このシンプルな転換が、視力の弱い数十億人の前進を切り開いた

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  • Meet The Leaderは、世界経済フォーラムが隔週で配信するポッドキャストです。世界を変える第一線の人々を取り上げ、効果的なリーダーに欠かせない習慣や資質を紹介します。

  • 慈善家のジェームズ・チェンは、手頃な価格で視力ケアを受けられない人々の課題を解消するため、国際キャンペーン「Clearly」を立ち上げました。

  • 手頃な価格の眼科ケアを健康問題ではなく経済課題として捉え直したことで、各国の政策課題に位置づけるために不可欠な政治的支持を得ることができました。

眼鏡が発明されたのは何百年も前ですが、今なお22億人が視力の弱さに悩んでいます。

ジェームズ・チェンは慈善家で、この一見シンプルな課題、すなわち視力ケアの格差を埋め、眼科ケアを手頃な価格で提供する方法に、約20年にわたり取り組んできました。

その取り組みの中で、彼はVision for a Nation Foundation(保健省が地域の眼科ケアサービスを提供できるよう支援)と、Adlens(度数調節可能な眼鏡の開発を先駆ける企業)を設立しました。

しかし、手頃な価格の眼科ケアを健康問題ではなく経済課題として捉え直すまで、目に見える進展はありませんでした。この転換により、眼科ケアがGDPから雇用創出まで、さまざまな目標の達成に不可欠であることをリーダーたちが理解できるようになりました。彼の教育イニシアチブであるClearlyは、昨年7月に初めて採択された視力に関する国連決議の実現を後押しし、眼科ケアを世界的な政策課題に押し上げました。

チェンによれば、変革には新たなツールだけでは不十分です。解決策を効果的に届けるには、政治的支持と組織体制が必要だと、彼は身をもって学びました。

「Clearlyキャンペーンの最大の貢献は、おそらく、世界の人々、政策立案者、政府のリーダーたちに向けて、この問題の捉え方を根本から変えたことです」とチェンは語りました。

世界経済フォーラムは、仕事の未来に向けてどのような取り組みを行っているのでしょうか?

チェンは「Meet The Leader」で、起業家が代々続く家系に生まれたことが、粘り強さを保つ助けになったと語りました。その背景は、社会課題への取り組み方や、彼が「ムーンショット型慈善活動」と呼ぶ考え方を形づくりました。チェンによれば、慈善家が専門分野の知識を深め、社会課題の解決に積極的に関わり、リスクを引き受けるとき、独特の力が生まれます。

「この取り組みを通じて、私の指針となってきたのは、限られた資金を意図的にリスクの高い型破りなアイデアに投じ、非対称なインパクトをもたらすと感じたものに賭けることでした」と彼は語りました。

エピソードの書き起こし

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:人生を変えるきっかけとなった発見について教えてください。自分に視力の問題があると気づいたときのことです。

ジェームズ・チェン:私は家業を営む家族の三代目です。家族は製造業の会社を築き、歴史の中で時期によって上海、香港、インドネシア、スーダン、ガーナ、コートジボワールで事業を展開し、現在もナイジェリアで事業を続けています。いわば、私は世界を渡り歩く第一世代だと思っています。

香港で生まれ、3歳のときにナイジェリアへ移り、小学校に通いました。その後10歳で英国の寄宿学校に入り、高校と大学は米国で過ごし、働き始めた頃も米国にいました。それからアジアに戻り、アジアのさまざまな新興地域で働きました。

高校時代はニューヨーク州北部にいました。運転免許を取りたくて申請書に記入しに行くと、最初に受けるのは視力検査でした。

その視力検査に落ちました。そのとき初めて、目に問題があり、視力に問題があると気づいたのです。視力を矯正できていなければ、人生に大きな影響が出ていただろうと気づきました。若い頃にも影響はあったのでしょうが、そのときは目に問題があるとわかっていませんでした。

