信頼がなければ、イノベーションは不可能です。第四次産業革命を迎えるなか、ビジネスリーダーはジレンマに直面しています。人々が組織によるテクノロジーの活用に懐疑的になる一方で、顧客の期待を大きく押し上げるテクノロジーを、どう活用すればよいのでしょうか。
人工知能(AI)、ロボティクス、IoTなどのツールを使えば、組織は人々の買い物、コミュニケーション、仕事のあり方を大きく改善し、生活の質を高めることができます。しかし、人々はその影響の大きさや、こうしたテクノロジーがどのように使われているか、またプライバシー、仕事、生計、福祉にどのような影響を及ぼす可能性があるかについて、懸念を強めています。
このジレンマを解決するには、顧客に利益をもたらす責任ある信頼できる方法でテクノロジーを活用していると、企業が顧客を納得させる必要があります。企業は顧客の信頼を得なければなりません。それは確かに可能ですが、新たな事業のあり方が求められます。
広がる信頼の隔たり
現在の世論を踏まえると、顧客の信頼を育むのは容易ではありません。2018年のエデルマン・トラストバロメーターによると、民間部門と公共部門の組織に対する信頼は、過去最低水準にあります。 調査対象となった世界28市場のうち20市場で、機関への信頼は概して失われています。米国では、機関に対する国民の信頼が1年間で17%急落しました。
不信の大きな原因の一つは、組織によるデータの利用方法です。顧客の信頼に関するSalesforce Researchの最近の調査によると、顧客の57%は、企業による自分の情報の利用方法に対して不安を感じており、54%は企業が顧客の最善の利益を考えているとは思っていません。エデルマンの2018年の調査では、回答者の60%が、ソーシャルメディアのプラットフォームはユーザーデータを責任ある方法で扱っていないと答えています。
この不信の高まりは深刻な問題です。データは、第四次産業革命を支える多くの新技術の原動力だからです。顧客がデータの提供を控えれば、誰もが損をします。顧客は、AIなどのテクノロジーが可能にする、より優れたサービスや体験を得られません。企業は、生産性や収益を高める恩恵を受けられません。さらに深刻なのは、より広範な影響です。顧客の信頼なしに、企業はどうすれば事業を成功裏に続けられるのでしょうか。
信頼は今や極めて重要な資産
顧客はすでに、信頼を裏切る企業に制裁を加えています。たとえば、エデルマンの調査では、回答者の40%が、個人情報の利用方法への不信感から、過去1年間に少なくとも1つのソーシャルメディアアカウントを削除したと答えています。
ソーシャルメディアのプラットフォームは、退会したり別のサービスに乗り換えたりするのが比較的難しいことを考えると、これは驚くべき数字です。顧客は、友人や仕事上のつながりからなるネットワークを意識的に手放しています。そのネットワークを築くのに何年もかかった人も少なくありません。これほど多くの人がソーシャルメディアから離れているとすれば、代替製品への乗り換えが容易な、競争の激しい市場の他の企業にとって、何を意味するのでしょうか。
さらに、第四次産業革命が勢いを増し、企業のデータ依存が高まるにつれて、顧客の信頼を裏切った場合の影響は、より深刻になるでしょう。 IDCは、分析対象となるデータ量は2025年までの9年間で50倍に増え、5.2兆ギガバイトに達すると予測しています。
信頼を保ち育むには、企業は行動を変える必要がある
したがって、顧客の信頼を取り戻すことが不可欠です。しかし、製品やサービス、顧客と企業の関係性が変化しているなか、それは容易ではありません。
米国西部開拓時代の初期、銀行は信頼を得るために、町で最も立派で頑丈な建物を建てました。それは、資本力を示すだけでなく、地域社会に長く根を下ろす意思の表れでもありました。
第二次産業革命の時代、生産拠点が消費地から遠ざかるにつれ、フォード・モデルTのような工場生産品の均一性から、顧客はフォードの車やマクドナルドのハンバーガーなら、どこで手に入れても信頼でき、品質が安定していると考えるようになりました。消費者はブランドを自然に信頼するようになったのです。
