ケビン・ワーバックとダン・ハンターは、ビジネスにおけるゲーミフィケーションツールの開発を先導してきた。
ここでは、ビジネスをはじめ幅広い分野におけるゲーム思考を取り上げた著書『For the Win』の知見について語る。
ゲーミフィケーションが、ほかの方法では再現しにくい形で、ユーザーに優れた成果をもたらす仕組みを解説する。
ブレット・ロジュラート:まず、ゲーミフィケーションに関心を持つようになったきっかけと、お二人を結びつけたものについて伺いたいと思います。共通の関心である『World of Warcraft』が始まりだったそうですが、そこからどのように発展していったのでしょうか?
ケビン・ワーバック:ゲームと、ゲームの持つ力への共通の関心でした。私たちは当初、二人ともウォートン校の教員で、当時「サイバースペース」と呼ばれていた仮想世界について研究していました。実際には、ダンが私より先にこの研究をしていて、彼らはゲームの仮想世界に注目し、インターネット上のサイバースペースに構築されつつあった仮想世界と比較していました。それが非常に興味深く、ダンも本当に優秀な人だと思いました。そうして友人になり、研究者やジャーナリストなど、仮想世界のゲームを研究する人たちのグループと一緒に、今から15年以上前、発売当初の『World of Warcraft』をプレイし始めたのです。
非常に精巧な仮想世界が実際にはどのようなものなのかを知った経験が、私たちの関心をさらに強めました。その数年後、ゲーミフィケーションという現象が広がり始めると、人々は「ゲームから学び、効果的なゲームを開発する知見を、ビジネスや、私たちが研究している現実世界の課題に応用できる」と言うようになりました。まさにその時、二人とも「これは重要なことだし、理解を深めることに貢献できる」と考え、飛び込んだのだと思います。
ダン・ハンター:ケビンの言うとおりです。そういう経緯でしたが、私にとっては、二人で『World of Warcraft』をプレイしていたときに、はっとする瞬間がありました。ゲーミフィケーションについてはよく耳にしていて、ひとつの動きになり始めていました。ゲーム内で、後々の段階に進むために、いつまでも時間のかかる作業をしなければならなかったことを覚えています。いわゆる「評判稼ぎ」や「ファーミング」で、私たちは半ば喜んでそれをやっていました。でも、もし市場で実際にゴールドを買って済ませていたら、かかった費用は数セントだったでしょう。つまり、高度な学位を持ち、それなりに頭もよさそうな二人が、とんでもなくばかげたことをしていたわけです。
「ゲームは驚くほど人を動かす力があるのだと、はっと気づきました。何らかのゲーム要素でプロセスを包み込めば、人は驚くようなことを成し遂げるのです」
―ダン・ハンター
そのとき、ゲームは驚くほど人を動かす力があり、何らかのゲーム要素でプロセスを包み込めば、人は驚くようなことをするのだと、はっきり気づきました。ときには、本当にばかなこともします。でも、実際には楽しんでいるのです。ゲーミフィケーションについて考えながら二人で座っていたとき、私は「これは本になる。大きなテーマになる」と言いました。
ロジュラート:お二人が初版を出版した『For the Win』は2012年のことでした。『エコノミスト』は書評で、ゲーミフィケーションを「経営の流行」と評しました。それから現在までに、ゲーミフィケーションの分野で最も大きく変わったのは何だと思いますか?
