米国での最近の研究では、高度人材の移民がイノベーションと特許出願活動に大きく貢献してきたことが示されている。
しかし、研究者によれば、欧州諸国のイノベーションの原動力として高度人材の移民が果たしてきた重要な役割に関するデータは乏しい。
本稿では、新たな研究の結果を解説する。この研究は、高度人材の移住が、政治的な反発を招くことなく、欧州の政策立案者が労働市場の自由化を進める助けになる可能性を示唆している。
移民は、複数の受入国で活発に議論されているテーマである(Rebelo et al. 2020)。政策および学術的な議論は、分析対象の受入国に応じて、異なる種類の移民に焦点を当ててきた。米国や、技能ポイント制を採用している国々では、高度人材の移住に関する文献は膨大であるが、欧州では議論がほぼ例外なく低技能移民と政治難民に集中してきた。それにもかかわらず、欧州は高度人材の大規模な流入を着実に受け入れており、政策論議は高等教育を受けた移民を惹きつける方向へと発展してきた(EU Blue Card Directive 2021/1883)。例えばフランスでは、高等教育を受けた移民の割合が23%であり、1995年から2010年の間に11ポイント上昇した。
最近の研究は米国に焦点を当てており、高度人材の移民がイノベーションと特許出願活動に大きく貢献してきたことを示している。Burchardi et al.(2020)は、1965年から2010年にかけての米国への移民が、人口一人当たりの特許数を追加で8%増加させたことを示している。Lincoln and Kerr(2010)は、1995年から2008年の間のH-1Bビザによる入国が米国の特許取得にどのように影響したかを検証し、H-1B受入れの増加が、現地住民の貢献を押しのけることなく、移民による直接的な貢献を通じて米国のイノベーションを押し上げたことを示している。Hunt and Gauthier-Loiselle(2010)は、米国において、科学・技術・工学・数学(STEM)分野の学位の割合は、現地住民よりも移民の方が高い傾向にあり、大卒の移民は人口一人当たりの特許数に前向きな影響を与えていることを示している。Grigsby et al.(2017)は、移住とイノベーションの関係を歴史的な観点から捉え、19世紀および20世紀において、移民の発明者が米国のイノベーションにとって中心的な重要性を持っていたことを示している。
欧州は、欧州諸国のイノベーションにおいて移民が果たしてきた重要な役割を示す逸話的な証拠が近年あるにもかかわらず、この文献においてほとんど見過ごされてきた。例えば、Pfizer社のCOVIDワクチンを開発したBioNTechの創業者ウール・シャヒンは、ドイツで暮らし働いているトルコ生まれの科学者である。同様に、光ファイバーケーブル通信の速度とコストの改善に寄与した、企業Alcatelによる被引用数の多い特許は、フランス人と移民の発明者からなるチームによって出願された。
最近の論文(Mayda at al. 2022)において、我々は欧州の文脈における移民とイノベーションの関連について企業レベルの証拠を提示する。1995年から2010年にわたるフランスの製造業企業の全体を対象とした情報を用い、フランスの地域および企業の特許取得活動に対する高度人材の移住の影響を検証する。図1は、本論文の主要な結果を要約している。それによると、フランス人口に占める高度人材の割合が上昇した1995年から2010年にかけて、フランスの製造業企業一社当たりの特許数も(11件から42件へと)増加し、特許ごとの外国人発明者数も増加した。一方で、平均的な特許取得チームの規模は安定していた(その結果、研究チームに占める外国人発明者の割合は1%未満からほぼ5%へと上昇した)。この図は、フランスの特許取得チームにおける移民発明者の割合の増加と企業のイノベーション活動との間に正の相関があることを示唆しているが、Mayda et al.(2022)では、高度人材の移住がイノベーションに与える因果的効果を推定している。
図1 製造業部門におけるより多様で生産性の高い研究チーム
我々は、1995年から2010年の期間においてフランスの地域に高度人材が流入したことが、特許数を有意に増加させたことを明らかにしている。この結果は、企業レベルで特許数を見た場合にも成り立つ。また、高度人材の移民が企業の特許取得活動に影響を与えると考えられる経路についても検証している。既存の文献の知見(移民は、同等の技能を持つ現地住民とは異なるタスクに特化する傾向があることを示したPeri and Sparber 2009)と、移民がイノベーションに与える影響の分析を組み合わせている。移民労働者と現地労働者では、異なるタスクにおける比較優位のパターンが異なるため、高度人材の流入は労働者のタスク間の再配分をもたらし、特にイノベーション活動の観点で企業の生産性を高めることを示している。この経路を通じて、より大きなイノベーションは、専門化による生産性向上の結果として生じる。