先進国でも、支援の網からこぼれ落ちる子どもがいます。例えば米国では、眼鏡が必要な子どもの約25%が、眼鏡を持っていないか、処方度数が合っていません。

アフリカで育ち、その後、キャリアの初期にアジアの新興地域で働いた経験もあります。途上国では実際に眼鏡をかけている人が非常に少ないことに気づき、そのことがずっと頭に残っていました。

私は眼鏡をかけているのに、彼らには眼鏡が必要ないのだろうか。それとも眼鏡を手に入れられないのだろうか。もちろん、今では後者だとわかっています。手に入れられないのです。これまで多くの挫折を経験しても、視力矯正へのアクセスを妨げる問題を理解しようと、この業界での取り組みを続けてこられたのは、私自身に眼鏡が必要であり、それが人生の進路を変えたからです。

手頃な価格の眼科ケアが抱える課題を理解する

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:視力に問題があると気づかなかった理由の一つは、こうした途上地域の多くで暮らしていたことだとおっしゃいました。それも関係していますか?

ジェームズ・チェン:はい、その通りです。当時は、途上国で暮らしていたことや、各地を移動していたこともあって、私も支援の網からこぼれ落ちていたのだと思います。今日でも興味深いことに、先進国でさえ、視力検査を受けて必要な矯正を受ける機会を逃す子どもが大勢います。例えば米国では、最良の推計でも、眼鏡が必要な子どもの約25%が眼鏡を持っていないか、処方度数が合っていません。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:先進国でも途上国でも、必要な眼科ケアを受けるうえで、どのような障壁があるのでしょうか?

ジェームズ・チェン:その取り組みの一環として、私は実際に本を書きました[『Clearly:700年の歴史を持つ発明が世界を永遠に変える方法』です。視力の問題と課題、特に途上国における状況を扱っています。あらゆる課題は、基本的に「4つのD」と呼ぶものに分類できるとまとめました。

一つ目は診断(diagnosis)の問題です。視力検査をしてくれる人が必要です。視力矯正や眼鏡が必要かどうかを判断することが第一です。

二つ目は流通(distribution)です。途上国の人々に、適切な度数のレンズが入った眼鏡を届けることが大きな課題です。それが可能だとしても、非常に費用がかかります。

三つ目は資金(dollars)です。仕組みを整えるための費用だけでなく、個人が眼鏡を買えるだけの収入を得ているかという問題もあります。

四つ目は需要(demand)です。これは私自身が子どもの頃に抱えていた問題で、自分が知らないことはわかりません。どんな世界があり得るのかも理解できないのです。世界はこういうものだと思い、ぼやけて見えるのが普通だと思ってしまいます。眼鏡をかけて初めて、「わあ、なるほど」と気づくのです。

つまり、本当の見え方がどのようなものかに気づく前に、眼鏡をかけてもらい、よりよく見えるようにすることが大切です。これが「4つのD」です。

手頃な価格の眼科ケアを普及させるために

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:期待したほどの支持を得られなかった初期の取り組みについて教えてください。

ジェームズ・チェン:先ほど触れたClearlyキャンペーンは、始まってまだ5年ほどです。それ以前は10年以上取り組んでいました。私自身、始めた頃は眼鏡が必要だということ以外、この問題について何も知りませんでした。何が行われているのかもわかりませんでした。先進国に住む私たちにとっては、ショッピングモールや大通りの小売店に行けば眼鏡店があるという、何の苦労もないことに思えました。

店に入り、検査を受けて眼鏡を選べば、それで終わりです。手間はほとんどかかりませんが、そのモデルは途上国では機能しません。

そのため、取り組みの初期は、課題や障壁を理解するための急な学習の連続でした。最初の数年間は、深く調べれば調べるほど問題が出てきました。解決策を見つけていたというより、次々と新たな問題を掘り起こしていたのです。

先ほど触れたように、私は度数調節ができる眼鏡を製造する会社から始めました。特にアフリカで育った私には、それが流通コストを大幅に抑え、必要な人に適切な度数の眼鏡を届ける方法として直感的に思えたのです。