ハンター:私はガートナーのハイプ・サイクルに当てはめて考えています。最初に大きな波が来て、頂点に近づき、誰もが乗ろうとする。ゲーミフィケーションはあらゆるものに導入される、というわけです。バーガーキングがゲーミフィケーションでハンバーガーの販売を伸ばすと言い、実際そうしたと思います。その後、事業者が参入して、「こちらで対応します。プラットフォームをご提供します」と言うようになりました。
そして、当然ながらその波の下降局面に入り、皆が「ゲーミフィケーションなんて、経営の一時的な流行にすぎなかった」と言います。ところが今は、ハイプ・サイクルの波が緩やかに上向きながら受け入れられていく、あの落ち着いた段階に来ています。ゲーミフィケーションだと意識されない分野でも活用されているのです。人々はただ、どうすれば人に行動してもらえるかを考えています。
この点で実に興味深いのは、ゲーミフィケーション一色のプレスリリースを出したり、「最新の取り組みを最初に導入しました」と宣伝したりせずに、こうしたシステムを実装する人たちが増えていることです。もう最新のものではありませんが、今なお非常に強力です。
ワーバック:ええ、むしろ規模は拡大しています。私たちが始めた頃は、期待が現実を大きく先行していました。率直に言って今では、ダンが言うように、ゲーミフィケーションと意識しない導入も含めると、実際の導入は、それについて語られている期待をはるかに上回っています。印象に残っているのは、私が使っている瞑想アプリの例です。連続利用日数を表示する機能があり、アプリを2日、3日、4日と連続して使うと、「連続記録はこれだけの日数です」と表示されました。ところが、その機能は削除されました。アプリの開発者は短い音声メッセージで削除の理由を説明し、「実は、なぜこの機能をアプリに入れたのか、自分でも分からないんです。他の瞑想アプリがみんなやっているから、というのが主な理由でした。でも、私たちが望んでいるものとは違うと気づきました。連続記録を意識して、それに集中してほしいわけではありません。この機能は効果があり、利用者の意欲を高めていました。『連続記録のおかげで毎日使っています。すばらしいですね』と、いつもメッセージが届いていました。でも、これは瞑想アプリです。私たちが大切にしているのは、その瞬間にどれだけ集中しているかであり、利用者にはそこに意識を向けてもらいたい。だから削除しました」と話していました。
印象的だったのは、開発者がそれをゲーミフィケーションだと知らず、なぜ導入したのかも分かっていなかったことです。いつの間にか、当たり前に行うようになり、実際に効果も上がっていたのです。このアプリが機能を削除したのは妥当な判断でした。ゲーミフィケーションをどうして、なぜ行うのか、意識的に考えていなかったからです。それは本書で私たちが強調している点です。このアプリには合わなかった。それで構いません。しかし、この例からは、ゲーミフィケーションという現象について語る人はずっと減った一方で、実践する人は大幅に増えたということがよく分かります。
ハンター:この例でもうひとつ面白いのは、すばらしい例ですが、開発者は利用者からかなり反発されたのではないかということです。「連続記録の機能を戻してください。とても気に入っているし、私たちにとって本当に大切です」と言われたのではないでしょうか。

ロジュラート:新しい版の本には、新たな事例がたくさんあります。この数年で見たゲーミフィケーションの活用例のうち、最も希望を感じさせる、前向きなものは何ですか?
ワーバック:ひとつだけ選ぶことはできません。特に教育や医療分野でゲーミフィケーションが広がっていると思います。どちらの分野にもひどい事例や、これまで触れてきたような、考えなしにゲーミフィケーションを取り入れた事例がたくさんあります。しかし、教育体験を本当に価値あるものにしている例もあります。本で取り上げている語学学習アプリのDuolingoは、ゲーミフィケーションを考え抜いて設計しており、それが大きな成功理由です。医療分野でも同様の例があり、薬を飲むよう促すなど、人々の生活を大きく変えています。本では、ゲーミフィケーションを基盤にした脳卒中リハビリ企業も紹介しています。ビジネススクールの教授として言えば、仕事への意欲を高め、事業指標の改善につなげる手法として語れることは、実にすばらしいことです。しかし、人々の生活を変えることは、それ以上に重要です。
ハンター:私が特に印象に残っているのは、本でも紹介したNeofectです。韓国の企業で、ゲームを使って、患者が手を動かす様子や動作を頭の中で思い描くよう促し、脳卒中患者のリハビリを行っています。これは非常に高度なゲーミフィケーションの活用です。つまり、あなたが言うようなバッジやランキングだけではありません。そうした仕組みもすばらしく、人々の意欲を高め、さまざまな分野で見られます。しかしこれは、ケビンが言うように、人々の生活を本当に変えている例です。
健康やフィットネスの分野では、StravaやFitbitなど、ゲーミフィケーション要素のないアプリを見つけるのはほとんど不可能です。こうした仕組みが広まり、業界全体に浸透したことで、人々全体のフィットネスに大きな変化が起きたと思います。個人としては利用しないと決める人もいるでしょう。しかし、誰かが実際に運動を始めるためのちょっとした後押しは、社会全体の医療という観点から見れば、非常に大きな意味があります。医療と教育に関するケビンの意見には全面的に賛成です。最も広く活用されているのはこの分野です。
ロジュラート:一方で、ゲーミフィケーション的な思考がもたらす潜在的な悪影響も多く取り上げています。本では、中国の社会信用システムや、Robinhoodの利用者がアプリで損失を確認した後に自殺したとされる事例にも触れています。こうした懸念される動向は今後も続くと思いますか。また、システムにゲーミフィケーションを取り入れようとする企業は、どのようにすればこの種の結果を避けられるでしょうか?
