南アジアには、第4次産業革命(4IR)におけるイノベーションのハブとなる可能性がある。若い人口が世界の新たな技術動向と十分につながっていること、4IR技術の成長が生み出す機会、そして規模が大きく教育水準の高い労働市場が、その可能性を支えている。
人工知能(AI)、ブロックチェーン、自動運転車などの新興技術の台頭は、南アジアが抱える大規模で構造的な課題の一部に取り組むうえで、興味深い機会をもたらす。しかし、技術への理解不足、既存システムの信頼性の低さ、そして技術がもたらす悪影響への懸念が、導入を妨げている。
こうした問題に取り組むため、関係者が連携してできることを3つ紹介する。
1. イノベーションの歩調に合わせる
世界経済フォーラムの創設者兼会長であるクラウス・シュワブ教授は、関係者は技術を規制し、その進化に合わせて絶えず調整を加えるために、「アジャイル・ガバナンス」モデルを採用する必要があると述べている。新技術の導入を可能にするため、政策を継続的に評価し、微調整する機動的なチームは、4IRの中で発展を目指す政府や組織に戦略的優位性をもたらす。
技術を規制する政府、新技術を育む学界、技術を開発する産業界の結びつきを強めることが不可欠だ。イノベーション技術の導入を妨げている学界、産業界、政府間の隔たりを埋めるには、次の取り組みが必要となる。
イノベーションの商業化を目指し、画期的な研究に取り組む科学者、新技術を活用した企業を立ち上げる起業家、そして社会におけるこうした技術の導入に関する法律を策定する政策専門家の対話を促すため、大学に技術移転オフィスを設置できる。
早い段階から関与し、さまざまな関係者の間に継続的なフィードバックの仕組みを築けば、商業化を加速できるほか、政府が技術に関する地域の規制を微調整する機会も広がる。
南アジアは、欧州の仕組みを手本にできる。欧州では、大学の研究室にある技術移転オフィスと、EUの政策を策定する欧州委員会との連携が進んでいる。
産業界も、政府による技術導入のロードマップ作成を支援すると同時に、将来の職務要件を満たす優秀な人材を育てるための新たなカリキュラムの開発を学界に支援することで、学界、産業界、政府間の隔たりを埋めるうえで重要な役割を果たせる。
2. 技術への信頼を築き、先駆者となる
南アジアの多くの国は現在、他国が政策を策定するのを待ってから自国のニーズに合わせて適用している。そのため、先行者利益を逃すリスクがある。先行者となれば、新たな事業にとって有望な市場として世界の関心を集められる可能性がある。
スイスでのクリプト・バレーの台頭は、政府の政策が規制上の障壁を取り除き、急速に進化する暗号資産関連の製品・サービスのエコシステムを発展させた好例だ。規制を支える多額の民間投資が、その成長を後押しした。
AIが雇用を奪う、暗号資産が金融システムを混乱させる、自動運転車が制御不能になるといった懸念は、これらの技術がエコシステムにもたらす好影響よりも、多くの報道や世間の関心を集めている。
反発を招く可能性を避け、人々に4IR技術を段階的に導入してもらうには、専門家、政策立案者、技術系起業家との定期的な協議に人々が参加できるようにする必要がある。
世界経済フォーラムの最新の「仕事の未来レポート」は、産業全体でAIが広く導入された後、2022年までに雇用が差し引きで純増すると示している。ケニアの資本市場庁は、デジタル通貨の導入を監視し、その道筋を整えるため、ケニア中央銀行と共同で特別部門を設置することを提案した。
ドローンなどの自動運転車両は、アフリカの医療キャンプ間で、緊急性が高く時間に制約のある医薬品を届けるため、すでに実際に活用されている。これらは、私たちの生きる時代に大きな変革をもたらす新技術の好影響を示す例の一部にすぎない。
技術の普及を推進する人々は、市民が将来の雇用市場に備え、社会全体における技術導入の利点と欠点を評価できるよう、教育し、力を与える必要もある。