そのため、とても期待していました。世界銀行を訪ね、多くの時間をかけて説明し、先方の見解を理解しようとしました。長い話を手短に言えば、2年間努力した末に失敗しました。

まさにこうした道のりでした。第一に、問題を学ぶこと。そして、挫折や失敗に向き合うことです。立ち止まって、「これは複雑すぎる。頭が痛くなるほど大変だ」と言いたくなるものです。

専門家は、そもそも実現できないと言います。それでも、あなたの、あるいは私の未熟さゆえかもしれませんが、「ちょっと待ってください。いや、できると思います」と考えるのです。専門家でないことが助けになる場合もあります。頑固なまでに粘り強く取り組むことには、価値があるのだと思います。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:度数調節可能な眼鏡を使った取り組みは、どうして失敗したのでしょうか。その経験から何を学びましたか?

ジェームズ・チェン:靴ひもを結ぶと、結び目がいくつもできてしまうことがあります。靴ひもをほどくには、その結び目を一つずつゆっくり解いていくしかありません。

深く調べるほど、課題にはこうした結び目があるとわかりました。4つのDを一つずつ、骨の折れる作業ではありますが、すべて検討し、それぞれの課題と、どうすれば結び目をほどけるのかを理解する必要がありました。

ごく初期には、「自分は新参者で、初心者だ」という感覚があり、周囲の人は実現できないと言っていました。「本当にできるのか」という自信のなさもありました。

幸い、優れたアドバイザーのグループがいて、「世界銀行のような人たちも、眼鏡業界の専門家も間違っていると思う」と言ってくれました。なぜ彼らのほうが正しいと思ったのか、自分でもわかりません。でも、またこの点に戻りますが、私自身が眼鏡を必要としていること、毎朝眼鏡をかけることが、反対や挫折が続く中でも取り組みを続ける支えになりました。

違いを生んだ転換

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:視力を持続可能な開発の課題として捉え始めたとき、取り組みが前進し始めましたね。お聞きの皆さんのために説明すると、SDGsは国連の持続可能な開発目標です。貧困や教育などに取り組む、2030年までの具体的な目標を掲げた、相互に関連する17の目標です。つまり、単なる医療の問題から、「国を変革したいなら、人々が見えるようにする必要がある」と伝える方向へと切り替えました。健康と福祉の問題として扱われていたときには優先されなかったのに、「成長と経済の鍵だ」となった途端、人々が注目し始めたのは興味深いですね。この点について少しお話しいただけますか?

ジェームズ・チェン:まさにその通りです。Clearlyキャンペーンの最大の貢献は、おそらく、世界の人々、政策立案者、政府のリーダーたちに向けて、この問題の捉え方を根本から変えたことです。

キャンペーン以前、視力の弱さは保健分野の枠内で扱われていました。保健省には優先課題が山ほどあり、視力が弱い人の問題より優先度が高いと思われるものもたくさんあります。失明している人ではなく、見え方がぼやけているだけの人の問題は、直感的には優先度が低く見えるのです。

エイズ、マラリア、子どもの栄養不良など、より重要に思える問題が数多くあります。教育分野でも、おっしゃるように学習や生産性など、視界がぼやけている人の問題より優先度が高く思われる課題がほかにもあります。

キャンペーンを通じて私たちが成し遂げたのは、問題の捉え方を変えたことです。ある意味、SDGs、つまり持続可能な開発目標が登場した時期に恵まれたのだと思います。視力の弱さを矯正することが、こうしたSDGsのいくつかを達成するための重要な糸口になると示せました。

この点が世界の人々の心に響き、「なるほど、その通りだ」と理解してもらえたのだと思います。世界には視力の弱い人が22億人います。視力が矯正されなければ、生産性、教育の成果、ジェンダー平等など、世界の人々が改善を約束してきた多くの分野に波及効果が及ぶことは、直感的にもわかります。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:視力と生産性のつながりを示す研究も推進されていますね。「PROSPER(農村住民の老視解消による生産性調査)研究について、どのような研究なのか、また何が意外だったのかを教えてください。

