米国では、この20年間に婚姻平等に向けた進展が極めて急速に進んだ。2004年、マサチューセッツ州が同性婚を合法化した最初の州となった。同州に続いて、婚姻平等を認める州は増え続け、2015年には米国最高裁判所の判決により、同性婚が連邦レベルで合法化された。こうした婚姻法の改正は、ゲイやレズビアンに大きな影響をもたらす革命だったのだろうか。それとも、時代が変わったことを認める形式的な表明にすぎず、婚姻(および離婚)の許可件数が増えたこと以外に実質的な影響はなかったのだろうか。
同性婚合法化の経済的影響は大きい可能性があると考える理由がある。過去の類似した改革、たとえば一方の配偶者の申し立てだけで離婚できる法律の制定は、女性の労働参加率を大幅に高めた(Fernández et al., 2014)。一方、影響は小さい可能性もある。LGBT活動家はこの20年間にいくつもの成果を上げ、同性愛に対する意識は着実に、少しずつ改善してきた。その変化が今、法律に反映されているとも考えられる。
同性婚合法化が就業に及ぼす影響も、事前には明らかではない。結婚できるようになったことで、パートナー間の関係がより強固になり(Badgett, 2009、経済的不確実性が低下したほか、税制、健康保険給付、養子縁組法にも変化が生じた可能性がある。こうした変化により、同性との交際関係にある人の一部は、双方が働くことを控えたかもしれない。
反対に、同性愛嫌悪の感情は過少に報告されているものの、依然として広く見られる(Coffman et al., 2017)。ゲイやレズビアンは、雇用主、消費者、同僚から差別を受けることが少なくない(Plug et al., 2004;Carpenter, 2007;Drydakis, 2009)。米国で同性カップルの関係が認められた後、意識や社会規範が改善したことは、すでに研究で示されている(Keitzer et al, 2014;Tankard et al., 2017)。欧州でも同様の変化が確認されている(Aksoy et al., 2018)。より一般的に言えば、公民権法制は雇用主が認識する社会慣習に影響を与えうる(Donohue et al., 1991)。したがって、同性婚の合法化によって社会規範が変化し、性的マイノリティに対する差別が減った結果、ゲイやレズビアンの就業が増えた可能性がある。
同性婚合法化が就業に与えるプラスの影響
新しい論文では、2008年から2016年までの米国最大規模の調査(米国地域社会調査)のデータを用い、婚姻平等を導入した州の同性カップルと、同性婚をまだ合法化していない州の同性カップルを比較する。こうした比較に基づき、同性婚の合法化後、ゲイやレズビアンのカップルでは双方が就業している可能性が高まったと結論づける。この増加(2.4パーセントポイント)は、一方の配偶者の申し立てだけで離婚できる法律の制定(Stevenson, 2007)や経口避妊薬の導入(Bailey, 2006)の影響に匹敵する。
世帯主とその配偶者または未婚のパートナーの双方について、個人が就業する確率にも同様の上昇が見られた。男性同士のカップルと女性同士のカップルを別々に調べても、差は確認できなかった。同じ州内で異性カップルと同性カップルを時系列で比較した場合も、同様の結果が得られた。さらに、同性カップルの経済状況の改善は異性カップル世帯を犠牲にしたものではなく、同性婚法制の前後で異性カップルの就業水準は安定していた。
分析をさらに進めたところ、婚姻平等の導入後、同性カップルはフルタイムで働く可能性が高まり、週あたりの労働時間も増えていた。意外なことに、同性婚が認められても、ゲイやレズビアンのカップルが子どもを持つ傾向は高まらなかったようだ。同性婚を合法化した州への移住が急増した証拠も見つからなかった。最後に、図1に示すように、所得・就業状況調査(SIPP)の別のデータを用いても、主な結果が裏付けられた。また、法改正前の推定値はすべて、統計的にゼロと区別できなかった。これらの結果から、労働市場の改善は、同性婚合法化前に一般の人々の意識が変化したことで実際にはもたらされた、という仮説は退けられる。

根底にあるメカニズムとしての差別
同性婚の合法化によって労働市場での差別が減り、その結果、ゲイやレズビアンの労働者の就業水準が上昇したという仮説を支持する証拠を示す。
就業の増加は、同性婚をしたカップルに限られず、未婚の同性カップル、単身者、性的指向を隠して同居する「クローゼット」の人々にも及んでいるようだ。歴史的に不寛容だったブルーカラー職を含む、男性優位の職業に就くゲイやレズビアンの労働者の割合は、同性婚合法化以降、上昇した(Plug et al.,2014)。同性婚の合法化後、同性愛嫌悪を示す語句のGoogle検索件数は大幅に減少し、その状態が長く続いた。
政策上の結論
ここ数十年に見られた女性の労働参加率上昇と同様に、同性婚の合法化は、同性カップルの労働力への参加を促した。米国の労働力人口の5%(ゲイやレズビアンの人口のおおよその推計値)について、就業確率が2%上昇したとすれば、16万人の雇用増につながった可能性がある。
このように、同性婚の合法化は経済成長を促し、人的資本のより効率的な配分につながる可能性がある。ラテンアメリカの多くの国では、近年同性婚が合法化されたか、婚姻法の改正が検討されている。一方、アフリカと東南アジアのほとんどの国では、同性愛は排斥されるか、かろうじて容認されている。インドはつい最近、150年前に制定された植民地時代のソドミー法を廃止した。本論文は、こうした法律が各国の労働市場の状況に影響しうることを示唆し、婚姻平等を支持する経済的根拠を示している。
本研究はまた、米国の制度による同性カップルの法的承認は、単なる言葉ではなく、強い力を持つ行為であることを示唆している。立法上の決定は一つひとつ、社会規範が変わり、差別はもはや容認されないというメッセージを、雇用主、同僚、消費者、そしてLGBTの人々に伝えてきた。

