人工知能によって社会は変革されつつあります。リスクを抑えながらその価値を最大化するには何をすべきか、私たちが問うことが不可欠です。
これを成功させるには、誇大な期待に惑わされず、必要なものを過不足なく実現する、実践的で現実的なAIのアプローチを築かなければなりません。
AIが安全に発展し、社会全体に恩恵をもたらすには、インフラ、エコシステム、ガバナンスという3つの重要な要素がそろう必要があります。
人工知能(AI)を原動力とする技術変革が社会で進んでいます。人々は、生活のあらゆる場面で使われるプロセスやシステムにAIが何をもたらせるのか、またその影響がプラスとマイナスの両面でどのようなものになるのかを問うています。
同時に、この問いを逆転させ、AIの価値を最大化しながらリスクを最小限に抑えるために、私たちが何をすべきかを問うことも重要です。そのためには、誇大な期待に惑わされず、必要なものを過不足なく実現する、実践的で現実的なAIのアプローチを築く必要があります。
フォレスターの 「2025年のAI予測」 はこう述べています。「2025年のAIリーダーたちの歩みを左右するのは、AIの成功に近道はなく、地道な努力に備えることが不可欠だという重要な認識になるだろう。」
グローバルなインフラプロバイダー向けのAIソリューションに取り組んでいるため、私はAIが求めるインフラの提供に特に注力しています。しかし、それはAIが安全に発展し、社会に恩恵をもたらすために必要な環境の一側面にすぎません。
AIの成功に必要な重要要素
AIに関するこのビジョンを実現するには、インフラ、エコシステム、ガバナンスという3つの重要な要素がそろう必要があります。
1. インフラ
データセンターからウェアラブル技術に至るまで、AIを支えるインフラのあらゆる要素が、経済、社会、環境の面でAIのコストと価値に影響します。
クラウド・エッジ・接続性の連続体
より多くの計算能力をエッジに配置する傾向が加速しています。スマートフォン、センサー、産業機器などのデバイス上で処理することで、AIモデルはデータをローカルで処理でき、遅延を減らし、プライバシーを高め、リアルタイムの意思決定を可能にします。
しかし、エッジコンピューティングによって、堅牢で高速、大容量のネットワークが不要になるわけではありません。むしろ、その必要性は高まります。エッジデバイスは、モデルの更新、複雑な計算のオフロード、より広範な分析に向けた知見の共有のため、中央のクラウドシステムと同期する必要がしばしばあります。例えば、農業用ドローンの群れは、画像データを直ちに機上で処理しつつ、傾向の集約、モデルの再学習、予測の改善にはクラウド接続を必要とする場合があります。
ローカル処理と中央集約型のインテリジェンスのこの相互作用は、認知アーキテクチャや行動科学に見られる原則を想起させます。ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』 で説明されているように、知的な行動には、迅速で直感的な反応(システム1)と、より遅く熟慮を重ねる分析(システム2)の両方が関わります。
同様に、農地を監視するドローンは、システム1に相当する即時の判断のため、画像データを機上で素早く処理する一方、システム2に相当する時間をかけたデータ集約、モデルの再学習、戦略の改善にはクラウド接続を利用できます。この二つのモードを備えたAIシステムを設計すれば、人間の認知が直感と熟慮のバランスを取るのと同じように、より適応的で効率的、かつ状況を踏まえた動作が可能になります。
AIにはクラウドとエッジのシームレスな通信が求められるため、膨大なデータをリアルタイムに移動できる、極めて信頼性が高くスループットに優れた接続性が必要です。これは、動画、音声、センサーフュージョンなど、データ量の多い種類を扱うAIのユースケースで特に重要です。この需要に応えるには、ネットワーク技術のあらゆる層で継続的にイノベーションを進めることが不可欠です。
さらに、AIが緊急サービスから産業オートメーションまで、ミッションクリティカルなシステムにますます統合されるにつれて、基盤となるネットワークのレジリエンスとセキュリティが極めて重要になります。そのため、ネットワークは速度だけでなく、冗長性、フェイルオーバー、サイバー脅威からの保護も考慮して設計する必要があります。
接続性を最優先の要素として扱うデジタルインフラに投資しなければなりません。AIは脳かもしれませんが、神経系にあたる高性能ネットワークがなければ、そのエンジンは動きません。
電力とイノベーションの力
AIの電力需要は、経済面でも環境面でも、急速に最も差し迫った課題の一つになりつつあります。GPT-4のような大規模AIモデルの学習には、数百万キロワット時の電力を消費することがあります。モデルの規模と複雑さが増すにつれて、カーボンフットプリントも大幅に増加し、持続可能性への懸念が高まっています。
推論、つまりAIモデルの導入後の日常的な利用も、大規模になると急速に積み重なります。こうした需要に応えるには、モデルの効率性やハードウェア設計だけでなく、電力の調達方法にもイノベーションが必要です。AIモデルは設計段階から効率を高めなければなりません。大規模な汎用モデルと同等の性能を実現する、より小型で特化したモデルは、計算処理の負荷をはるかに低く抑えられます。