ジェームズ・チェン:PROSPER研究は、インドのアッサム州で主に高齢女性の茶摘み労働者を対象に行ったランダム化比較試験です。対象者をサンプルとして、半数には視力矯正を行わず、残り半数には視力矯正を行いました。

その結果、視力矯正を受けた人たちの生産性は平均で約22%向上しました。45歳を超える人では、実に32%以上の向上でした。これは週に丸1日分、生産性が上がるのに相当すると考えれば、その影響の大きさがわかるでしょう。

私たちが知る限り、研究されたあらゆる保健介入の中でも、おそらく最大級の効果です。査読付き学術誌『ランセット・グローバル・ヘルス』にこの研究が掲載されたことで、視力の弱さと、今回の場合は農業生産性との関連を示す根拠が明らかになり始めました。

眼鏡の着用状況(介入群のみ)と、評価期間中の介入群・対照群における生産性の向上率(年齢別)Image: ランセット

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:ウェルカム・トラストと進めている研究もありますね。いくつかの知見と、特に注目される点についてお話しいただけますか?

ジェームズ・チェン:はい。ウェルカム・トラストとの共同研究は、実際に始まったばかりです。昨年末にウェルカム・トラストの承認を得たところです。

これから4つの研究試験を始めるところですが、基本的には同じ方向性で、教育成果との関連や、高齢者向けサービスとの関連を示そうとしています。ベトナムで行う研究もあります。これはSDGではありませんが、視力の弱さと事故、あるいは交通安全との関連を調べる非常に興味深い研究です。

現在、アフリカでは交通事故が30歳未満の人々の最大の死因です。視力の弱さと交通事故の可能性との関連は、直感的にはわかります。しかし、その関連を実際に定量化する研究はこれまでありませんでした。ベトナムでの研究では、その解明を目指しています。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:7月に起きたことについてお話ししましょう。昨年夏、国連は視力に関する初の決議を採択しました。何年にもわたり取り組んできたキャンペーンの成果ですね。この決議の内容と、なぜ重要だったのかを教えてください。

ジェームズ・チェン:Clearlyキャンペーンにとって、まさに夢のような成果だったと言えるでしょう。2015年にSDGsが採択された頃、私たちはキャンペーンを始めました。訴えてきたのは、「世界が忘れていた問題がここにある」ということです。

2021年、国連が全会一致で決議を採択し、視力矯正は世界の人々が取り組むべき重要な課題だと認めたうえで、2030年という目標を定めたのです。各国は、すべての国民が視力矯正を受けられるよう努めることになります。期限が定まり、世界各国が約束した今、眼科分野の関係者が一丸となり、政府がこの約束を果たせるよう支援する方法を考える段階です。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:政策課題の一つになったのは大きな成果です。でも、そこに至るまでにどれほど多くの努力が必要だったかにも驚きます。

ジェームズ・チェン:その通りです。同僚にはこう話しています。「皆で祝っていますが、これはようやく問題を解決する取り組みを本格的に始められるということです」。これまでの18年間は、問題が存在することを人々に納得してもらうための時間でした。これからは解決方法を考えなければなりません。簡単な課題ではない、と言うべきでしょう。

ただ、先ほど触れたように、眼鏡は700年前からあり、視力矯正を必要とする22億人の大多数にとって、解決策の中心となるものです。解決策はすでにあります。新たに開発しなければならないワクチンのようなものではありません。

今必要なのは政治的な意思と、アクセスを実現できる組織体制です。もちろん、資金の問題もあります。これにも取り組んでいます。特にパンデミックの時代には、決して小さな問題ではありません。ご想像の通り、限られた資源をめぐる競争は大きな課題です。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:決議が公表された日は、どんな気持ちでしたか?何を考えていましたか?

