再生型農業は、食料安全保障を確保し、気候変動への対処を支援する方法の一つです。
AIの進展は、再生型農業への移行を加速させる可能性があります。
低・中所得国で新興技術をどのように活用し、普及させられるかを概説します。
ここ数年、再生への関心が高まっています。緩和策だけでは、もはや十分ではありません。
2019年、ある調査では、米国の消費者の80%が「サステナブル」ブランドより「再生型」ブランドを好むことが示されました。再生型は再生と同義であり、「害を与えない」ことを超えて「害を回復させる」ことを意味します。 これは環境を論じるうえで重要なテーマです。複数のセクターにまたがる潮流である一方、農業・食料システムにとって再生は極めて重要です。例えば、世界の農地の34%は劣化しており、次第に不毛化し、食料、繊維、飼料を生産できなくなるおそれがあります。
農業セクターはまた、世界の淡水取水量の72%を占めており、これは現在脅威にさらされている重要な資源です。この産業は気候変動にも大きく寄与しています。人為起源の世界の排出量の21%から37%は食料システムに起因します。こうした課題を踏まえ、セクターの関係者は農業と食料システムの再生に注力する必要があります。特に、2050年までに約100億人を養うために重要です。
将来の食料安全保障と強靱な食料システムに向けた再生型農業
再生型農業は、土壌の健全性を回復し、地下水位や農場内の生物多様性などの天然資源を強化することで、強靱な食料システムを構築することを中心に据えています。土壌の再生を優先することで、長期的な持続可能性が確保され、より健全で保水力の高い土壌を通じて作物の収量が向上します。また、投入資材の使用を最適化することで、農業由来の排出量を削減できます。農場レベルでは、環境上の課題によりよく耐えられるよう農場のレジリエンスを高め、最終的には収入の安定化につながります。
農業におけるデジタル技術とAIの役割を理解する
再生型農業への世界的な機運に少し先立ち、農業のデジタル化への注目が高まっていました。デジタル化は、農場収入の増加、環境面での成果の向上、小規模農家と連携する際の商業的実行可能性の改善などの利点をもたらします。研究によれば、デジタル農業により、低・中所得国の農業GDPは4,500億ドル超、すなわち年率28%増加する可能性があります。農業における人工知能(AI)の利用拡大は、農家にもたらすこうした恩恵をさらに大きくしています。例えば、AIとデジタル技術を活用した世界経済フォーラムの農業イノベーションのためのAIイニシアチブは、インドのテランガナ州政府と連携し、唐辛子農家の収量を21%増加させることを支援し、農薬使用量を9%削減し、1エーカー・1作期当たり800ドルの所得増を実現しました。

再生型農業とAIの融合:有望な活用事例
農業におけるAIの活用事例の多くは、再生型農業を加速させる可能性があります。ここでは、有望な活用事例を5つ紹介します。
1. 景観レベルの計画に向けた地理空間画像
再生型農業の普及には、個々の農場ではなく、より広い生産地域に焦点を当てる景観アプローチが求められることがよくあります。これにより、天然資源を総合的に管理・再生できます。地理空間データを用いるAIモデルは、広大な土地にわたる土地被覆・土地利用の変化、土壌の健全性、水の利用可能性を分析し、再生型の景観づくりの計画に役立てることができます。マディヤ・プラデーシュ州では、フォーラムのフード・イノベーション・ハブが州政府と連携し、Skymet Weatherとともに地理空間画像を景観計画に組み込む取り組みを進めています。収集したデータは金融手段とも連携され、農家による持続可能な慣行の導入をより効果的に支援します。
2. AIを活用したデジタル普及支援