高度人材の移民によるイノベーション促進効果は、企業内でのタスクの再編成によって生じていることを示している。高度人材の現地労働者はコミュニケーション集約型の管理業務に特化する一方、高度人材の移民労働者は技術的で研究集約型の業務に特化する。現地の労働市場における高度人材移民の割合が1パーセントポイント上昇すると、フランス企業は技術集約型の職業における移民労働者数を6%増加させ、コミュニケーション集約型の職業には相対的に多くの高度人材の現地労働者を配置することがわかった。これに伴い、技術的な職業では移民と現地労働者の比率が上昇し、コミュニケーション集約型の職業では低下する。各集団の労働者は、比較優位を持つタスクへと再配分されており、これは専門化によって推進されるイノベーションプロセスの効率性がより高いことを意味する。このタスク再配分の改善の結果、企業はイノベーションの観点でより生産性が高まる。平均的な地域労働市場における高度人材移民の割合が1パーセントポイント上昇すると、企業一社当たりの特許数は平均5.2%増加し、平均的な企業では0.41件の特許増加となる(図2)。
図 2 高度人材の移民の流入により特許取得活動が正の影響を受けている
特許生産に関わる研究チームの構成を見ると、企業レベルでのタスク再配分は明らかである。我々は、高度人材の移民の外生的な流入が、外国人発明者の割合に対して正かつ有意な効果を持つことを示している。平均的な地区(すなわち、高度人材の移民労働者が平均的に存在する地域労働市場)において、高度人材の移民労働者の割合が10%増加すると、企業の研究チームにおける外国人発明者の割合が0.34~0.62パーセントポイント増加する。
本論文の中核にある、タスク特化型の比較優位の構造は、高度人材の移民が(現地住民と比べて)語学力が低いこと、あるいは直面するその他の(制度上または事実上の)制約によって生じている可能性が高い。実際、外国生まれの労働者が、コミュニケーション集約型の特定の管理職に就くことは極めて困難である可能性がある。この観点からフランスの事例は特に興味深い。というのも、教育制度(グランド・ゼコール制度を通じて)は、グランド・ゼコールに通わなかったフランス人労働者や、海外で学んだ外国人労働者などの部外者が、実際には企業内の高位の役職(すなわちカードル)に就く可能性が低くなるように設計されているからである。グランド・ゼコールの枠組み)は、部外者(グランド・ゼコールに通わなかったフランス人労働者、および海外で学んだ外国人労働者の双方)が、
高度人材の移民による特許効果はフランスに限ったものではない。最近の証拠は、我々の知見が欧州の他の受入国にも当てはまる可能性を示唆している。世界銀行による欧州への高度人材の移住に関する最近の報告書は、「高等教育を一部受けた移民と定義されるEUの高度人材移民の数は、2004年から2018年の期間に3倍以上に増加し、約400万人から1300万人になった」と示している(World Bank 2022)。同報告書はまた、欧州への高度人材移民の職業構成が、現地の高度人材とは大きく異なることも示している。フランスの場合と同様に、欧州諸国への高度人材移民は、技術的・定量的な技能を必要とする職業(すなわちICT職、ソフトウェア開発者、エンジニア、医師)に就く傾向が高い一方、現地の高度人材は、コミュニケーション集約型の職業(営業、法律・金融の専門職、教育、事務職など)に相対的に集中する傾向がある。この証拠は、イノベーションと移住の関係、およびタスク特化の経路という点において、フランスが欧州の中で孤立した事例ではないことを示唆している。
欧州への高度人材の移住が経済に与える影響については、さらなる研究が必要である。高度人材の移住は、経済的な観点で有益であるだけでなく、政治的にも実現可能であるように見えるため、この点はますます重要になっている。世論は概ね高度人材の移住に賛成している。例えば、Pew Research Centerによる12カ国(ほとんどが欧州)を対象とした2018年の調査では、イタリアとイスラエルを除くすべての国で、インタビューを受けた人の過半数が、高度技能人材の移住と自国での就労を推奨すると回答したことが示されている(インタビュー対象者は各国の全人口を代表するものであった。Connor and Ruiz 2019)。フランスでは、サンプルの68%が高度人材の移住に賛成しており、反対は31%であった。
結論として、高度人材の移住は、欧州の政策立案者にとって、政治的な反発を招くことなく労働市場の自由化を進めるための好機である。