2. エコシステム
アプリケーションのエコシステム
AIをユーザーに届けるアーキテクチャの設計では、AIの活用をできる限り包摂的にし、技術者と、AIを利用するより広範な人々との間にあるデジタル格差を埋めることに重点を置くべきです。
今日、開発者コミュニティはAIの未来を形づくるうえで重要な役割を担っています。倫理的なAIモデルの作成からオープンソースAIツールへの貢献まで、開発者はAIの基盤層を構築し、支える存在です。アルゴリズム、学習データ、フレームワーク、導入戦略に関する選択は、技術的な性能と社会への影響の両方を左右します。
幸い、AI技術を利用できるのは、もはや専門家に限られません。ローコードおよびノーコードのプラットフォームの台頭によってAI開発が民主化され、技術者ではない人々や中小企業も、現実の課題にAIの能力を活用できるようになりました。この利用しやすさは、包摂的なイノベーションに向けた重要な一歩です。デジタル革命で歴史的に取り残されてきたコミュニティが、AI時代に参加する道を開きます。
AIをめぐるデジタル格差を埋めるのは、単にツールの問題ではなく、人々の問題です。責任ある開発には、人材、研究、分野横断的な協働が欠かせません。AIの可能性は、産業分野をつなぎ、分野を越えたイノベーションから新たな価値を生み出す力にあります。
あらゆるAI開発の中核にあるのはデータです。データへのアクセス、そしてその収集、共有、利用方法に関する判断は、依然として人間の手に委ねられています。明確なガバナンス、同意、包摂性に基づく責任あるデータ管理が、AIシステムの公平性と適用可能性を左右します。質が高く、代表性のあるデータに公平にアクセスできなければ、どれほど高度なAIであっても、偏見を強めたり、意図されたユーザーに役立たなかったりする恐れがあります。
デバイスのエコシステム
AIの発展と社会への影響を左右するもう一つの重要な要素が、デバイスのエコシステムです。前述のとおり、デバイスのエコシステム自体がAIの発展に大きく依存する一方、この二つは連動して発展します。
AIが物理世界でリアルタイムかつ状況に応じたインテリジェンスを提供するには、スマートフォン、センサー、ウェアラブル機器、産業機器、車両など、日常的に使われるデバイスに組み込まれる必要があります。こうしたデバイスはAIの目、耳、指先となり、学習して行動するために必要なデータを捉え、必要な場所、つまりエッジで知見を届けます。
堅牢で革新的なデバイスのエコシステムがなければ、AIは中央集約型の環境に閉じ込められ、物理世界とのやり取りから切り離され、リアルタイムに認識し、応答し、適応する能力を持てない恐れがあります。例えば、予知保全モデルの性能は、それにデータを送るセンサーの性能に左右されます。また、生成AIアシスタントは、ユーザーのスマートフォンやノートパソコン上で応答性よく動作してこそ役に立ちます。
これを支えるため、デバイスのエコシステムは絶えず進化しなければなりません。デバイスはより小型で高性能、省エネルギーになり、AIの処理をローカルで実行できる必要があります。低消費電力チップ、エッジAIアクセラレーター、バッテリー技術、適応型接続プロトコルのイノベーションが、この進化に不可欠です。同様に、エッジAIの信頼性と拡張性を確保するには、セキュリティ、アップデート可能性、相互運用性の向上も重要です。
3. ガバナンス
AIのセキュリティとガバナンスには、トップダウンとボトムアップを組み合わせたアプローチが必要です。トップダウンの設計では、AI活用のための柔軟なガードレールの構築を中心に据えるべきです。
ボトムアップの設計では、説明可能なAI(XAI)などの機能を活用し、可観測性と制御に重点を置く必要があります。それを、観測した状況に応じて迅速に調整できる柔軟なトップダウンのガードレールと結びつけ、制御を維持します。技術は急速に進化するかもしれませんが、その利用を導く公平性、説明責任、透明性、安全性という価値は、人々が意図を持って定め、継続的に見直さなければなりません。
世界経済フォーラムは、人工知能のためにどのようなガードレールを構築しているのか。
AI卓越センターは、各分野のリーダーをつなぎ、人工知能の急速な進化と、それが経済や社会にもたらす影響への理解を深めています。また、AI導入に伴う機会、リスク、トレードオフについて、十分な情報に基づく対話を支援しています。
信頼できる対話の場と協働の取り組みを通じて、同センターはパートナーが共通理解を築き、AIのイノベーションと利用に関する責任あるアプローチを共に進められるよう支援しています。
デジタル格差を埋めることで、各コミュニティが分野固有のセキュリティとガバナンスを発展させやすくなります。これにより、要件や規制への準拠を最初から組み込んだアルゴリズムを構築し、AIの責任あるアプローチを促進できます。
ガバナンスは、状況に即した適応的なものでなければなりません。責任あるAIの枠組みを、私たちが構築する機械に委ねることはできません。それはむしろ、AIが社会とどのように関わるかについての理解を深めながら形づくられる、人間の価値観の反映です。
正しい問いを立て、適切な目標を定め、適切なシステムを設計する責任は、この記事を読む人間である私たちにあります。


