デジタル政府の進化に伴い、課題はもはやスピードだけではなく、進むべき方向になっています。
世界経済フォーラムのGovTech Compassは、GovTechとデジタル公共インフラの導入を実践するリーダーたちの知見に基づく10の原則を示しています。
各国政府がトレードオフを乗り越え、実際に包摂的で信頼され、効果的なシステムを構築できるよう支援することを目的としています。
多くのデジタル政府のリーダーが、同じ趣旨の問いを投げかけています。より速く進む必要があることは分かっているが、正しい方向に進んでいるとどう確かめればよいのか。
これは、議論が大きく変化してきたことを示しています。過去20年間、エストニアからルワンダ、ブラジルからシンガポールまで、各地域の政府は、公共サービスを大規模にデジタル化すれば、より迅速で利用しやすく、ニーズに応えられるものにできると示してきました。今問われているのは、GovTechやデジタル公共インフラに投資すべきかどうかというより、どのようなデジタル政府を、誰のために、どのような代償を伴って構築するのかです。
多くのデジタル改革の進み方を率直に見れば、状況は複雑であり、進むべき道を見極めるのは容易ではありません。最も脆弱な人々を排除するデジタルIDシステム、偏見を固定化するAIによる福祉の決定、公共の価値を明け渡すデータ連携があります。あるいは、デジタルに習熟した人には見事に機能する一方、ほかの人々には新たな障壁を生む、いわゆる「ベストプラクティス」もあります。
こうした事態は避けられないものではありません。デジタル変革をどう設計し、統治し、持続させるかという選択の結果です。AIによって政府が市民のデータを活用してできることが増え、財政的な圧力によって、信頼を築く時間のかかる取り組みより目に見える成果が評価されるなか、こうした選択は容易になるどころか、ますます難しくなっています。
今がまさに岐路にあり、だからこそ世界経済フォーラムのGovTech・デジタル公共インフラに関するグローバル・フューチャー・カウンシルはこのたび、『GovTech Compass:GovTechとDPIを責任ある形で導入するための10原則』を発表しました。実際に導入を手がけてきたリーダーたちの知見に基づいています。
GovTech Compassはチェックリストではありません。意図的に「コンパス」として設計されており、重要なトレードオフを乗り越え、先行きが不透明なときにリーダーが判断の方向を定めるためのツールです。デジタル改革が意義ある公共的成果を生むかどうかを最終的に左右する、正統性、信頼、実行という3つのテーマを軸に構成されています。
1. 正統性:人々のためではなく、人々とともにつくる
デジタルサービスに対する人々の信頼を失う最も手っ取り早い方法の一つは、実際に使う人々を交えずに設計することです。それでも「市民中心の設計」は、しばしば、制度上の都合に合わせて作られたプロセスに洗練されたインターフェースを付け足すことを意味します。サービスを届けるべき人々のニーズや現実を起点にするものではありません。
正統性は、もっと早い段階から始まります。誰の利用体験が設計を形づくり、誰が排除されるのかを問うことから始まります。要件が確定する前に、周縁化されたコミュニティを調査や試作に参加させることです。人々が実際に持っている端末や接続環境で、実際に話す言語でサービスを利用できるようにし、提供開始後にひそかに機能が損なわれていくことのないオフラインの利用手段を整えることでもあります。
ルワンダのIremboポータルは好例です。100を超える電子サービスを提供していますが、真の革新は、接続環境やデジタルスキルが限られた市民を支える、認定仲介者のネットワークにあります。包摂とは、インターフェースの設計だけではありません。誰とともにシステムを構築し、稼働開始時に誰にサービスを届けられるかということです。
2. 信頼:信頼を得る透明性
デジタル政府に対する人々の信頼は、信頼に値すると宣言するだけでは生まれません。人々が疑問を呈し、監査し、異議を唱えられるシステムと、市民の権利を脚注ではなく中心に据えるデータ運用によって築かれます。
自動化された意思決定がどのように行われるかを公開し、人々が実質的に異議を申し立てられる手段を設けることが必要です。市民データの利用を独立して監督し、悪用された場合には責任を問うことも必要です。また、AIが政府内で予測的な機能を担うようになるにつれて(事例を検知し、給付を割り当て、サービスを求められる前から市民を分類するなど)、説明責任の基準を緩めるのではなく、引き上げなければならないことを認識する必要があります。
デンマークのデジタル政府庁は、基幹的な公共ICTシステムを透明性のある形で統治することで、これが実際にどのように実現できるかを示しています。これは、国のデジタルインフラを信じるよう求めるのではなく、市民が根拠に基づいて信頼できる理由を得られるようにするものです。
3. 実行:現実的な対応、レジリエンス、リーダーシップ
あまり語られていないことがあります。すべての課題に、一から作る華やかな新しいデジタルソリューションが必要なわけではありません。優れたデジタル政府は、新たなプラットフォームを発注する前に既存インフラの能力を活用し、機能を重ねる前に重複システムを廃止し、導入件数や報道発表の数を数えるのではなく、「これによって市民の手続きは実際に減ったか」といった成果を問うことに、しばしば最も規律正しく取り組んでいます。
実行にはレジリエンスも必要です。慎重に道筋を描き、小規模に試行し、失敗から学び、障害や移行期にも不可欠なサービスを維持できるよう備えを整えることです。誤った道に固執するのではなく、早期に軌道修正することでもあります。そしておそらく最も重要なのは、プロジェクトの期間を超えて続くリーダーのコミットメントです。ウクライナが最近、デジタル改革を副首相級の所管に引き上げた決定は、これがなぜ重要かを示す明確な例です。持続的なデジタル変革には、技術人材だけでなく、継続的な政治的支援が必要です。
これから待ち受ける、より困難な取り組み
今後10年間のデジタル政府を決めるのは、誰が最も速くAIを導入するか、誰が最も多くのアプリを公開するかではありません。所得、接続環境、信頼の度合いが異なる人々が頼りにするシステムを誰が構築するのか、いかに意義ある価値を届けるのか、そして規模を拡大してもどのように説明責任を果たし続けるのかによって決まります。
それが、より根本的な変化です。政府には、ベンダーへの囲い込みではなく公共の価値を重視するよう、インセンティブ、パートナーシップ、調達を見直すことが求められます。開発銀行やドナーには、これらの原則を資金提供の基準に組み込むことが求められます。そして市民社会、学術界、市民自身には、外部からシステムの説明責任を求めることが必要です。
GovTech Compassは、こうした困難な取り組みへの一つの貢献です。リーダーが進むべき方向を見定め、より良い問いを立て、迅速に進む圧力によって道を外れそうなときも方向を保つ助けとなれば、その役割を果たしたことになります。
デジタル政府はいま岐路にあります。心強いのは、前進への道はすでに歩まれており、最も慎重にその道を進むリーダーたちは、最も重要な真北が技術の洗練度ではなく公共の価値だと理解していることです。