ハンター:まず本を読み、問題点を理解すべきです。今の時代に見られるデジタル技術を含め、どのような技術にも避けがたい負の側面があると私は考えています。FacebookやGoogleをめぐる「テックラッシュ」や、現在のTikTokをめぐる騒動などがそうです。こうした技術が広く普及すれば、必ず何らかの悪影響が生じます。人々の生活を劇的に変えるからです。
開発者や実践者が心に留めるべき中心的な教訓は、こう言うことだと思います。「これは人々の生活に大きな変化をもたらす。人々の意欲を非常に大きく左右する可能性がある」。それはビジネスにとってすばらしいことです。望む成果を得るうえでも役立ちます。しかし、人々の生活に深刻な影響を及ぼすこともあります。ソーシャルメディアのような技術を設計する際に倫理原則を取り入れなければならないのと同じように、ゲーミフィケーションにも同様の倫理原則を適用する必要があります。負の側面は非常に深刻になり得るからです。できるからといって、すべきとは限りません。人々がゲーミフィケーションの手法を使い、望みどおりに行動してくれるからといって、それを実行すべきだということにはなりません。こうしたあらゆる手法に対して、私たち全員が注意と責任を持つ必要があります。
ワーバック:本の改訂にあたり、8年か9年ほど前に最初の版を書いたときの内容を読み返して、印象に残ったことがありました。当時から、私たちはこうした問題を論じていたのです。ゲーミフィケーションに伴う倫理面などの問題を懸念すべきだと、明確に述べていました。今では懸念がさらに大きくなったため、本に多くの内容を加えました。しかし、その考えは最初からありましたし、効果的なゲーミフィケーションの進め方を説明する本の構成全体にも深く組み込まれています。私たちはプレイヤーについて考えることを重視しています。ゲーミフィケーションシステムの目標について考える際、「取引が増えれば取引所の収益も増えるから、とにかく人々にもっと取引してもらうことが目標だ」と決めつけて、ユーザーについて話し合わなければ……彼らを操作してしまう危険が常にあります。Robinhoodの悲劇的な取引の例のように、ゲームに夢中になった人を自殺に追い込むものを作りかねません。
「人々を第一に考え、『人々が本当に大切なら、その人たちにとって本当に良い体験を作ろう』と言うことです」
―ダン・ハンター
プレイヤーの利益になることに焦点を当て、「これは、そもそも彼らが望んでいた目標にたどり着く助けになるものだ」と心から言えるなら、倫理面で問題を起こすリスクは大幅に下がります。本書で紹介している枠組みはそのためのものです。また、本書の多くは実践的な手引きであり、新版ではそれを更新しました。そうした内容が、操作的な行為に踏み込むのを避ける助けになると思います。
ロジュラート:本で紹介している、ゲーミフィケーションを実施するための6つのステップを簡単に説明してもらえますか?
ワーバック:6つのステップはすべてDで始まるため、「D6フレームワーク」と呼ばれることもあります。基本的な考え方は、いきなり始めて何かを作るのではなく、まず目標を定義することです。ゲーミフィケーションで何を実現したいのでしょうか。次に、目標とする行動を明確にします。システムのプレイヤーに、具体的に何をしてほしいのでしょうか。次に、プレイヤーについて説明します。人々がどのようなカテゴリーに分かれるかを考え、整理しましょう。ユーザーの各カテゴリーを動機づけるものは何でしょうか。4つ目は、私たちが「アクティビティサイクル」と呼ぶものを考案することです。ゲーミフィケーションシステムの進行を実際に促すフィードバックループとは何でしょうか。
次は、楽しさを忘れないことです。構造やプロセスに集中しすぎて、人々が実際には遊びたくないものを作ってしまうことがあると分かったからです。一歩引いて、「これは楽しいか。本当に夢中になれるものか」と問いかけましょう。そして、最初の5つを終えてから、6つ目の「展開」に進みます。適切なツールを選び、実際に構築します。この順序で進め、体系的なプロセスを踏めば、効果的なシステムに必要な要素をすべて満たせるでしょう。
ロジュラート:ケビンは初版の出版直前に大規模公開オンライン講座を立ち上げ、ダンはゲーミフィケーションと教育テクノロジーを活用するスタートアップを創業しました。お二人は長年にわたり、どのような反応を得てきましたか。また、ゲーミフィケーションやゲーム思考は、教育や現実世界でのご自身の経験にどのような影響を与えましたか?