ジェームズ・チェン:現実とは思えないような気持ちでした。キャンペーンにとって夢のような成果が、実際に実現したのです。高い目標を掲げ、当然その達成に向けて努力しますが、大きな成果を本当に得られることは多くありません。ですから、本当にうれしかったです。多くの人々の努力があったからこそ実現できたのだと言わなければなりません。その道のりには、実現を可能にしてくれた真の擁護者や功労者もいました。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:各国が自国内の視力の問題に取り組み、すべてがうまく進んだとしたら、世界はどのようになるでしょうか?取り組みの前と後では何が変わるのでしょう?

ジェームズ・チェン:世界の人々が気にかけているのは、「GDPや生産性にどのような影響があり、それが所得にどうつながるのか」ということだと思います。私たちが進めている研究でそうした関連を明らかにすれば、政府はこの課題の優先順位を上げる自信を持てます。

投資収益率の観点から考えれば、非常に高い収益が期待できることがわかります。つまり、人々の生活水準が改善し、所得が増えるということです。

一方で、生活の質という問題もあります。定性的なものなので、測定は簡単ではありません。しかし、家族や個人がよりよい暮らしを送り、より大きな可能性を実現する助けになると、私たちは強く信じています。

例えばアフリカの典型的な家庭についての証言があります。女性、つまり母親や娘たちは家族の支えです。一般に母親は家族のために料理をします。しかし、視力を失いかけると、料理や食材を切るといった家事を十分にできなくなり、その役割は娘に回ります。その結果、娘が学校に行けなくなったり、家族のために働いて収入を得られなくなったりするかもしれません。

このような影響は数多くありますが、何よりも、視力が改善し、はっきり見えるようになれば、本人の生活の質は大きく向上します。

資金調達、そして機能する解決策を見つける

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:資金を集めるには何が必要か、私たちにもわかるよう説明していただけますか?

ジェームズ・チェン:やはり、すべては比較の問題です。持続可能な開発目標について読んだところ、SDGs達成に5兆ドルが必要だという数字があったと思います。その中で考えれば、視力に関する部分はかなり小さいでしょう。

私が目にした最良の推計では、今後10年間、毎年140億ドルを投じられれば、この問題に取り組むために必要な資金規模をまかなえます。私の経験では、問題にお金をつぎ込むだけでは解決しないからです。

実際に、どうすれば実現できるのかを考えなければなりません。そこにはまだ疑問点もあります。しかし、必要な主要なツールはすでに存在しているので、解決不能な問題ではないと思います。あとは組織体制や政治的意思があれば、実現できます。

資金について言えば、私たちが話している規模は、10年間でおよそ1,400億ドルです。気候変動をはじめとする多くの課題はさておき、SDGsだけに必要な資金全体と比べれば、この額です。

この数字は政府にも受け入れられやすいかもしれません。各国政府のレベルで見れば、より対処しやすい額に分けられるからです。

よろしければ、関連する点をもう一つ取り上げたいと思います。資金を確保できたとしても、目標額がいくらであれ、課題は残ります。これは慈善活動についての所感ですが、社会課題への取り組みに多額の資金が使われている一方で、資金が効果を上げていないように見えたり、詐欺や浪費の事例が多く見つかったりして、失望することがよくあります。

しかし、私自身の経験を振り返ると、リスクの高いアイデアに資金を出すという高リスクのアプローチは、今日の世界に欠けていて、切実に必要とされているものだと思います。新しいアイデアや方法を見いだして試し、うまくいくものを拡大するためのリスクマネーです。私たちが目指していることを表すために、「失敗は民間が引き受け、成功は社会で分かち合う」という言葉を考えました。

失敗したときは、私たち慈善家がその損失を引き受け、成功したときは世界と共有します。これが、世界の問題に取り組む「ムーンショット型慈善活動」の中核となる考え方です。

「私たちが目指しているのは、失敗は民間が引き受け、成功は社会で分かち合うことです。」

ジェームズ・チェン、慈善家、Clearly創設者

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:それは非常に重要な点だと思います。慈善家はリスクを取る必要があると、あなたは強く信じていますね。これまでそうなってこなかったのは、なぜでしょうか。