しかし、第四次産業革命では、顧客は組織によるアルゴリズムの利用方法や、個人情報や好みに密接に結びついたサービスの提供方法を信頼するよう求められ、ブランドへの信頼は失われつつあります。これは企業に広範な影響を及ぼします。信頼とはもはや、顧客がブランドをどう見るかだけではないということです。信頼の基盤は、組織の行動、つまり価値観が実際の振る舞いや社会への影響にどう表れるかへと、ますます移っています。
朗報は、組織が信頼を得るための新たな方法があることです
信頼の危機に対応するため、EUの一般データ保護規則(GDPR)は新たなルールを導入しました。企業はGDPRをコンプライアンス上の負担と捉えるのではなく、顧客の信頼を得るための枠組みと見るべきです。これは、企業が実際にどのようにデータを利用しているかを把握し、企業と顧客の双方に利益をもたらすよう、その利用方法を改善する機会です。
GDPRは、顧客データの取り扱いについて組織に透明性を求めます。Salesforce Researchの調査によると、顧客の91%は、企業がデータの利用方法を透明にすれば、その企業をより信頼しやすくなると答えています。さらに、顧客の79%は、購入前のパーソナライズされたオファーなど、状況に応じたやり取りと引き換えに、自分に関する適切な情報を共有する意思があると答えています。
つまり、適切な状況であれば、顧客は組織を信頼し、データを共有する意思があります。だからといって、企業が消費者データを自由に使い続ける権利を得るわけではありませんが、顧客との関係を深めることはできます。顧客一人ひとりに、「あなたに関する適切な情報を共有していただければ、より良く、パーソナライズされたサービスを提供できます」と伝える機会が生まれます。
言い換えれば、企業は顧客を第一に考えなければなりません。優れた体験を提供するという実務的な意味だけでなく、顧客に対して率直で誠実であること、そして関係は相互の利益と信頼に基づいて築かれるべきだと認識するという、より根本的な意味においてもです。
企業は自らの価値観を先頭に掲げる必要がある
しかし、組織への信頼を築くことは、もはや顧客としての人々への接し方だけの問題ではありません。企業の価値観や、より広い地域社会にどう貢献するかも問われています。
Salesforceの調査では、顧客の約半数が、環境保護や地域社会への還元、職場での多様性と包摂の促進に取り組む企業を、より信頼しやすいことが分かりました。エデルマンの調査によると、人々の74%は、企業が社会のために何をしてきたかをCEOが説明することを期待し、64%は、政府が変化を求めるのを待たず、CEOが率先して変化を起こすことを望んでいます。
第四次産業革命を推進するテクノロジーと、それを利用する企業が人々の暮らしにますます大きな影響を及ぼすなか、人々はビジネスリーダーに、会社を経営するだけにとどまらない、社会におけるより大きな役割を期待しています。企業には、株主の利益を守ることを超えた企業価値が必要です。顧客、従業員、サプライヤー、地域社会など、他のステークホルダーに対しても責任を負わなければなりません。
何よりも、この変化は本物でなければならず、単なる広報活動であってはなりません。消費者の信頼は、ブランドに本来備わるものから、企業、顧客、そして社会全体の間に築かれる関係へと移りつつあります。
「データは新たな石油だ」とよく言われます。しかし、企業、そして第四次産業革命そのものが成功するかどうかを決めるのは、信頼だと私たちは考えます。
世界経済フォーラムとSalesforceは、第四次産業革命の可能性を信じています。Salesforceは、サンフランシスコにあるフォーラムの「第四次産業革命センター」の創設パートナーです。同センターは、政府、企業、専門家と連携し、社会にとって新技術の恩恵を最大化する世界的な拠点です。


