世界のあらゆる地域で、人々はかつてより長く生きるようになっています。科学の進歩のおかげで、心臓病やがん、感染症で若くして亡くなる人は減りました。80代半ばを過ぎても生きることは、もはや珍しくありません。父は数週間後に92歳の誕生日を迎えます。父が生まれた頃には、ほとんど想像もできなかった節目です。
人々がかつてないほど長生きするようになったという事実は、いつでも喜ばしいことであるはずです。しかし、そうでないとしたらどうでしょうか。
長く生きるほど、慢性疾患を発症する可能性は高まります。関節炎やパーキンソン病、生活の質を損なうほかの非感染性疾患にかかるリスクは、年を重ねるごとに高くなります。しかし、晩年に私たちを苦しめる病気の中でも、社会にとって特に大きな脅威として際立つものがあります。アルツハイマー病です。
80代半ばまで生きると、発症する確率はほぼ50%です。米国では、アルツハイマー病は、効果的な治療法がない死因のうち、死亡者数上位10位に入り、年々患者が増えている唯一の疾患です。ベビーブーマー世代の高齢化に伴い、この傾向は続くとみられます。つまり、愛する人が認知機能の低下に苦しみ、少しずつその人らしさを失っていく姿を見守る家族が増えるということです。負担が増しているにもかかわらず、科学者たちはアルツハイマー病の正確な原因も、脳を破壊するこの病気をどう食い止めるかも、まだ解明できていません。
私が初めてアルツハイマー病に関心を持ったのは、家族や医療制度に及ぼす感情面と経済面の負担が理由でした。病気による経済的負担は、はるかに数値化しやすいものです。アルツハイマー病やほかの認知症を患う人は、神経変性疾患のない高齢者に比べ、医療費の自己負担額が毎年5倍に上ります。多くの慢性疾患と異なり、アルツハイマー病では直接的な医療費に加え、長期介護の費用もかかります。60代や70代で発症すれば、何十年にもわたって高額な介護が必要になるかもしれません。
こうした費用は、先進国の医療制度にかかる負担の中でも、最も急速に拡大しているものの一つです。アルツハイマー病協会によると、米国では2017年に、アルツハイマー病やその他の認知症の人々のケアに2,590億ドルを費やすことになります。大きな進展がなければ、今後数年、数十年にわたり、こうした支出が医療予算を圧迫し続けるでしょう。これは世界中の政府が考えるべき課題です。平均寿命が世界平均に近づき、認知症の人の数が増えている低・中所得国も例外ではありません。
アルツハイマー病がもたらす人間的な損失は、数字で表すのがはるかに困難です。本人だけでなく、愛する人たちの人生も打ち砕く恐ろしい病気です。私の家族の男性たちもアルツハイマー病を患ったため、このことは身をもってよく知っています。愛する人が病気によって精神的な能力を奪われ、苦しむ姿を見守ることがどれほどつらいか、そして何もしてあげられないことも知っています。知っていたその人が少しずつ死んでいくのを体験しているような気持ちになります。
私がアルツハイマー病に関心を持つ理由は、家族の病歴だけではありません。しかし、私自身の経験を通じて、自分や愛する人がこの病気にかかったときに感じる絶望を知りました。かつては確実に命を奪う病気と考えられていたHIVが、薬で抑えられる慢性疾患へと変わる様子を、科学の革新によって私たちは見てきました。アルツハイマー病でも同じこと、あるいはそれ以上のことができると信じています。
この1年間、私はかなりの時間をかけてこの病気と、これまでの進展について学んできました。この分野では、アルツハイマー病の発症を遅らせ、認知機能への影響を抑えるための素晴らしい研究が数多く進められています。研究者、学者、資金提供者、業界の専門家たちの話を聞き、5つの分野で前進できれば、アルツハイマー病の経過を大きく変えられるという希望を持ちました。
アルツハイマー病がどのように進行するのか、より深く理解する必要があります。脳は複雑な器官です。患者が生きている間に脳を調べるのは非常に難しいため、正常な老化の過程や、アルツハイマー病がその過程をどう妨げるかについて、私たちが知っていることはごくわずかです。脳で起きることについての理解は主に解剖に基づいていますが、解剖で分かるのは病気の末期だけで、未解明の謎も多く残ります。たとえば、なぜアフリカ系米国人はアルツハイマー病を発症しやすいのか、またはラテン系の人々は白人より発症しやすいのか、十分には分かっていません。前進するには、根本的な原因と生物学的な仕組みをもっと理解する必要があります。