ジェームズ・チェン:そうですね。まず、実行するのが本当に難しいからだと思います。ここに至るまで18年、19年かかりました。その過程でリスクを取れば、挫折や失敗は避けられません。それは非常に大きな精神的負担になります。

特に初期のころは、私は何も分かっていないのに、専門家は皆「いや、できるはずがない」と言っていました。そこには自信を失う気持ちや、ばかにされるのではないかという恐れもあります。つまり、頭よりお金のほうがある人だと思われるのではないか、ということです。

「挫折や失敗は避けられません。それは非常に大きな精神的負担になります。」

ジェームズ・チェン、慈善家、Clearly創設者

もちろん、処理するのが非常に難しい感情もあります。圧倒的に不利な状況でこの取り組みをしているとき、「初期の世代が苦労して築いた家族の資産を、私は浪費しているのではないか」と考えてしまうのです。

その資産を底なしの穴に投げ込んでいるようなもので、どんな成果が得られるのかも定かではありません。こうした課題は、非常に現実的なものです。今日、多くの寄付者が行っているのは、慈善活動や後援と呼べるものだと思います。どちらかといえば先手を打つのではなく、事後対応型のアプローチです。リスクを取るより、リスクを避けています。

しかし重要なのは、今日の世界にはリスクを取れる団体や主体がいないということです。政府や企業のような組織を考えてみてください。実際には資本の所有者、つまり納税者や株主の代理人です。彼らにとって、挫折や失敗を説明するのは非常に困難です。一方、私たち民間の慈善活動関係者にはそれができます。自分たちのお金だからです。先ほど述べたように、失敗すれば私たちのお金が失われますが、成功すれば社会全体の利益になります。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:先手を打つアプローチなら、人々は資金の使い道により深く関わり、その分野に情熱を注ぐようになるのでしょうか。

ジェームズ・チェン:人生の多くのことにおいて、努力を注げば注ぐほど、成果に満足できると思います。私たちが目指しているのは、現状から脱し、前進を続け、物事を深く考えて成果を改善していくことです。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:つまり、事後対応型の慈善活動とは対照的に、物事を包括的に捉えて、「分かっているニーズはこれで、それに取り組むにはこう進められるかもしれない」と考えられるのですね。

ジェームズ・チェン:事後対応型の慈善活動を非難するつもりはない、ということも申し上げておきたいです。慈善活動であれ後援であれ、まずは寄付をしないよりはよいことです。

誰もが、特に社会の裕福な人々は、寄付をする義務があり、惜しみなく寄付すべきだと思います。マッケンジー・スコットさんの活動はニュースでも取り上げられていますが、さまざまな点ですばらしいものです。非常に賢明な方法でもあります。彼女はブリッジスパンという団体と協力し、財産を効果的に分配できるよう支援を受けています。

大きな石が波を起こすことはできます。しかし、必要とされる変革の津波を起こすことはできません。

しかし、それを見ても、世の中のあらゆる問題や課題は海のように広がっているという考えが頭から離れません。彼女が持つほど大きな石でも、海に投げ入れれば波は起きます。しかし結局、必要な変革の津波を起こすことはできません。いわば、現状を変えるには至らないのです。

そこで、先手を打つムーンショット型の慈善活動が力を発揮すると考えています。誰にでもできることではありませんが、情熱があり、粘り強く取り組む意思を持つ人なら、世界で最も解決が難しい問題のいくつかに対処するうえで、大きな前進をもたらせると思います。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:リスクを取るという点で、これまでに取った最大のリスクは何ですか。

ジェームズ・チェン:先ほどお話ししたように、最大のリスクはこの道に進み、粘り強く歩み続けることでした。個人的、精神的な負担があります。おそらく、私自身が経験した道のりで最も厳しかったのはその点です。

Clearlyキャンペーンを始める前の話をしましょう。Vision for a Nationが成功した後、Vision for a Nationでは、社会で最も貧しい人々であっても視力を矯正できる、実効性のあるモデルがあることを示しました。それを振り返り、どうすれば規模を拡大できるか考えました。一国ずつ進めていたら、千年かかってしまいます。そこで、枠にとらわれず「よし、Clearlyキャンペーンをやろう」と考えたのです。

