3Dプリンティングは医療の未来をどう変えるのか

Professor Tal Dvir (R) and a researcher stand next to a 3-D printer during their interview with Reuters about their development of a 3D printed patch comprised of lab-grown heart tissue and nano-electronics that could potentially revolutionize the treatment of heart disease, at a laboratory in Tel Aviv University March 16, 2016. Picture taken March 16, 2016. REUTERS/ Nir Elias - GF10000365485
In Jason Chuen's views, 3D printing technology is going to transform medicine.Image: REUTERS/ Nir Elias
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新たな研究は、医療分野で今後活用される3Dプリンティングの可能性について、医療従事者に知ってもらうことを目指している。

患者ごとの手術用モデルや特注の義肢、必要に応じて個別に調製する医薬品、さらには3Dプリントしたヒト組織に至るまで、3Dプリンティング技術は医療を変革することになると、Austin Health血管外科部長でメルボルン大学の臨床フェローでもあるジェイソン・チュエン氏は述べる。

Image: メルボルン大学

心臓から血液を運ぶホースのような動脈である大動脈に、ペンほどの太さのステントを挿入して広げる前に、外科医のチュエン氏は、まず患者の症例を使って手術の練習をする。もちろん実際の手術ではなく、プラスチック製のモデルを使う。

同氏のオフィスには3Dプリンターがあり、メルボルンのオースティン病院では、窓辺に色鮮やかなプラスチック製の大動脈モデルが並んでいる。いずれも実際の患者をもとに作られ、CTスキャン、超音波検査、X線画像からプリントされたものだ。

「モデルを使えば、ステントが適切なサイズか、留置するときに正確に適切な形に曲がるかを、より簡単に確認できます」とチュエン氏は語る。

「現在、3Dプリンティングは医療研究の最先端にありますが、将来は医療に携わる私たち全員にとって、当たり前の技術になるでしょう」と同氏は言う。

3Dプリンティングの基本は、コンピューター制御技術を使い、デジタル設計図に基づいて、加熱したプラスチックなどの素材や、金属・セラミックの場合は粉末を層状に重ね、立体物を作ることだ。おもちゃや食品から、必要に応じて予備部品を製造する軍艦、さらにはドローンまで、あらゆるもののプリントに使われている。医療も新たな応用分野の一つだ。

Image: Austin Health 3D Medical Printing Laboratory、メルボルン大学提供

チュエン氏と、メルボルンのオースティン病院のジャサミン・コールズ=ブラック氏が共同執筆した新たな論文は、Medical Journal of Australiaに掲載された。

チュエン氏とコールズ=ブラック氏によると、3Dプリンティングが医療を変えると見込まれる主な5つの分野は次の通りだ。

1. バイオプリンティング

まるで『フランケンシュタイン』に出てくる話のようだが、いずれ人間の臓器を3Dプリントできるのだろうか。チュエン氏は、正確にはそうではないと答える。しかし将来、臓器の基本的な機能を果たすヒト組織の構造を3Dプリントし、一部の移植を不要にできると確信している。

科学者たちはすでに、臓器を微小なスケールで模倣し、研究に利用できる「オルガノイド」の作製に3Dプリンティングを使っている。幹細胞を用いて作られ、刺激を与えると肝臓や腎臓など特定の臓器の機能単位へと成長する。チュエン氏によると、課題はオルガノイドを、患者の体内で機能不全に陥った臓器を補助できる構造にまで拡大することだ。

こうした「バイオプリンティング」では、コンピューター制御のピペットで、栄養豊富な溶液に浮遊させた細胞培養を吸い上げ、ゲルの中に浮遊させながら層状に「プリント」する。ゲルがなければ、細胞は水っぽく崩れてしまう。

チュエン氏によると、問題は、ゲルの中に入ると細胞が数分で死んでしまうことだ。すぐに作製して栄養溶液に戻せるオルガノイドのような小さな構造なら問題にはならない。しかし臓器のような大きなものを作ろうとすると、臓器が完成する前に最初の細胞層が死んでしまう。

「プリントしている間、細胞を生かしておける画期的な技術が生まれない限り、人間の臓器全体をプリントすることは不可能なままだと思います。ただ、可能性があるのは、オルガノイドや構成要素を確実に作る方法を見つけ、それらを結合して臓器のように機能させることです」とチュエン氏は語る。

2. 1錠に複数の薬

高齢者など、さまざまな病気を抱える人は、1日のうちに何種類もの薬を服用しなければならないことが多い。だが、医師から処方された10錠を1錠にまとめられるとしたらどうだろう。