アルツハイマー病をより早く発見し、診断する必要があります。アルツハイマー病を確定診断する唯一の方法は、死後の解剖であるため、進行の早い段階で確実に病気を特定するのは困難です。認知機能検査はありますが、結果に大きなばらつきが出ることがよくあります。前夜によく眠れなかっただけで、結果が左右されることもあります。血液検査のように、より信頼性が高く、手頃で、利用しやすい診断法があれば、病気の進行を把握し、新薬の効果を追跡しやすくなります。
病気を食い止めるための、より多様なアプローチが必要です。アルツハイマー病の薬には、病気の予防や進行の抑制に役立つさまざまな可能性があります。これまでの薬剤治験の大半は、脳内に斑やもつれを生じさせる2種類のタンパク質、アミロイドとタウを標的にしてきました。こうしたアプローチが成功することを願っていますが、うまくいかない場合に備え、異なる、主流から外れた考えを持つ科学者たちも支援する必要があります。創薬パイプラインの多様性が高まれば、画期的な発見につながる可能性も高まります。
臨床試験に参加する人を、より集めやすくする必要があります。イノベーションの速度は、臨床試験をどれだけ早く実施できるかによっても決まります。病気への理解も信頼できる診断法もまだ十分ではないため、病気の進行が早い段階にあり、参加意思のある適格な人を見つけるのは困難です。十分な数の患者を登録するのに、何年もかかることがあります。参加者を事前に適格審査する仕組みを整え、効率的な登録制度を作れれば、新たな試験をより早く始められます。
データをより有効に活用する必要があります。製薬会社や研究機関が研究を行うたびに、膨大な情報が集められます。こうしたデータを共通の形式でまとめれば、病気がどう進行するのか、その進行が性別や年齢によってどう異なるのか、遺伝的要因がアルツハイマー病の発症しやすさをどう左右するのかを、よりよく把握できます。研究者がパターンを探し、治療の新たな道筋を見つけやすくなるでしょう。
これらの分野でそれぞれ前進することで、アルツハイマー病の影響を大幅に軽減する介入策を開発できると思います。成功を期待できる理由はたくさんあります。脳と病気への理解は大きく進んでいます。すでに前進していますが、さらなる取り組みが必要です。
この研究に取り組む優れた人材を支援したいと考えています。第一歩として、私は認知症創薬基金(Dementia Discovery Fund)に5,000万ドルを投資しました。この民間基金は、臨床開発パイプラインの多様化と、治療標的の新たな発見に取り組んでいます。大手製薬会社の大半は、引き続きアミロイドとタウの経路を追究しています。DDFは、主流から外れた認知症治療法を探るスタートアップを支援し、彼らの取り組みを補完します。
この投資は、財団を通じてではなく、私個人として行っています。最初のアルツハイマー病治療薬が実用化されるまでには、あと10年以上かかるかもしれず、当初は非常に高額になるでしょう。その時が来たら、財団として貧困国での利用を広げる方法を検討するかもしれません。
その方法を考え始める前に、まずは科学上の大きな進展が数多く必要です。開発中の新しいツールや理論を踏まえると、アルツハイマー病の研究開発は転換点を迎えていると私は考えています。高額な治療を負担できない国々が大きな費用に直面し、アルツハイマー病の流行がもたらす予算への影響によって医療制度が破綻しかねない状況になる前に、今こそ進展を加速させるべきです。
ここは、人々の暮らしを大きく改善できる最前線です。人々がこれほど長生きするようになったのは奇跡ですが、平均寿命が延びるだけでは十分ではありません。誰もが晩年を楽しめるようになるべきです。その実現には、アルツハイマー病の画期的な治療法が必要です。闘いに加われることをうれしく思い、これから何が起きるのか楽しみです。



