英国では約200万人が視覚を失っており、この数は2050年までに400万人に増える可能性が高い。
視力を失うと、もちろん人生のさまざまな面が変わることがある。テレビで良い映画や新番組を見られるといった、一見ささいなこともその一つだ。100人を超える視覚障害者を対象にした最近の調査では、過去12カ月間に映画館へ行かなかった人は34%だった。視覚に障害のない人では、この割合ははるかに低く、わずか6%だった。
その大きな理由の一つは、視覚障害があると映画館へ行くのが難しい場合があることだ。視覚障害者はしばしば音声解説(AD)を頼りにしている。これは、ナレーターが物語を語り、映画の視覚的な内容を説明するようなものだ。現在、英国の映画館の約40%がADサービスを導入している。しかし、機器の故障、操作方法を知らないスタッフ、あるいはAD用ヘッドホンが補聴器と干渉するといった問題により、いつでも利用できるとは限らない。
私が話を聞いたある視覚障害者は、地元の映画館へ行こうとするたびに、スタッフが機器を操作できなかったり、機器が故障していたりしたと説明してくれた。映画館はその後、別の日に別の映画を無料で見られるチケットを渡したが、彼女が再び訪れると、同じことが起きた。今では使えないチケットが何枚も手元に残っている。
映画ファンのいらだち
英国はADの発展を先導してきた。2003年には、政府の通信法により、放送事業者は番組の10%にADを付けることが義務づけられた。BBC、チャンネル4、ITV、Skyは、コンテンツの少なくとも20%にADを含めると約束した。
放送サービスとオンデマンドサービスの双方でADは増えているものの、後者は依然として遅れをとっている。これも一因となり、英国王立盲人協会(RNIB)はMovieReadingと連携して、こうした制約の一部を解消するためのアプリを開発した。このアプリでは、番組や映画のAD音声トラックをダウンロードでき、元のコンテンツに自動で同期される。
しかし、AD音声トラックには別の問題もある。多くの場合、AD提供事業者が作成し、録音しているのだ。こうした事業者は映画制作チームの外部にいることが多く、映画やテレビの創作工程の外で作られるため、必ずしも作品とうまく合致しない。そのため、多くの視覚障害者が不満を感じ、映画館へ行くのをあきらめてしまうのも無理はない。
目の代わりとなる耳
こうした問題に取り組むため、同僚と私は音声解説の強化プロジェクトを始めた。このプロジェクトでは、映画やテレビ番組の制作段階とポストプロダクション段階で作り込む、アクセシブルなサウンドトラックの実現を目指している。
つまり、外部企業に音声解説を作成してもらう代わりに、映画制作チームが、制作者の「ビジョン」に沿ったアクセシブル版を作れるということだ。これにより最終的に、視覚の状態にかかわらず、誰もが映画を楽しめるようになる。
たとえば音楽が場面を支配しているときに状況を分かりやすくするため、効果音を加えることもできる。また、視覚障害のある観客により多くの情報を伝えるため、スピーカーやヘッドホンを通じた「空間オーディオ」の活用も検討している。登場人物がどこに立っているか、どこへ向かっているか、部屋にどのような物があるかなどを伝えられる可能性がある。これは、私たちの音声の空間化に関する研究に基づいている。この研究では、登場人物の声の位置を分けることで、言葉による説明がなくても、視覚障害のある観客が登場人物をより簡単に区別できることが示された。

一人称の語り手というアイデアにも取り組んでいる。物語の登場人物の一人が、効果音や空間化では伝えられない色や身ぶりなどの要素を説明するというものだ。
耳を澄ませて
『ハリー・ポッターと賢者の石』が2002年に公開された際、AD音声トラックを映画に確実に同期させるシステムを使って英国で上映された最初の作品となった。
これはADの送出技術における大きな前進だった。しかしそれ以来、視覚障害者の文化的な体験を向上させる変化は十分に起きていない。この新技術によって、近いうちに誰もが映画館を楽しめるようになることが期待されている。


