロセス全体を理解すれば、基礎研究と応用研究、すなわちトランスレーショナル研究が連携して初めて、恩恵を生み出せることが分かります。

基礎研究が重要であるもう一つの理由は、創薬とより深く関係しています。

がんや糖尿病を治療する薬があっても、副作用の問題がしばしば生じます。多くの場合、疾患の仕組み全体や進行、症状が実際にどう働くのかを、まだ十分に解明できていないことが原因です。それを理解する唯一の方法は基礎研究であり、これは非常に長期にわたって続くプロセスです。

Image: REUTERS/Stefan Wermuth/

Q:つまり、すぐに成果が出にくい基礎研究への資金提供が問題なのでしょうか。

そうです。ただし、問題は成果をどう定義するかに行き着きます。

現在の状況では、成果というと利益を上げることだと解釈されます。基礎研究は、すぐに利益を生むものではありません。

最終的に、大きな発見があったとき――通常は少なくとも100年ほどにわたる非常に多くの人々の研究によるものですが――それを受けて他の人々が「これは興味深い」と考え、その発見を応用につなげようとします。したがって、基礎研究と応用研究は完全に独立したものではないと理解することが重要です。両者の間に何かを行う余地を設け、人々が互いに話し合えるようにする必要があります。

科学の世界の中では、これは問題になりません。違いは障壁ではなく、技術面でも概念面でも、協力は科学において日常的に行われています。相手の国籍さえ気にしません。私たちは科学という共通の言語で話しているからです。

そしてこれは、非常に意義深いことです。共通の価値観を持ち、意思疎通を図ることで、障壁なく協力する人々のグローバルなコミュニティが生まれます。これは素晴らしいことであり、科学の世界ならではの特別なことです。

Q:では、資金はどこから調達すべきでしょうか。

資金の大半は政府から調達する必要があります。また、英国のように、慈善団体を通じて資金を得る国もあります。問題は、4年または5年の選挙周期で動く政治家が資金配分を左右する場合、その期間内に成果を示すことは到底できないということです。さらに今では、欧州や米国、そしてアジアの一部の国で、応用面への効果がある研究に資金を出すよう求める圧力が高まっています。もちろん、そうした研究を推進するのはよいことですが、より長期的な進歩を確かなものにするため、基礎研究も継続しなければなりません。

Q:変化をもたらすために重要だと思う取り組みは何ですか。

第一に、科学者自身が主体的に関わることが必要です。これは、私のように基礎研究に深く携わる人々に特に当てはまります。人々にこの課題を知ってもらうため、意見ではなく事実を伝える必要があります。科学者が自分たちの働く社会の一員だと感じられるようにし、一般の人々と対話し、自分たちの声が届いていると実感できるよう支援する必要があります。

第二に、中長期的には教育です。基礎研究が社会にもたらし得るものを一般の人々に知ってもらう必要があります。これは実に分かりやすい考え方です。研究機関や高等教育機関に加え、小学校や中学校、高校にも協力してもらい、若い世代が早い段階から科学のプロセスに触れられるようにしなければなりません。これを目指す取り組みがすでに成功している国もあります。たとえば、私が英国の子どもたちと話した経験では、英国はこうした取り組みが比較的うまくいっています。人々に知られているロールモデルも役立ちますが、本当に必要なのは、あらゆる教育段階における、より深く根付いた取り組みです。

第三に、科学者が政府内で積極的な役割を担い、政策立案者や諮問機関の間で科学への理解を深める必要があります。科学者は基礎研究の重要性を身をもって知っており、権限を持つ人々にその意義を助言できます。政府関係者と科学者の間に率直な対話を築けば、個人の政治的利益に左右されない長期的な施策を確立し、現在そして将来の社会に良い影響をもたらせます。科学者が資金を心配する負担を減らせば、最も得意とする研究に、力と創造性を注げるようになります。

最近、ほかの科学者4、5人とブリュッセルを訪れ、こうした点を伝えるため、EUの幹部職員と面会しました。すると、「いいですか、欧州は皆さんに資金を出せません。各国に戻って民間から資金を集めてきてください。そうすれば、戻ってきたときに何か支援できるかもしれません」と言われました。

一方で、これは民間部門と関わり、双方に大きな利益をもたらし得る長期的なパートナーシップを築く好機と見ることもできると思います。しかし他方では、私たちは科学者であり、自分たちの仕事――願わくば得意な仕事――をしています。その仕事とは研究です。自分で資金集めをしなければならないはずはありません。これは、フランス語で言う「冷や水を浴びせられた」ようなもので、政府が基礎研究に資金を出さない一般的な傾向を示しています。ですから、政府や政策立案者に対して積極的に働きかけると同時に、民間部門にも手を伸ばし、社会全体の関心を呼び起こすことが重要だと考えます。ただし、彼らが研究を忘れないことが何より大切です。それをおろそかにすれば、私たちの目的は果たされません。

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