開発途上国では、農業、教育、医療など幅広い用途で先進航空モビリティ(AAM)の導入が積極的に進められている。
一方、先進国は、AAM技術を構築環境に統合する複雑さに引き続き直面している。
物資やサービスへのアクセスを改善する公平な先進航空モビリティの普及を加速するには、協力と規制の調和が鍵となる。
開発途上国は傍観しているだけではなく、幅広い用途で先進航空モビリティ(AAM)を積極的に活用している。こうした技術の導入を先導し、最も脆弱な人々や地域に迅速に届けるため、時間との闘いとなる活動を先頭に立って進めてきた国もある。
これらの国々は、先進航空モビリティによって、食料、医療、教育など普遍的なニーズへのアクセスを実現できることをいち早く示してきた。では、開発途上国から何を学べるだろうか。また、新興技術の世界的な普及と統合を加速するため、こうした国々が果たす、さらに深い役割をどう生かせるだろうか。
開発途上国では、こうした破壊的技術を、差し迫ったニーズに自然な形で応える具体的な解決策と捉えている。対応すべき既存の複雑な空域制限や規制がないことから、遠隔地や農村地域がAAM導入を先導してきた。
同時に、先進国は、世界をリードする技術的専門知識、資金投資、製造能力を活用して先進航空モビリティを導入している。最終的な目標は、広範な商業化を通じて世界的な競争力を確保し、有利な規制によって普遍的な導入を促すことだ。
開発途上国の取り組みが先進航空モビリティをどのように先導しているか、また先進国が取れる行動について、いくつかの例を紹介する。
インドで医療へのアクセスを実現
インドの「Medicine from the Sky」イニシアチブは2010年に始まり、車やバスでの移動が地理的に困難な農村部や遠隔地の地域、地滑りや洪水を引き起こして道路が通行不能になることの多い極端な気候条件の地域、ワクチン、検査用サンプル、処方薬を緊急に必要とする場所で、医療へのアクセス改善を目指した。
得られた教訓の一つは、自律型ドローンによる医療物資の輸送は従来の地上輸送より8倍速いということだった。中程度から強い雨の中での飛行には困難が伴ったものの、厳しい地形にある農村部や遠隔地の地域に医療を届けるうえで、ドローンは最善の解決策だった。
地域の人々がドローンに触れる機会を得たことで、雇用機会も生まれた。アルナーチャル・プラデーシュ州で初めてドローン操縦士免許を取得した女性や、ラストマイル配送で医療物資を運ぶ地元の若者などがその例だ。
この取り組みは、極端な気象条件下で安全に航行できる性能を高めるため、カメラ、センサー、LiDARシステムなどの技術進歩を加速する研究開発に、先進国が投資する機会を示している。
開発途上国と先進国の双方は、農村部や遠隔地での商用ドローン導入と並行して人材育成の取り組みを拡充し、経済的繁栄への道筋をつくるべきだ。さらに、農村部や遠隔地、気候変動の影響を受ける地域の人々など、アクセスが困難な地域社会でのドローン導入を優先すべきである。
これにより、物資やサービスへの不公平なアクセスに長年苦しんできた地域社会の障壁を、先回りして取り除くことができる。
アフリカで教育へのアクセスを実現
ドローン配送会社のZiplineは2023年、ガーナ教育省と提携し、科学・技術・工学・数学(STEM)に重点を置く複数の学校で、拡充したカリキュラムを提供した。
さらにZiplineは、深刻な洪水による休校の影響を受けた生徒たちに試験問題を届けた。この官民連携により、ガーナの若者はドローンに関する教育や訓練を受けられるようになり、学用品や試験問題の輸送など、直接的なサービスにも恩恵が広がっている。
この取り組みから、ドローン企業との提携が、カリキュラムや学用品を含む学校サービスへのアクセス確保の課題解決に役立つことが分かった。さらに、ドローンの導入や技術に触れた生徒は、運用、ハードテック、ソフトウェア開発など、STEM分野の職業に就く可能性が高まる。
先進国はこの経験から学び、航空、イノベーション、自律技術、ソフトウェア開発をカリキュラムに含めるよう拡充する官民連携を検討できる。先進国と開発途上国の双方が学校でドローン導入を試行し、生徒や家族が書籍、学用品、医薬品、食料を入手しやすくすべきだ。
ラテンアメリカ・カリブ海地域で食料と農業へのアクセスを実現
ラテンアメリカ・カリブ海地域は世界の農業に貢献しており、輸出額は2022年だけで1,070億ドルに達した。この地域は昆虫や植物の病害に非常に弱く、コーヒー、サトウキビ、バナナなどの作物に被害が及んでいる。
農園の立地によっては、山がちな地形や背の高い作物に従来型の農薬を散布するのが難しいことが多い。こうした課題に対応するため、中国のドローン企業、DJI Agricultureは精密散布型の農業用農薬散布ドローンを発売し、ラテンアメリカ・カリブ海地域の複数の国で利用されている。
農業地域での自律型ドローンの導入は約10年にわたり運用されており、植物の病害や害虫などの脅威から作物を守るため、農家が先回りして監視や対策を行えるよう支援し、農家に恩恵をもたらしてきた。
この事例から、農業用ドローンの導入は農家や地域社会に恩恵をもたらす一方、ドローンの運用や保守を支える雇用機会が必要であることも分かった。
この事例研究は、農薬、作物の病害、野生生物への対策に課題を抱える農業生産国の先進国で、ドローン導入を検討すべきであることを示している。また、食品科学、農業、技術に焦点を当てた教育や研究開発への投資も必要だ。
開発途上国の教訓を生かす
