戦略コンサルタントとして数十年にわたり、コスト削減から新たな成長源の発見まで、さまざまな課題に取り組む企業を見てきました。また、貧困や気候変動といった課題への対応を支援してきましたが、その多くはCSRプログラムを通じたものでした。しかし、CSRだけでは、世界規模の大きな問題に実質的な変化をもたらすには不十分です。企業が中核事業の資産を活用して初めて、社会と自社の事業の成功の双方に、測定可能な変化をもたらせるのです。
CSRプログラムの問題は、あくまでプログラムにとどまることです。追加コストがかかることも多く、規模の拡大にも限界があります。経営が厳しくなれば、真っ先に打ち切られるかもしれません。どれほど善意に基づいていても、CSRプログラムを通じて社会的インパクトを追求すると、企業に還元できる便益も制限されます。
中核資産を活用する
社会的インパクトをビジネスモデルに組み込むと、まったく異なる効果が生まれます。サプライチェーン、製造工程、流通網といった中核資産を企業が活用すれば、状況は一変します。社会的インパクトを経営戦略に完全に組み込むことで、業務効率が高まり、新たな市場への進出や、新しい顧客層の獲得が可能になります。
ペプシコを例に見てみましょう。同社のグローバルなサプライチェーンには、ジャガイモなど、多くの製品に欠かせない農産物を供給する小規模農家が含まれています。こうした農家がいなければ、ペプシコは高品質の原材料を安定して調達できません。そのため、農家が収穫量を増やし、収入を高められるよう支援することは、同社の農業サプライチェーンの強化にもつながります。
同社の「持続可能な農業イニシアチブ」は、農業のベストプラクティス、労働者の権利、環境の持続可能性を推進しており、こうした考え方に基づいています。ペプシコは2025年までに700万エーカーを超える農地に取り組みを広げ、農業関連支出の75%を占める規模にすることを目指しています。
双方にとってのメリット
ペプシコにとって、社会的インパクトと事業の成功は切り離せません。農家が繁栄すれば、ペプシコも繁栄します。BCGでは、これを「総合的社会インパクト(TSI)」と呼んでいます。TSIは、企業が社会や環境に影響を及ぼすすべての側面を包括する概念です。
BCGの私のチームと私は最近、消費財、バイオ医薬品、石油・ガス、小売・法人向け銀行業、テクノロジーの5業界の企業が、社会的インパクトの追求を戦略や事業運営にどのように組み込んでいるかを包括的に調査しました。この調査では、環境・社会・ガバナンス(ESG)分野の企業パフォーマンス指標を用い、300を超える組織を定量的に分析しました。
特定のESG分野における非財務パフォーマンスが、企業の評価額や利益率に統計的に有意な影響を与えることが分かりました。他の条件が同じであれば、重要な社会・環境分野で他社を上回る企業は、より高い評価額と利益率を実現するとともに、持続可能な経済の構築や地域の企業・コミュニティの強化にも貢献します。
事業上のメリット
TSIに取り組むメリットは大きなものです。たとえば調査では、消費財業界でインクルーシブなサプライチェーンに関するTSIの実績が最も高い企業は、中央値の企業よりも売上総利益率が平均4.8ポイント高いことが分かりました。バイオ医薬品業界では、TSIの実績が最も高い企業の評価額は業界中央値を12%上回り、医薬品へのアクセス拡大に最も力を入れる企業は、EBITDA利益率が8.2ポイント高くなっています。ここでTSIはTSR(総株主還元)と結びつきます。
もちろん、TSIの意味は企業によって異なります。事業活動と結びつかない方法で問題に取り組もうとしても、企業にできることは限られます。たとえば、貧困問題に取り組みたい保険会社には、貧困地域の栄養状態を改善する能力がありません。一方で、そうした地域の小規模農家向けにマイクロ保険サービスを開発し、収穫量の増加と、家族のためのより良い食料を購入できるよう支援することはできます。
関連性が鍵
万能の解決策はありません。企業はまず、自社の業界やビジネスモデルに関係があり、専門知識と資産を活用して有意義で前向きなインパクトを実現できる分野を、少数に絞って選ぶ必要があります。
たとえば、テクノロジー大手のマイクロソフトが、インターネットアクセスを拡大してデジタル包摂に取り組むのは理にかなっています。2022年までに国内の農村部におけるブロードバンド格差の解消を目指す「Rural Airband Initiative」の一環として、同社は農村部に住む米国人200万人にブロードバンドを届けるプロジェクトを直接支援しています。
格差の解消は簡単ではありません。光ファイバーや固定無線から衛星、テレビのホワイトスペース(UHFテレビ帯の未使用周波数を活用する技術)まで、幅広い技術が必要です。しかし、マイクロソフトがこの課題にイノベーション、技術的ノウハウ、シード資金を投入すれば、より早い解決に貢献できます。同時に、マイクロソフト製品の潜在顧客となる米国人が増え、従業員も新たなスキルや知見を得るため、同社にも利益があります。これはコストを増やすことではなく、より賢く、より革新的な方法で事業を行うことです。
これはコストを増やすことではなく、より賢く、より革新的な方法で事業を行うことです
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政府や非営利団体だけでは世界規模の大きな問題を解決できないことが明らかになるなか、TSIは今日、善をもたらす強力な原動力となり得ます。同様に、企業も単独では行動できません。パートナーシップと協働が不可欠です。パートナーは、市場に関する知識や地方自治体との強固な関係など、互いを補完する能力を提供します。また、企業のインパクトを伝える際に、信頼できる発信者にもなります。
TSIが広く採用されるのは、早ければ早いほどよいでしょう。従来どおりのやり方を続けている間に、世界規模の大きな課題が消えていくことはありません。しかし、民間セクターがNGO、政府、市民社会と協力し、その技能、専門知識、業務上のノウハウを課題の解決に生かせば、解決策はより早く生まれます。企業がTSIの視点で世界を見るようになれば、その社会・環境面での実績は人々と地球に恩恵をもたらすだけでなく、データが示すとおり、TSIは事業価値を高める強力な原動力にもなります。