ワーバック:私は初期のMOOC(大規模公開オンライン講座)のひとつを作り、今も運営しています。世界中で50万人を超える人が受講登録しています。最近では、COVID-19の影響で世界中の人々がロックダウンに入った際、私のMOOCやほかのMOOCに数万人が登録しました。自宅に閉じこもっていたからです。受講者からのメールや投稿された成功談を読むのをやめなければなりませんでした。あまりにも多く、手に負えなくなったのです。多くの人がこうした手法をもとに、人生やビジネスを変え、自分の取り組みを組み立て直す方法を見つけています。それは本当に大きな喜びです。MOOCを作ったとき、ゲーミフィケーションを取り入れるつもりはありませんでした。しかし、ほとんど偶然に行ったことを振り返ると、本で説明している内容とかなり正確に一致していると気づきました。
大切なのは、ゲーミフィケーションが、私たちが「PBL」と呼ぶポイント、バッジ、ランキングに限られないということです。MOOCでは、一定のポイントを獲得すると小さな報酬がもらえるような仕組みはありません。私の教え方も同じです。しかし、コンテンツの導入方法やフィードバックループ、講座の進行を支える多くの原則、そして講座を面白く、意外性のあるものにする小さな工夫など、その構成を見ると、すべてがゲームに基づいています。つまり、ゲーミフィケーションなのです。ここでも、意識的に取り入れるべき方法で実践していたわけではないと気づきましたが、ゲームデザインの基本原則を理解すれば、ゲーミフィケーションには多様な形があると改めて実感しました。
ハンター:ええ、私にとっての大きな変化は、何よりも人々に焦点を当てるようになったことです。この道に入った頃は、「ゲーミフィケーションか。すごく面白い技術だ。活用できる」と考えていました。教育分野で最初に立ち上げたスタートアップは、明確にゲーミフィケーションを取り入れた学習アプリでした。動画を配信し、学習者が内容に取り組むと質問に答えてもらい、その後、本で説明している明示的なゲーミフィケーションの原則に基づいて、さまざまな報酬を与えるものでした。
「プレイヤーの利益になることに焦点を当てれば……倫理面で問題を起こすリスクは大幅に下がります」
―ケビン・ワーバック
その後に立ち上げたスタートアップや教育では、ゲーミフィケーションを万能の決め手と考えるのではなく、人々が本当にしたいことは何かを考えています。たとえば、教育やオンラインコミュニティでの体験を、仕事のように感じたり、ひどく大変だと感じたりしない、楽しいものにするにはどうすればよいか。「授業に出ても退屈で仕方ない」のではなく、「授業に出るのが本当に楽しい」と思ってもらうにはどうすればよいか。あるいは、コミュニティに関わることで心地よさを感じてもらうにはどうすればよいか。私は授業に明示的にゲーミフィケーションを取り入れていません。現在のスタートアップも、ゲーミフィケーションそのものを目的としてはいませんが、その原則を使っています。大切なのは人々であり、人々を第一に考えて、「人々が本当に大切なら、その人たちにとって本当に良い体験を作ろう」と言うことです。本書では、さまざまな分野で本当にすばらしく魅力的な体験を作り始められるよう、必要な知識や内容をお伝えしています。
ロジュラート:ここまで、ゲーミフィケーションのさまざまな事例をお話しいただきました。これまでに出会った、型破りで最も創造的な活用例をひとつ挙げるとしたら何でしょうか?
ワーバック:ひとつだけ選ぶのは難しいですね。いつも感心しているのは、ニューヨークの学校「Quest to Learn」です。ポイントやランキングを使うだけの単純なゲーミフィケーションではないからです。ゲームから学べる原則に沿って、中学校と高校のカリキュラムや構成全体を組み立てたらどうなるかを、深く考えています。その取り組みからすばらしい成果を示すことができています。学校全体の基本原則として、包括的に導入している点が特に印象的でした。
ハンター:すばらしい例ですね。私が何度も思い返し、「なんてすばらしいシステムなんだ」と感じるのはDuolingoです。Duolingoが優れているのは、こうしたことにかけて天才的な人たちが作ったからです。本でも少し触れています。
実際には、さまざまなタイプのユーザーに見事に機能する形で、複数のゲーミフィケーションの仕組みを組み合わせています。物語に強く引き込まれる人に向けた仕組みがあり、そのために夢中になる人もいます。ポイントが好きで、それに意義を感じ、ポイントを集めたい人に向けた仕組みもあります。システム全体を組み合わせ、このように構築すると、「本当に見事な設計だ。さまざまなタイプのユーザーに対応している。ユーザーはそれぞれ異なるが、皆が語学を学んでいる」と思わされます。特に、英語を学び、米国などで学ぶためにTOEFL(外国語としての英語能力試験)を受けようとする人をはじめ、非常に多くの人々の人生を変えてきました。今のところ、最も印象的なゲーミフィケーションの活用例だと思います。
ロジュラート:最後の質問です。新版を読んだ人に、どんな教訓をひとつ持ち帰ってほしいですか?
ハンター:大切なのは人々です。人々に目を向けてください。本来ならしないようなことを人々にさせているのだという事実を、決して忘れてはいけません。責任を持って実践し、同時に、楽しんでもらえるようにしてください。
ワーバック:付け加えることはありません。



