急速な変化と深刻化する不平等が、経済と社会の強靱性を試している。第四次産業革命がもたらす破壊的な変化が、世界経済の中枢での主役交代を告げるだけでなく、地理、世代、ジェンダーの境界を越えて機会と成果のバランスを取り戻すようにできるかどうかは、私たちの手に委ねられている。
過去数十年の成長パターンは、経済と技術の変化がもたらす平等化と分断の両方の力を示してきた。1988年には、米国の中低所得層の市民の所得は、中国の裕福な中間層の市民の6倍を超えていた。今日では、両者の所得はほぼ同じである。トルコからベトナムまで、他の経済圏でも同様の飛躍が起きた。しかし同じ期間に、世界の富の半分は人口の上位5%に渡り、ほぼ5分の1は上位1%に渡った。
第四次産業革命が進展するなか、さらなる激動の変化が待ち受けている。あらゆる場所でデジタル化が進み、人間と機械の隔たりを狭める技術が広がることが特徴だ。
しかし、それが私たちの未来を大きく形づくるとしても、未来を決定づけるわけではない。どの産業時代も、人間の価値観、規範、制度にその姿を表してきた。第一次産業革命の後、劣悪な労働環境を背景に社会主義と社会資本主義が生まれた。1970年代に始まった環境運動は、核の時代と、第二次産業革命が可能にした大量生産・大量消費の時代への反応だった。20世紀後半には、コミュニケーションと輸送のコストを大幅に引き下げた第三の、あるいは「デジタル」革命による急速なグローバル化を受けて、新たなグローバルなマルチステークホルダー型ガバナンスモデルが支持を集めた。
第四次産業革命がもたらす政策上のジレンマや意図せぬ結果に対処するには、どのような規範、パートナーシップ、実践が必要だろうか。
この問いに答えるには、ニュー・チャンピオン年次総会に集うリーダーたちの勇気、知的リーダーシップ、起業家精神が必要となる。中国で開催されるこの年次総会には、科学者、新興企業のリーダー、社会起業家、政治指導者などが集まり、これから訪れる変化の波について議論する。
所得、富、機会を集中させる力をなくすことはできないが、それに対抗する力を動員することはできる。教育や起業家精神への投資から、新興技術のガバナンス形成までがその手段となる。具体的には、包摂的な第四次産業革命には、4つの領域におけるビジョンとリーダーシップが必要だ。
人間中心の技術を拡大する
コンピューティング能力やデータの指数関数的な増加から、遺伝子編集におけるCRISPR法まで、技術革新は人類の進歩に驚くべき機会をもたらすだけでなく、深刻な社会的課題も生み出す。第四次産業革命の機会をつかみ、落とし穴を避けるには、経済・社会の発展、価値創造、プライバシーと所有権、個人のアイデンティティに関して提起される道徳的・倫理的な問いを考える必要がある。このような状況で、人間中心の製品やサービスをどのように設計すればよいだろうか。
継続的な変革を主導する
第四次産業革命は従来のビジネスモデルを揺るがし、効率を高める戦略的な選択肢を提示している。供給側では、エネルギー貯蔵、送電網技術、顧客や資産のパフォーマンスのリアルタイム処理における進展が、事業運営モデルを変革している。需要側では、顧客は消費体験のあらゆる段階で、個別に対応したやり取りを評価し、期待している。技術変化が指数関数的な速さで進むなか、リーダーは組織が適応すべき課題をどう見極め、強靱性を築けるだろうか。
持続可能なシステムをつくる
経済活動の大幅な拡大は、社会と地球のシステムに抗しがたい圧力をかけている。同時に、新技術によって、経済と社会生活のほぼすべての領域で変革が可能になっている。繁栄と生活の質の面で、地球規模の共有資源への圧力を大幅に減らせる、より良い未来を実現できる。エネルギー、モビリティ、生産、健康、教育、ジェンダー、労働などの分野で、こうした機会をどう生かし、より持続可能なシステムをつくればよいだろうか。
地政経済の変化に対応する
中間層の衰退により、成長の鈍い国々の政治経済の構図が変わりつつある。成長の速い経済圏では、「中所得国の罠」を避けることが戦略上の懸念として高まっている。両者に共通するのは、地政学的不確実性が高まるなか、技術革新によって新たに有利な立場に立つステークホルダーと不利な立場に置かれるステークホルダーが生まれていることだ。地域社会、企業、国は、これから訪れる経済変化にどうすればより良く備えられるだろうか。
この4つの領域で進展を遂げるには、新技術やビジネスモデル、ガバナンスモデルを開発するだけでは不十分だ。古い地図がもはや役に立たないとき、羅針盤やレーダーとなる基本的な価値観を改めて確立することも求められる。第四次産業革命における包摂的な成長の実現には、現在の世界をすべて新たな目で見る想像力が必要だ。自らの偏見や信念が生み出す反響室から抜け出すための最善の、あるいは唯一の機会として、多様性に深く取り組む姿勢も欠かせない。そして、人類を結びつける接着剤となる共感を集団で育む力も必要となる。


