肥料に欠かせず、世界の食料生産の半分を支える窒素固定は、エネルギーと炭素を大量に消費するプロセスです。
新たな手法により、窒素固定の持続可能性を高めたり、作物の健康と収量を向上させる代替のグリーンソリューションを見つけたりできると期待されています。
世界経済フォーラムは、窒素固定を「グリーン化」する取り組みを、2025年の「注目すべき新興テクノロジー」トップ10の一つに選びました。
窒素は生命を構成する基本要素です。生物の基盤となるタンパク質、核酸、クロロフィルに不可欠です。窒素肥料は、世界人口のおよそ半分を支えていると推定されており、植物の成長と作物の収量を高め、増え続ける世界人口を養っています。
しかし、窒素を工業的に取り出して変換する現在の方法、すなわち「窒素固定」は、エネルギーと炭素を大量に消費するため、より環境に優しい代替策を求める動きが世界的に広がっています。
世界経済フォーラムはこのほど、グリーン窒素固定を「2025年の注目すべき新興テクノロジー・トップ10」の一つに選びました。
窒素固定とは何か、どのように起こるのか?
窒素は地球の大気の78%を占めますが、大気中の窒素(N2)は不活性で反応しないため、植物は利用できません。植物が吸収できるようにするには、アンモニアに変換して「固定」する必要があります。この市場は約80%の成長が見込まれ、2032年までに440億ドルを超えると予測されています。
自然界では、植物と窒素固定細菌の共生によって窒素固定が起こります。自然の働きを補い、植物の成長と収量を高めるには、窒素を大規模に化学固定する必要があります。
肥料産業向けアンモニアの大半は、1世紀以上前に開発されたハーバー・ボッシュ法で生産されています。この方法では、大気中の窒素と水素を高温(約500C)・高圧(100 bar超)の条件下で触媒反応させます。
現在の窒素固定法は、なぜ環境に悪影響を及ぼすのか?
世界の食料生産を支えてきた一方、ハーバー・ボッシュ法は最もエネルギー集約的な工業プロセスの一つで、世界のエネルギー消費量の1%から2%を消費します。そのエネルギーの大半は、化石燃料である天然ガスから水素を生産するために必要です。
その結果、温室効果ガスが大量に排出されます。アンモニア合成は、世界の二酸化炭素排出量の1.5%を占め、さらに、肥料を農地に施す際に放出される強力な温室効果ガスである亜酸化窒素(N20)も発生させます。N2Oの地球温暖化係数は、CO2の約300倍です。
しかし、2050年までに100億人に近づく世界人口を養い続けるには、固定窒素の需要はさらに増加します。
窒素固定をより持続可能にし、温室効果ガスの排出を抑えることを目指す新技術が登場しています。
窒素固定をより持続可能にするには?
アンモニア合成の「グリーン化」に向けた取り組みの中には、基本に立ち返り、細菌を使って自然が窒素を固定する仕組みに着目するものがあります。より効率的に窒素を固定できるよう細菌を改変すれば、作物をそれぞれに適した窒素固定のパートナーと組み合わせられます。最終的には、合成肥料とそれに伴う排出をなくせる可能性があります。
一見すると意外な候補は、池や沼に生育するウキクサです。ウキクサはタンパク質が豊富で、2日ごとに重量が倍増します。スタートアップ企業のFytoは、酪農場から出る窒素を豊富に含む排水を浅い池に張り、ウキクサを栽培しています。収穫後は、そのまま牛の飼料として使うことも、持続可能な肥料に加工することもできます。
世界経済フォーラムは第四次産業革命にどう取り組んでいるのか?
フロンティア技術・イノベーションセンターは、科学者、政策立案者、ビジネスリーダーを結集し、新興技術とその現実社会への影響を理解するための取り組みを進めています。
連携と実験を促すことで、同センターはパートナーが研究成果を実用的な応用へとつなげ、世界共通の課題に取り組めるよう支援しています。
ほかにも、電気化学的な窒素還元に取り組む動きがあります。リチウムを用いた電極触媒を活用するほか、ハーバー・ボッシュ法を改良して再生可能な原料を利用できるようにする取り組みも進んでいます。
アンモニア生産の脱炭素化は、プロセスの中で最もエネルギー消費と排出量が大きい水素合成の脱炭素化を目指す世界的な動きとも結びついています。炭素を含まない「グリーン水素」は、水を電気分解し、天然ガスの代わりに再生可能エネルギーまたは原子力エネルギーで水を分解することで生産できます。既存の化石燃料施設を脱炭素化するには、炭素回収技術でCO2が大気中に放出される前に隔離できます。
しかし、世界的に政策面で機運が高まる一方、どちらの方法も現時点では全体の生産量に占める割合はごくわずかです。
窒素固定に代わる方法には、ほかに何があるのか?
技術革新に加え、より優れた持続可能な農業慣行も、窒素固定が環境に及ぼす影響の低減に役立ちます。
エンドウ豆、豆類、レンズ豆などのマメ科植物は、窒素固定率が特に高い植物です。これらを窒素固定量の少ない作物と輪作することで、土壌を豊かにし、肥料の必要量を減らすことができます。
精密農業も、窒素固定が環境に及ぼす影響の低減に大きく貢献します。データに基づく知見と技術を活用すれば、適切な量の肥料を適切な時期に施せます。散布量を最小限に抑えて無駄をなくし、温室効果ガスの排出から、土壌に残留する窒素濃度の上昇による土壌酸性化まで、環境への悪影響を抑えられます。
窒素固定の未来には何が待っているのか?
窒素固定のグリーン化は、食料安全保障、気候変動対策、持続可能な開発が交わる領域にあります。
グリーン水素とアンモニアは、海運と発電の大規模な脱炭素化を実現すると期待されており、そこで生まれる機運は肥料産業の転換も後押しするでしょう。こうした新たな手法などが現場に導入されれば、増加する食料需要に、より効率的かつ持続可能な形で応えることが期待されます。





