ザハ・ハディドは、グローバル化時代を代表する偉大な建築家の一人となるため、イラクを離れなければならなかった。しかし、志を抱くデザイナーにとって道はそれだけではない。「最近、あるアクセラレーターと話をしていたんです」と語るのは、ケスクの創設者、バシマ・アブドゥルラフマンだ。同社は北部の都市エルビルを拠点とする、国内初期の持続可能な建築コンサルティング会社の一つ。「資金提供の条件の一つは、ヨーロッパにいることでした。私は、いや、出ていくつもりはないとはっきり伝えました。何かをするなら、ここでやるつもりでした。わざわざヨーロッパへ行って何をするのでしょう。ヨーロッパには私のような人は必要ありません。私が最も必要とされているのはここです。だから機会を逃しましたが、それでいいんです」
31歳の彼女が直面しているのは、エネルギーと水の使用効率を高め、廃棄物を最小限に抑える持続可能な建物を、環境配慮の考え方がほとんど根付いていない地域で建てるという課題だ。米国留学中に持続可能な建築の概念を知り、自然を愛する彼女はそれに惹かれた。しかし、実際に取り組むことを考えると気後れしたという。「自分一人でできるのか、長い間自信がありませんでした。誰か別の人の主導のもとでやりたいと強く思っていたんです」と彼女は話す。
その後、フェイスブック最高執行責任者(COO)シェリル・サンドバーグの著書にあった、心を動かす一節が彼女の目を開かせた。「『本当に何かをしたいなら、実際にやりながら学べる』と書いてありました。その瞬間、考え方が大きく変わりました。やりながら学べるんだ、と」
その点で、生態系への取り組みがほぼ白紙状態のイラクは、彼女の新会社(社名はクルド語で「緑」を意味する言葉に由来)にとって理想的だ。アブドゥルラフマンによると、最も近い同種の建築・デザイン事務所はドバイにある。建物は世界の温室効果ガス排出量の40%を占めるという研究もあり、持続可能な建築は世界中で差し迫ったニーズとなっている。だがクルディスタンでは、季節ごとの極端な暑さと寒さによって省エネルギーがいっそう重要となり、その必要性は特に高い。
それでも彼女は現在、持続可能な取り組みへの認知を広げるのに苦労している。「私がかなり努力しなければなりません」と彼女は言う。まずは新しい考え方を受け入れやすい大学生向けのセミナーを始めた。また今月、イシュク大学と協力してデザインコンテストも立ち上げた。
ケスクは現在、事業者に対し、既存の建物を改修して持続可能性の基準を満たすためのコンサルティングを行っている。アブドゥルラフマンによれば、金銭面で具体的に説明することは欠かせない。「毎月、あるいは毎年どれだけ節約できるのか、数字で示さなければなりません。『環境にとても良いですよ』と言っても、相手は〔興味のない顔で〕『ああ、そうですか』という反応です。だから、もっと魅力的に聞こえるように伝えます。3年から5年で元が取れ、その後は利益が出る、と」
ケスクの歩みを遅らせているのは、若い女性である彼女への偏見以上に、こうした態度だ(同社はまだ建物を一棟も建設していない)。バグダッドとエルビルのクルド当局との現在の対立も、当面の間、この都市での建設と投資を止めている。バグダッドで育ち、トルコ南部から移住した両親に育てられたアブドゥルラフマンにとって、とりわけ悔しいことだ。彼女はクルディスタンだけでなく、国全体で活動したいと強く望んでいる。
また、世界経済フォーラムのグローバル・シェイパーでもあるバシマは、2、3年以内にエルビルで初の環境配慮型建築を完成させ、その後10年以内にこの地域に環境配慮型の都市をつくることを目指している。ハディド級の野心にも聞こえる。だがまずは、哲学的な基盤を築くという地道な作業を終えるまで待たなければならない。「ここでは、環境を優先するのは難しいんです。人々は、安全保障の状況が最も重要で、その次が経済だと考えています。でも、環境を深刻な問題として捉えていません。ほかの問題と同じくらい、あるいはそれ以上に重大だということに気づいていないのです」



