北米、カリブ海地域、ラテンアメリカ、南アジアで近年、壊滅的なハリケーン、洪水、山火事、地震が相次いだことを受け、自然災害への備えはかつてないほど急務となっている。推計によれば、沿岸都市の洪水被害額は2050年までに年間約1兆米ドルに達するという。自然要因による森林火災の被害額は、今年20億ドルを超えて米国の新記録を更新し、増加し続けている。
こうした緊急事態による人々の苦しみは、計り知れない。自然現象による人命や財産への脅威そのものは防げない。しかし、それが引き起こす二次的な脆弱性は大幅に軽減できる。「決断の霧」はその一つであり、緊急時に組織が連携やデータ共有をためらうことで生じる。こうした状況を続けることはできない。不作為は、回避できる苦しみを招くだけだ。
第4次産業革命のテクノロジーとシステムは、自然災害への対応に非常に強力な手段をもたらす。世界では約60億人が携帯電話を利用しており、つながった個人が、災害発生時のレジリエンス強化に最も効果的かつ効率的な手段の一つであることが実証されている。同様に、ソーシャルメディア、ドローン、衛星画像、予測分析は、近年の自然災害後の対応調整や、個人および地域社会の復旧の加速に大いに役立ってきた。

第4次産業革命のテクノロジーがもたらす好影響は、災害対応や復旧にとどまらない。災害への備えを強化することにも役立つ。テクノロジーネットワークが共通のリスク低減に貢献する方法は数多くあり、コスト削減、迅速で柔軟な対応の改善、そして前向きな成果の実現にもつながる。災害が発生する前にそうした成果を上げられる。
とりわけ、新たな「緊急時に限り開示する」官民データ共有協定を設ければ、差し迫った緊急事態に固有の要件に対応し、遅延を大幅に減らして連携を改善できる。古く、不正確で、アクセスできず、不完全なデータに基づく誤った判断は、さまざまな回避可能な被害の一因となるが、これも大幅に減らせる。
災害の複雑さに伴うリスクを軽減できる、法的な裏付けがあり信頼できる仕組みが必要だ。異常な緊急事態に平時のルールを適用すると、状況をさらに悪化させることが少なくない。
災害の発生前、発生中、発生後の連携強化と情報の不確実性の低減に大きな可能性を持つ、よく知られたルール設定型の協定の一つが「エスクロー」協定だ。第4次産業革命のツール(クラウドサービス、地理空間画像、携帯電話、デジタルプラットフォーム)は今や不可欠だが、自然災害への対応にそれらを最も効果的に活用するためのルールは、まだ十分に整備されていない。「地域分散型データエスクロー」(CDDE)は、次の自然災害に備える新たな方法となり得る。
では、分散型データエスクローとは具体的に何だろうか。災害が起こる前に、行政、民間企業、NGO、地域社会の関係者が集まり、通常は共有されない一連の知識資産(地図、状況報告、機材目録、登録簿、さらにはデータ主体の同意を得た個人情報など)を特定する。そして、客観的な災害指標(特定の水位、風速、リヒタースケールの基準値など)が事前に定めた水準に達した場合に限り、あらかじめ定めた形式で共有することに合意する。こうした関係者全員で定義した「発動条件」の測定値に達すると、事前に定義されたデータセット、API、データ転送が作動し、特定の権利と責任を持つ関係者が動き出す。それらを活用して、正確で時宜にかなった知識資産を作成する。
信頼と説明責任の観点から、この新しい形のエスクローでは、共有される知識資産の許可された用途をあらかじめ定め、開放性、透明性、公平性、説明責任の原則に基づかせる。知識資産を誰が、どのように、どこで、いつ利用できるか(また、権利と義務がいつ終了するか)の監督方法も、危機の前に合意しておく。技術面では、安全なAPIを介して照会またはアクセスできるため、データを国境や組織の境界を越えて移動・転送する必要はない。法的には、現地の法令に準拠した明確な発動事象に基づいて、関係者の義務が発生し、終了する。被災した地域社会や個人については、分散型データエスクロー協定を精査し、個人から実質的な同意を得ることで、データの生産者と利用者の双方としての権利と義務が理解され、支持されるようにする。

災害への備えを改善するこの革新的な取り組みは、絵空事ではない。その基盤となる要素の一部は、すでに保険業界で導入されている。例えば、最近ハリケーン「イルマ」やメキシコ地震の被害を受けたカリブ海諸国の多くでは、復旧を加速させる仕組みの保険が導入されている。
誤解のないように言えば、防災に向けて信頼できる官民データの流れを確立することは、実際には困難を伴う。技術、プライバシー、市場、規制、競争、運用に関するリスクが複雑に絡み合い、通常とは異なる状況での商業データや政府データの活用を制約している。こうした協定の試作に今すぐ取り組むには、意欲ある実務家のコミュニティが必要だ。そうした関係者は現在、世界経済フォーラムと協力し、実社会でこれらの手法を試行する意向を示している。
とりわけ、以下の取り組みを優先すべきだ。
災害発生前に、開放的で透明性が高く、人間を中心に据えたプロセスを活用し、データへのアクセスによって共通のリスクを、より十分な情報に基づく協調行動へと転換できる分野を特定する。
防災システムの完全性、信頼性、正確性を高めるため、デジタルインフラの共通の技術仕様と性能水準について合意する。
自然災害の複雑さに対応するため、「ツールとルール」を組み合わせた信頼の枠組みを構築する。こうした分散型システムは、レジリエンス、地域社会の力、信頼を高め、共有する前向きな成果を促す。
より迅速な対応、複雑な状況へのより深い理解、限られた資源をより有効に活用して人々の苦しみに対処する能力へのニーズは、今後ますます高まる。地域社会を基盤とする分散型データエスクローは、こうした目的を達成する手段となる。増加し深刻化する自然災害に対する機動性と対応力を高めることは選択肢ではなく、生存とレジリエンスに関わる問題だ。第4次産業革命が生み出すデータ、洞察、知識を活用し、自然災害に備えるための革新に、私たちは取り組む必要がある。開放的で透明性の高い「緊急時に限り開示する」多国間協定を確立することは、その方向への重要な一歩となる。


