新たな研究は、拡張現実が現実世界とデジタルで拡張された世界の両方で、人々の行動にどのような影響を与えるかを詳しく調べた。
研究者らは、現実世界の環境にコンピューター生成コンテンツを重ねて表示するゴーグルで拡張現実(AR)を体験した後、AR装置を着用していないときでさえ、人々の現実世界での交流が変化することを発見した。たとえば、人々は仮想の人物が座るのを見たばかりの椅子に座るのを避けた。
研究者らはまた、仮想の人物がいることで、隣に実在の人物がいる場合と同じような影響が参加者に及ぶようだと明らかにした。
「拡張現実技術を使うと、歩く場所や頭の向け方、課題の成績、そして室内にいるほかの人々との社会的なつながり方まで変わり得ることが分かりました」と、研究を主導したスタンフォード大学のコミュニケーション学教授、ジェレミー・ベイレンソン氏は述べる。

今回の発見は、ベイレンソン氏がバーチャルリアリティ(VR)について行ってきた研究の多くと一致する。VRが現実の環境を再現し、利用者を現在の場所から切り離そうとするのに対し、AR技術は利用者の物理的な周囲にデジタル情報を重ねる。
ベイレンソン氏によると、近年、多くのテクノロジー企業は、以前のVR重視から方向転換し、拡張現実ゴーグルなどの製品開発に注力している。
ベイレンソン氏によると、現在のARゴーグルは、実在の人物をリアルに再現した3D映像を、ゴーグル着用者の周囲にリアルタイムで投影できる。これにより、世界各地にいる人々が視線を交わし、言葉を使わずに、ほかにも微妙なニュアンスを伴う方法でコミュニケーションを取れる。ビデオ会議では実現が難しいことだ。
「ARを使えば、現実味のある仮想会議が可能になり、通勤のための自動車利用や対面会議への飛行機での移動が不要になるため、気候変動の危機への対応に役立つ可能性があります」とベイレンソン氏は述べる。「また、この研究は、ARの大規模な利用がもたらし得る社会的影響への関心を高め、技術が普及する前に問題を避けられるよう設計する助けにもなります。」
「クリス」と過ごす
ARが社会的な状況における人々の行動にどう影響するかを調べるため、研究者らは218人の参加者を募り、3つの研究を実施した。最初の2つの実験では、各参加者が目の前の実際の椅子に座る仮想アバター「クリス」と交流した。
最初の研究では、社会的抑制として知られる従来の心理学上の知見が再現された。現実世界で人に見られていると、簡単な課題は難なくこなせる一方、難しい課題には苦戦する。同じことが、拡張現実の中でアバターに見られている場合にも当てはまると、研究者らは明らかにした。
研究参加者は、ARの視野内にアバターのクリスが見えていると、簡単なアナグラムはより速く解いたが、複雑なものの成績は振るわなかった。
別の研究では、参加者がアバターのクリスと交流する際、一般に受け入れられている社会的な合図に従うかどうかを検証した。研究者らは、参加者がクリスの座っていた椅子に座るかどうかを追跡して測定した。
研究者らによると、ARヘッドセットを着用した参加者は全員、アバターの上ではなく、クリスの隣にある空席に座った。席を選ぶ前にヘッドセットを外すよう研究者から求められた参加者のうち、72%はそれでも、以前クリスが座っていた場所の隣にある空席を選んだ。
ARの世界は外した後も続く
「ヘッドセットを着用した参加者が一人もアバターの座っていた席に座らなかったことには、少し驚きました」とベイレンソン氏は述べる。「この結果は、ARコンテンツが物理的な空間に溶け込み、その空間との関わり方に影響することを示しています。ゴーグルを外した後も、ARコンテンツの存在感が残るようです。」
3つ目の研究では、2人のうち1人がARヘッドセットを着用して会話をしているとき、ARが2人の社会的なつながりにどう影響するかを調べた。ARゴーグルを着用した人は、会話相手との社会的なつながりをあまり感じなかったと報告した。
ベイレンソン氏によると、拡張現実の影響をさらに調べるには追加の研究が必要であり、同氏と研究チームは現在それに取り組んでいる。
「この論文は、AR利用の社会心理学的なコストと利点の一端を示したにすぎません。この技術が普及するにつれて生じる影響を理解するには、さらなる研究が必要です」と研究者らは記している。
これらの知見はPLOS ONE誌に掲載された。研究は全米科学財団の支援を受けた。


