異常気象の予測からエネルギーシステムの最適化まで、気候変動対策にはAIがますます取り入れられ、その効果を高めています。
持続可能性の向上にAIを活用する場合、その設計と導入には気候正義を深く組み込む必要があります。
技術革新と環境の緊急課題が交差する今、誰が恩恵を受け、誰が取り残され、誰が決定権を持つのかを問わなければなりません。
人工知能(AI)は、気候変動対策を含むあらゆる分野に浸透しています。異常気象の予測からエネルギーシステムの最適化まで、気候変動対策にはAIがますます取り入れられ、その効果を高めています。しかし、新興技術が既存の不平等を深めたり、脆弱な集団をさらに周縁化したりしないようにすることが、ますます急務となっています。気候正義とは、気候変動の影響を受ける世界において、出自、所得、人種、ジェンダー、居住地域を問わず、すべての人が公正に扱われ、実質的に参加できることです。持続可能性のためのAIの設計と導入には、気候正義を深く組み込まなければなりません。
気候危機と急速に拡大するAI革命という2つの変革の力が交わる今、この問題に早急に向き合う必要があります。米国環境保護庁が2021年に発表した報告書によると、人種、所得、年齢によって定義される社会的に脆弱な人々は、気候変動による深刻な被害を受ける可能性がより高く、その被害には、極端な暑さ、大気質の悪化、洪水などがあります。
同時に、AIが公共サービス、インフラ、リスク管理に関する意思決定にますます影響を及ぼすなか、公平性を意識した取り組みや保護策がなければ、AIが新たな排除の手段となり、不平等を深めるおそれが懸念されています。
これはもはや仮定の話ではありません。AIはすでに、次のような重要な環境分野で活用されています。災害救援、汚染の監視、エネルギー管理です。偏ったデータで学習させたり、周縁化されたコミュニティの意見を取り入れずに設計したりすれば、こうしたシステムは、気候正義が解消を目指す格差そのものを強化しかねません。
AIを導入する際に気候正義を強化する方法は次のとおりです。
公平性を重視した環境AIを設計し、バイアスに取り組む
AIシステムの公平性は、それを支えるデータや前提の公平性に左右されます。気候変動対策では、アルゴリズムのバイアスが目立たない形で現れ、深刻な害をもたらすことがあります。たとえば、スマートフォンやノートパソコンから寄せられた過去の苦情を使って大気質センサーの設置場所を決めるAIモデルは、インターネットへのアクセスが限られている、またはアクセスできない低所得地域や農村地域を見落とし、監視や資源配分が不十分になるおそれがあります。
これは単なる技術的な欠陥ではなく、正義の問題です。社会的な恩恵が公平に行き渡るよう、AIを設計しなければなりません。また、周縁化されたコミュニティが技術や資源を利用しにくい状況も考慮する必要があります。
公正で持続可能な開発のためには、デジタルの仕組みから排除されてきた人々を含む基盤データに基づいてAIソリューションを構築し、導入時のバイアスをなくさなければなりません。透明性も不可欠です。コミュニティの人々が意思決定の方法を理解し、必要に応じて異議を申し立て、自らの暮らしに影響するツールの形成に参加できるようにする必要があります。そのためには、AIモデルを一般の検証に開き、初期段階から参加型の設計プロセスを組み込むことが必要です。また、環境影響評価などのアルゴリズム影響評価を行い、AIが社会や環境に及ぼす影響を評価する必要があります。
データ主権を通じて周縁化されたコミュニティの力を高める
データは力です。そして歴史が示すように、その力は公平に分かち合われてきませんでした。先住民や周縁化されたコミュニティは、AIを活用した気候変動対策に役立つ深い生態学的知識を持つことがよくあります。それにもかかわらず、意思決定から排除され、単なるデータの提供元として扱われがちです。
たとえば、AIを活用した森林減少対策で、ある地域の衛星画像やセンサーデータを収集・分析する一方、地元の先住民に相談しなければ、保全活動が無駄になるおそれがあります。伝統的な生態学的知識をAIの分析に取り入れなければ、間違いは容易に起こり得ます。たとえば、持続可能性を考慮して先住民が設けた輪作的な収穫周期や季節的な褐変により、実際には危険にさらされていない地域が「リスクあり」と判定されることがあります。衛星データだけでは解釈できず、地元の先住民の知識が必要だからです。
地域に根ざした正義のためにAIを活用する政策の枠組みが不可欠です。先住民コミュニティが自らのデータを管理できるようにし、AIモデルを補完するための研修を提供する必要があります。公平な気候変動対策には、特に貧困層や先住民の人々が主導する取り組みが欠かせません。
国連の2024年AIガバナンス報告書は、人権を守り、AIがすべてのコミュニティに役立つようにする、包摂的なグローバル枠組みの必要性を強調しています。これにはデータ主権の尊重も含まれます。データ主権とは、環境データの収集、解釈、利用の方法をコミュニティが管理することです。たとえば太平洋の島嶼国では、コミュニティ主導のドローン活用の取り組みが海岸侵食を積極的に監視し、気候変動への適応に役立つ知見を提供しています。一方、カナダでは、ファースト・ネーションズがデータ主権の取り組みを進め、環境モデリングが監視を可能にするのではなく、自らのコミュニティを支えるようにしています。いずれも、先住民の知識、文化的価値観、地域の優先事項に合わせてAIを活用している事例です。
説明責任を確保し、公正な規制の枠組みを整える
倫理的なAIの基盤となるのは、AIを活用した気候関連の意思決定が不均衡な被害をもたらした場合に、民間と公的機関の関係者に責任を負わせる倫理的なガバナンスモデルです。気候正義の実現にAIを活用するうえで、国際協力、AIアルゴリズムの環境影響評価(およびアルゴリズム影響評価)、監督が不可欠です。
さらに、AIを活用した気候関連の意思決定が不均衡な被害をもたらした場合、救済を求める仕組みが必要です。たとえば、効率を高めて排出量を減らすために、AIを搭載したシステムが廃棄物収集ルートを最適化した結果、少数派住民が多く暮らす低所得地域で収集頻度が下がることがあります。そうした住民が利用しやすい苦情申立ての仕組みを通じて問題を訴えられるようにし、この種のシステムには実効性のある透明性基準と、義務的な影響評価を設けるべきです。
国連の人工知能に関する諮問機関は、AIガバナンスのための、世界各地を包摂する枠組みを求め、機敏性、適応性、人権保護を重視しています。意思決定が人生を左右しかねない気候関連の分野では、こうした原則が特に重要です。さらに、これらの枠組みには執行力がなければなりません。これほど大きな利害がかかる状況では、自主的な指針だけでは不十分です。AIが公共インフラや気候政策にますます深く組み込まれるなか、規制による監督も歩調を合わせる必要があります。
「公正な気候」の未来には「公正な」技術が必要
AIには気候変動対策を加速させる大きな可能性がありますが、それを実現できるのは、慎重さ、先見性、正義をもって活用する場合に限られます。技術革新と環境の緊急課題が交差する今、誰が恩恵を受け、誰が取り残され、誰が決定権を持つのかを問わなければなりません。
AI時代に気候正義を実現するには、システムのあらゆる層に公平性、参加、説明責任を組み込む必要があります。最も大きな影響を受ける人々の声に耳を傾け、権力を分かち合い、コミュニティのためだけでなく、コミュニティとともに設計することが大切です。そうして初めて、AIは包摂的で持続可能な変革のためのツールとして真に役立ちます。