チュエン氏によると、3Dプリンティングによってそれが可能になりつつあり、個別化医薬品の新たな可能性が広がっている。

決まった時刻に溶けて薬剤を放出するよう設計された錠剤に単一の薬剤を入れるだけでなく、3Dプリンティングの精度を活用すれば、放出時刻の異なる複数の薬剤を収めた錠剤を設計できる。糖尿病と高血圧の患者向けに、異なる3種類の薬剤を含む3Dプリントの「ポリピル」がすでに開発されている。

将来は、医師が処方箋の代わりに、プリントの指示を記したデジタルファイルを渡すようになるかもしれない。

3. 手術のリハーサル

3Dプリントモデルを使って手術の手順を練習した外科医に関する研究では、患者への負担を抑えながら、より短時間で手術を終えられることが示されている。コスト削減の可能性だけを見ても、その効果は大きい。チュエン氏が指摘するように、手術室の運営には1時間あたり2,000豪ドルかかることがある。1分あたり30豪ドルを超える計算だ。

Image: Austin Health 3D Medical Printing Laboratory、メルボルン大学提供

チュエン氏とコールズ=ブラック氏は、オースティン病院の外科医が腎臓腫瘍の摘出を計画する際に役立てるため、患者の腎臓の複製モデルをプリントし始めている。こうした硬質プラスチック製モデルは、熱可塑性ポリウレタンなど、より高価で柔軟な素材でプリントすれば、さらに現実に近づけられる。チュエン氏のオフィスにある硬質プラスチック製の大動脈モデルは、素材費が約15豪ドル(米国では12米ドル未満)だが、軟質プラスチックでプリントすると50豪ドル(米ドルで40ドル未満)まで上がることがある。

生体モデルの3Dプリンティングにかかる実質的な費用は、素材やプリンターだけではない。画像データをプリンター用ファイルに変換するソフトウェアも必要だ。チュエン氏が使う3Dセグメンテーションソフトウェアの費用は、年間約20,000豪ドル(米ドルで16,000ドル未満)だ。

4. オーダーメイドの義肢

3Dプリンティングが普及し始めるとすぐに、人々はペット向けの義肢を手作りする可能性に気づいた。子犬からガチョウ、さらにはカメに至るまで、さまざまな動物が対象になった。人間向けとは異なり、ペット用義肢には大量供給のサプライチェーンがなかった。しかし、患者のニーズに正確に合わせた義肢の製造に3Dプリンティングがますます使われるにつれ、大量供給される義肢は過去のものになる可能性が高い。

「例えば人工股関節置換術では、義肢に合うよう患者の骨を切削して整える必要があります。しかし将来は、患者に合う義肢を3Dプリントするのが普通になるでしょう」とチュエン氏は言う。

5. 分散型生産

3Dプリンティングによって医薬品や医療機器の個別生産が可能になりつつあるのと同様に、生産そのものも地域分散化すると見込まれる。医薬品や義肢を詰め込んだ倉庫は将来、病院や薬局が設計のデジタルファイルをダウンロードし、保管している原材料を使って必要に応じてプリントできる仕組みに置き換わる可能性が高いと、チュエン氏は述べる。

同氏によると、こうした分散型製造により、例えば地域の病院にプリンティング技術があり、原材料を入手できるなら、世界各地で医薬品や医療機器をより公平に利用できるようになる可能性がある。

しかしチュエン氏は、分散型生産によって最終製品の品質管理を確保するうえで、新たなリスクが生じると警告する。医薬品や医療機器の製造場所に責任を移すという、供給業者の責任に関する根本的な転換が必要になる。「これは非常に大きな変化で、どのように機能させるかを考えなければなりません。しかし適切な規制を整えられれば、医療製品へのアクセスは大きく変わるでしょう。」

ただチュエン氏にとって、医療分野における3Dプリンティングの当面の大きな課題は、医療従事者自身がこの技術に精通することだ。応用を成功させるには、医療従事者の臨床経験が不可欠になる。

「医療をより良く、より速く、より個別化する革新的な技術です。しかし必要なのは、より多くの医療従事者がこの新しい技術で何ができるのかを探り、実験し始めることです。不可能だと思っていた多くのことが、今や可能になりつつあるからです。

「思い描くことができれば、それをプリントできる世界へと向かっていると思います。だからこそ、想像し始める必要があるのです」とチュエン氏は語る。

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