再生型農業は、研究大学が開発した地域や農場に応じた慣行に依拠します。普及指導員を通じてこうした慣行を伝えるには費用がかかり、指導員と農家の比率が低いため、支援を受けられない農家が多くいます。技術の進歩により、デジタルチャネルを通じた慣行の普及が経済的に実行しやすくなりました。さらに、大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG)モデルを組み合わせれば、地域ごとのデータに基づいて各農場に即した助言を提供できます。また、AIを活用した翻訳により、地域の言語で費用対効果の高い形で情報を届けられ、各地で利用しやすくなります。
3. 農薬使用量削減に向けた害虫予測
農薬の使用は「世界的な人権上の懸念」とされています。再生型農業プログラムでは、農薬使用量を段階的に減らすことを目指しています。画像認識やハイパースペクトル画像に基づくAIソリューションにより、害虫を予測的かつ事前に検知し、農薬の使用を最適化できます。
4. AIを活用した金銭的インセンティブ
再生型農業への移行を妨げる要因の一つは、そのための金銭的インセンティブが不足していることです。炭素隔離に対する支払いなどの金銭的インセンティブは、モニタリングや支払いに多額の費用がかかるため、実施が複雑です。しかし、土壌の健全性を測定するセンサーとAIを活用したスマートコントラクトを用いた最近の実証事業では、支払いの迅速化、ミスの解消、コスト削減が実現しました。多くのカーボンファイナンス企業は、地理空間データを活用したAIモデルを用いて炭素隔離量を遠隔で測定しています。移行を促す同様の革新的なモデルは、1億農家イニシアチブでも活用されています。このイニシアチブは、再生型農業への移行に向けて、金銭的・非金銭的な支援を組み合わせて提供します。AIを通じて、農家と初期投資家の双方に報いることができます。こうした金融モデルを再現するための設計図も、イニシアチブを通じて入手できます。
5. 迅速な土壌検査とプログラムのモニタリング
AIを活用した土壌検査は、土壌の健全性を迅速に評価し、再生型農業の慣行の有効性について精度の高い判断を可能にします。また、地理空間AIモデルを使えば、混作や被覆作物の栽培といった、一般に大規模なモニタリングが難しい慣行を追跡できます。こうした分析は農家の分類にも役立ち、導入段階に応じた個別支援の提供を可能にします。
再生型農業に向けたAIの普及
AIが気候変動対策を確実に促進できるようにするには、現在直面しているいくつかの課題に対処する必要があります。そのための取り組みには、以下が含まれます。
AIのカーボンフットプリントを削減する:AI需要の拡大に伴って電力使用量が増加し、テクノロジー企業からの排出量が増加しています。これらの排出量の削減は不可欠であり、再生可能エネルギーやデータ管理の改善など、削減に役立つ選択肢を検討する必要があります。
データインフラと枠組みを最適化する:効果的なAIモデルには質の高いデータが不可欠ですが、農業データは断片化していることがよくあります。データ共有のためのデジタル公共インフラを構築すれば、組織がデータを再利用・再活用できるようになり、コスト削減につながります。標準を通じてデータ収集を調和させることは、相互運用性を確保し、データ利用を効率化するうえで不可欠です。また、農家の慣行に関するデータを収集し、土壌や水などに関する他のデータセットと照合して、効果のある慣行の根拠を構築することも重要です。
村レベルのサービス提供ネットワークを構築する:農家は、仲介者の支援なしにAIを活用した技術を直接導入することが難しい場合があります。農家へのAI活用サービスの提供を支援する村レベルの人材を育成・配置するには、複数のステークホルダーの連携が必要です。
農業データの蓄積が進み、農家が技術に習熟するにつれて、再生型農業におけるAIの役割は大きくなります。同時に、データが増えれば、既存ソリューションの精度も向上します。したがって、こうした進歩を最大限に活用するには、再生型農業プログラムを設計する段階でAIの活用を計画することが重要です。
AIが世界の農業開発にどのように役立つかについて詳しく知りたい方は、フォーラムのAI4AIチームまでお問い合わせください。
寄稿者:Abhay Pareek、農業イノベーションのためのAI担当リード、第4次産業革命センター。


