パンデミックによる混乱は、よりレジリエントなシステムの必要性を浮き彫りにしました。
責任ある方法で利用されるテクノロジーは、社会変革の効果的な手段となり得ます。
パンデミック対応の状況に倫理的利用の原則を適用して得た学びをご紹介します。
2020年、想像を絶する形で世界が揺さぶられ、私たちは公衆衛生、経済、人種的正義に関する危機など、複数の危機が交錯する事態に直面しました。
テクノロジーは、健康や社会における構造的な不平等を解決する主要な手段ではありませんが、政府や市民社会の取り組みと連携し、重要な役割を果たすことができます。ただし、テクノロジーが効果を発揮するには、責任ある形で開発されなければなりません。そして、どれほど優れたツールでも、人々の信頼を得られなければ使われません。
最高倫理・人道的利用責任者として、私はこの1年間、こうした危機に対応するテクノロジーの開発にあたり、倫理的かつ人道的な利用の原則を適用するため、チームと緊密に取り組んできました。この取り組みから得た貴重な教訓は、現在のパンデミックが終息した後も、長く重要性と適用可能性を保つでしょう。前例のない状況を共に乗り越えるなかで、私たちには常に学ぶべきことがあると認識しつつ、透明性の精神に基づいてこれらの教訓を共有します。
教訓1:過去から学び、車輪の再発明を避ける
危機に直面すると、すぐに行動しようとする傾向があります。しかし、現代の解決策を開発する際には、過去の教訓を取り入れる時間を確保することが不可欠です。2020年、私たちは一歩引いて、こうした問題の多くが新しいものではないと認識するよう促されました。COVID-19自体は新たな感染症ですが、私たちが世界的な公衆衛生危機に直面するのは今回が初めてではありません。パンデミックによって格差が深まったとはいえ、地域社会における健康格差が明らかになったのも今回が初めてではありません。世界は過去にもパンデミックを経験しており、日々、健康危機に対応している、確立された信頼できる組織が数多くあります。
グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミットとは?
パンデミック対応製品を開発するにあたり、Work.com(企業が安全に事業を再開し、従業員を守るためのデータ駆動型プラットフォーム)について、Salesforceはプライバシーおよび医療の専門家と連携し、プライバシーと人権を最優先に保つベストプラクティスに従っていることを確認しました。また、データの保存と削除に関するガイドラインの策定では、国連や赤十字国際委員会などの組織も参考にしました。
既存のツール、プロセス、テクノロジーを活用したり、すでに取り組んでいる人々を支援したりする方が、効率的で責任ある場合が少なくありません。一刻を争い、人命が危険にさらされる状況では、専門家を信頼し、公衆衛生に関する指針に耳を傾けるという私たちの決意を新たにしました。この指針を北極星として、車輪を再発明するのではなく、改良することを目指しました。
教訓2:自らの価値観を理解し、原則に基づいて行動する
Salesforceでは、コアバリューがあらゆる活動の指針となっています。倫理的・人道的利用室を設立した際、責任あるテクノロジーに関する取り組みの指針として、5つの基本原則—人権、プライバシー、安全、誠実さ、包摂—を定めることから始めました。国際人権規約に基づき、従業員の意見を反映したこれらの原則は、製品の設計、開発、提供において日々の指針となっています。

パンデミックが発生し、世界が不確実性と恐怖に包まれたとき、私たちは基本原則を活用して取り組みの方向性を定めました。プライバシーチームと協力し、COVID-19に関するテクノロジー対応を特に導くための原則を策定しました。1)人権と平等を守る、2)透明性を尊重する、3)データ収集を最小限に抑える、4)長期的な視点に立つ、5)個人データの安全を確保する、という原則です。Work.comの開発において、チームを導くために繰り返し立ち返ったのは、これらの観点でした。
たとえば、プライバシーを守り、ユーザーの信頼を維持するため、これらの原則に基づいて自動接触追跡を提供しないという意図的な決定を下しました。その代わりに、顧客が接触追跡を紙とペンによる方法からデジタルシステムへ移行できるよう支援し、接触追跡の精度と有効性を高めるとともに、人による接触追跡担当者の効率向上を図りました。
第四次産業革命について、世界経済フォーラムはどのような取り組みを行っていますか?