多くの先進国はすでに、研究、開発、投資プログラムを通じて、これらの技術が持つ大きな市場の可能性を積極的に追求している。政府の取り組みや官民連携には、米国のNASA先進航空モビリティ国家キャンペーン、英国のフューチャー・フライト・チャレンジ、UAEの先進航空モビリティ・プログラムがある。
一定の進展は見られるものの、先進国は、医療、食料・農業、教育に関わる既存の生態系や構築環境にAAMを統合する複雑さに引き続き直面している。
世界経済フォーラムは、持続可能で包摂的なモビリティシステムをどのように推進しているのか。
世界経済フォーラムのモビリティの未来を形作るプラットフォームは、航空宇宙・ドローン、自動車・新たなモビリティ、航空旅行・観光、サプライチェーン・輸送の4業界にまたがって活動している。モビリティの未来を安全でクリーン、かつ包摂的なものにすることを目指している。
「クリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー連合」を通じて、100社を超える企業が協力し、2030年までに世界の航空を持続可能な航空燃料10%で動かすことに取り組んでいる。
ユニセフと協力し、フォーラムは大手海運会社、航空会社、物流企業と憲章を策定し、COVAXが世界の脆弱な地域社会に10億回分を超える新型コロナワクチンを届けるのを支援した。
ロード・フレート・ゼロ・プロジェクトとP4G「ゼロへの移行」連合は、成果を生み出し、ゼロエミッション貨物輸送への移行を加速する根拠、コスト、機会を示してきた。
「Medicine from the Sky」イニシアチブは、ドローンを使ってワクチンや医薬品をインドの遠隔地に届け、300回を超える試験飛行を成功させている。
フォーラムのターゲット・トゥルー・ゼロイニシアチブは、電動飛行技術と水素飛行技術を活用し、ゼロエミッション航空の導入と規模拡大の加速に取り組んでいる。
ロサンゼルス市、連邦航空局、NASAと協力し、フォーラムは世界各地の都市でアーバン・エア・モビリティの導入を支援するアーバン・スカイの原則を策定した。
フォーラムは宇宙持続可能性評価の策定を主導し、軌道上の宇宙ミッション管理とデブリ低減において、より安全で持続可能なアプローチを奨励・推進している。
サーキュラー・カーズ・イニシアチブは、自動車分野のサーキュラーエコノミーに関する政策課題の形成に寄与している。欧州委員会およびゼロエミッション車移行評議会参加国の支持を受け、現在は中国の政策ロードマップへの支援も要請されている。
ムービング・インディアネットワークは政策立案者と協力し、電気自動車の製造政策を推進し、ゼロエミッションの道路貨物車両の普及を促し、その移行に向けた資金調達に取り組んでいる。
都市モビリティ・スコアカード・イニシアチブ――フォーラムのグローバル・ニュー・モビリティ連合が主導――は、モビリティ事業者と都市を結び、持続可能な都市モビリティシステムへの移行状況を評価している。
お問い合わせいただき、参加方法について詳しくお尋ねください。
具体的な恩恵をもたらすには、データの収集と共有、規制の枠組み、調和のとれた基準、地域社会による導入が不可欠だ。開発途上国ですでに先進航空モビリティの安全性、信頼性、実用性を実証している実社会の活用事例から得られた知見を使えば、こうした重要な基盤づくりを加速できる。
これには、多様な微気候における運用の理解、複雑な地理的地域や地形での航行、社会的な配慮を踏まえたAAM導入の道筋を地域社会と共同で策定することが含まれる。
さらに、環境影響の測定や人道支援の提供など、気候変動の最前線でAAMを活用する開発途上国の教訓は、利他的な目標にとどまらない。先進国も同じ課題に直面することが増えるなか、これらの教訓は欠かせない。
公平な先進航空モビリティの加速には世界的な協力が必要
先進航空モビリティは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を支え、経済成長、接続性の向上、命の救助、重要な支援の提供など、いくつもの重要な恩恵をもたらすと期待されている。
しかし、こうした破壊的技術が世界にもたらす社会経済的な恩恵を実現するには、開発途上国と先進国が協力する枠組みや取り組みを通じて、より広範な世界的協力と国際連携を模索しなければならない。そうすることで、地域の人材育成、スキル向上、雇用創出など、さらなる恩恵を実現できる。
これを踏まえ、検討すべき取り組みには次のものがある。
先進国と開発途上国の連携と参加を必要とする先進航空モビリティのプロジェクトや課題を創出する。
国連のSDGsに沿った公平な先進航空モビリティを支援するため、国内およびCOP、国連総会、世界経済フォーラムなどの国際的な場で、データを収集し情報を共有する非政府機関を設立する。
公平な先進航空モビリティを促進する包括的な基準を確立する。
この包括的なアプローチにより、先進国がこうした新技術をさらに進歩させるなかで生じる可能性のある社会経済格差の拡大を抑えられる。
多くの先進国には、こうした基幹産業を支える交通手段がすでに存在し、先進航空モビリティによって物資やサービスの提供効率が高まる。一方、開発途上国の多くの地域では医療、食料、教育へのアクセスが不足または限定されているため、その恩恵は大きな変革をもたらし、こうした国々が取り残されないようにすることにもつながる。
執筆者のジャスティン・ジョンソンとケリッサ・カーンは、いずれも 自律型モビリティの未来に関するグローバル・フューチャー・カウンシルのメンバーである。