新たな世界経済は4IR技術を基盤に築かれる。したがって政府は、この新時代に競争力と繁栄を維持するため、こうした技術に有利な政策を策定する必要がある。
南アジアの政府は、包摂的な政策アプローチの採用を検討する必要がある。地域の長期的で包摂的な成長を確保し、社会のあらゆる層の間で新たな4IR技術への信頼と受容を育むことで、成長率の低下、失業問題、社会全体の不安を回避するためだ。
3. 未来に投資する
4IRは、南アジアが付加価値の低いサービス経済から、研究開発主導の強固な製品・イノベーションのエコシステムへと移行する機会をもたらす。
人口が約17億人に達するこの地域には、革新的な製品やサービスの巨大な市場がすでに存在する。イノベーション主導型経済への進展を可能にするため、南アジアの政府は今すぐ、GDPに占める研究開発エコシステムへの再投資の割合を高める必要がある。
未来を切り開く画期的な技術に取り組む大学や研究所への資金を、直ちに増やす必要がある。中国のAI、スイスのヘルスケア、イスラエルのドローンをめぐる活気あるエコシステムが成功した背景には、過去10年間の政府支出の一部に加え、助成金や連携の機会を通じて研究者や起業家をきめ細かく支援してきたエコシステムがある。
国にとって重要な新興技術に政府が民間部門と共同投資すれば、リスクを軽減し、民間のベンチャーキャピタル(VC)部門が高リスク・高インパクトの企業に投資するのを後押しできる。
VCコミュニティがこうしたファンドの設立・運営に効果的に参加し、政府が税制優遇措置やテクノロジー企業向けのシード資金・成長資金の提供を通じて支援すれば、新しいアイデアを研究室から市場へと進める助けになる。また、地域の銀行が4IR関連の製品やサービスを開発する産業や起業家を支援し、融資を行うことも重要だ。
南アジアの起業家は、欧州連合(EU)の大規模な政府主導イノベーション・プログラム、たとえばホライズン2020を活用できる。このプログラムは、世界的な課題を解決する新技術を開発する起業家を共同で支援し、その成功の可能性を高めるため、EU内の官民セクターを結集する。
南アジアには、若く教育水準の高い人口と、西側諸国より低い賃金中央値という競争優位性がある。将来の雇用市場に備えられるよう、学界と産業界は学生や従業員に関連性の高い研修を提供し、彼らに投資する必要がある。
政府は、零細企業、小企業、中規模企業向けの経済特区を設けることで、イノベーションを促し、製造業を強力に支援できる。設備の輸入税補助や、高度な製造施設の設置に対するインフラ補助などの優遇措置を設けることができる。
インドのアーンドラ・プラデーシュ州メドテック・ゾーンのような業種特化型ゾーンは、南アジアの政府にとって、イノベーション・クラスターが将来への有望な投資となり得ることを示す例だ。こうしたゾーンを設ければ、政府は地域の将来の雇用ニーズを満たすため、地元の産業界や学界と連携して研修プログラムを計画できる。
さまざまな技術が成熟し、社会で確かな用途を見いだす中、新時代の技術リーダーは今後5年ほどで台頭する。南アジアの政府は、新技術の商業化への道筋を整え、包摂的で持続可能なガバナンスを採用し、市民の働き方の未来を形作る技術に投資することで、市民がその恩恵を受けられるようにできる。
政府の役割は環境を整えることであり、市民の役割はイノベーションを起こすことだ。このプロセスにはさまざまな関係者が関わっており、新技術への見方を空想科学から現実へと変えるために、協力する必要がある。
4IR技術を活用して新たな開発パラダイムへ飛躍するには、投資家がリスクを取ってディープテックのスタートアップに投資し、学界が慣れ親しんだ領域から踏み出して研究室の技術の迅速な商業化を推進し、産業界が学界との結びつきを強め、明日の労働力が今日の教室で効果的な訓練を受けられるようにすることが必要だ。
最後に、こうした協働者のエコシステムが発展できる環境を整えることが、南アジアの政府の役割である。