フロンティア・テクノロジー・アンド・イノベーション・センターは、科学者、政策立案者、ビジネスリーダーを結び付け、新興テクノロジーとその現実世界への影響を理解するための活動を行っています。
連携と実験を可能にすることで、同センターはパートナーが研究によるイノベーションを、共通のグローバル課題に取り組む実用的な応用へと結び付ける支援をしています。
教訓3:拡張可能で再現性のあるプロセスを構築するため、早い段階から投資する
危機のさなかには、状況が絶えず変化します。新たな情報や課題が日々生じるなか、問題に対処するための拡張可能で再現性のあるプロセスが鍵となります。
各国政府のパンデミック対応は、主に検査と接触追跡に重点を置く段階から、世界規模のワクチン展開へと変化していくのを見てきました。私たちにとってこれは、COVID-19ワクチン管理テクノロジーを構築するチームに倫理的な助言と相談支援を提供することを意味しました。予約管理テクノロジーやデジタルヘルス認証情報など、こうしたツールへの幅広いニーズと緊急性を踏まえ、システムインテグレーターと緊密に連携し、実践的な指針を提供することで、プライバシー、公平性、倫理的利用を全体を通じて重視する方法を示し、チームの取り組みを拡大できました。
テクノロジーの活用も、取り組みを拡大する方法の一つです。公衆衛生危機に加え、米国や世界各地で人種的不正義の危機が改めて認識されています。製品における人種的偏見や被害を軽減するために私たちが取っている対策の一つは、技術コンテンツやコードにおける包摂性を欠く言葉遣いへの対処です。包摂性の実現は継続的な取り組みです。技術的な表現を継続的に見直し、Acrolinxなどのツールや、その他のプラグインを活用して言葉を自動置換し、技術的な表現における包摂性を高めるための、拡張可能な手段を取り入れることに尽力しています。
教訓4:マルチステークホルダーの連携が鍵
危機に見舞われたこの1年、耳を傾けること、立場の違いを越えて対話すること、そして協力することが、危機への対処に不可欠だと学びました。
ワクチン管理やデジタルヘルス認証情報について、私たちは他の業界団体と協力し、相互運用可能な標準と推奨されるベストプラクティスを策定することに取り組んでいます。危機からの脱却にテクノロジーを活用するには、ガバナンス、政策、標準が必要です。私たちは信頼されるデジタルパートナーを目指しています。それを実現する唯一の方法は、同じ目的に向かって取り組む他の団体と協力することです。そのため、ワクチン接種認証イニシアチブやグッド・ヘルス・パス・コラボラティブなどのパートナーシップで主導的な役割を担っています。これらはいずれも、ワクチン接種証明システムやデジタルヘルスパスの開発において、信頼の回復、公平性の促進、連携の推進を担う、業界横断型の作業部会です。
また、多様な外部専門家とSalesforceの現場従業員や幹部で構成される倫理的利用諮問委員会を活用し、倫理的利用に関する課題について、思慮深い議論と指針を得ています。共に前進するには、難しい対話の進め方を学び、立場の違いを越えて意思疎通することが不可欠だと認識しています。積極的に耳を傾けること、安全に意見を伝えられる複数の窓口を設けること、そして説明責任をどのように果たすかを共有することが、困難な時期に信頼を築き、意義ある変化を実現する鍵だと学びました。
「テクノロジーが効果を発揮するには、責任ある形で開発されなければなりません。」
Salesforce 最高倫理・人道的利用責任者、ポーラ・ゴールドマン
こうした教訓は、危機の時期以外にも当てはまります。カリフォルニア大学サンフランシスコ校疫学・生物統計学部の教授兼学部長、カーステン・ビビンズ=ドミンゴ博士は、次のように述べています。「危機はイノベーションのるつぼです。」
危機の前、最中、後を通じて、学びと反復を続けることが事業の成功の鍵です。これまでの取り組みを振り返り、継続的な学びを組織に根付かせるために時間を投資することで、将来の障害により適切に対処できるようになります。