しかし、母と妻にこの話をしたとき、当初私が約束した金額は500万ドルでした。二人は「その500万ドルを使うとして、ルワンダでの経験を踏まえると、何人の視力を矯正できるの?」と尋ねました。私は「おそらく100万人」と答えました。二人は「それで十分じゃない?」と言いました。私は「確かに100万人の助けにはなる。でも、残る22億1,990万人はどうするの?」と答えました。

そこで500万ドルを使うとして、100万人のために使うのか、それとも挑戦のために使うのか。成功する可能性は非常に低いですが、成功すれば22億人全員の助けになります。慈善家にとって、この道のりとは、使える資本は限られており、自分たちのお金だけでは問題を解決できないと認識することだと思います。しかし、ゲームチェンジャーを見極めることはできます。リスクはありますが、挑戦して成功すれば、状況を一変させられます。

慈善家の資本には限りがあります。大きな問題を資金だけで解決することはできません。しかし、ゲームチェンジャーを見極めることはできます。

社会活動における起業家精神

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:精神的な負担があるとおっしゃっていましたが、どのような感覚なのか、少し説明していただけますか。

ジェームズ・チェン:一歩引いて、「なぜこんな苦しいことをしているのだろう」と自問します。失敗も、拒絶も、苦しみも、誰も好みません。イングランドのイエズス会系寄宿学校に通った経験が、苦しみがあっても耐え抜く強さを育むのに役立ったのかもしれません。

このムーンショットの道のりに踏み出す慈善家は、決して簡単な道ではないと理解する必要があります。道のりではありますが、厳しい道のりです。問題が簡単に解決できるなら、すでに解決されていたでしょう。しかし、さまざまな関係者がそれぞれの役割を果たせば、解決できます。

私の歩みについてもう一つ大切なのは、私一人で成し遂げたのではないということです。私は資金を提供しましたが、それ以上に重要なのは、専門分野の知識を深めたことで、何に賭けるべきかをよりよく理解できたことだと思います。

そして、協働はとても重要です。ルワンダの保健大臣もそうですし、ウェブソン大使もそうです。国連にいた彼は法的盲人で、私たちの取り組みを支持し、決議案の採択成功に向けて主導し、支援してくれました。この道のりには多くの協力者がいて、優れた人々が私の歩みの成功に大きく貢献してくれました。

「私は資金を提供しましたが、それ以上に重要なのは、専門分野の知識を深めたことで、何に賭けるべきかをよりよく理解できたことだと思います。」

ジェームズ・チェン、慈善家、Clearly創設者

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:行き詰まったと感じた瞬間はありましたか。「ここまでが限界かもしれない」と思ったことは。

ジェームズ・チェン:ええ、道のりのどの段階でも、何度もそう思いました。世界銀行に拒絶されたときが、そうした経験の最初だったでしょう。

しかし、起業家精神のある家庭で育ったことも関係しているのかもしれません。起業家の特徴は、拒絶や失敗を受け止め、もっとよい方法を考え出すことだと思います。別の方法、もっとよい方法で実現するにはどうすればよいのか。挫折から何を学び、どのようにモデルを見直して再挑戦するのか。起業家としての事業経験を持つ裕福な家庭が、こうした慈善活動のムーンショットに取り組むのに適した考え方を備えているのは、そのためかもしれません。

「社会セクターではリスク資本が切実に必要とされています。専門知識を伴うリスク資本を提供できれば、大きな変化を実現するうえで本当に役立つでしょう。」

ジェームズ・チェン、慈善家、Clearly創設者

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:問題解決を慈善家としてではなく、起業家として考えることは、あなたが仕事に欠かせない習慣だと言えますか。

ジェームズ・チェン:金融の世界で私がしてきたことは、シード投資やベンチャー投資にあたります。非常にリスクが高く、失敗する確率は99%という分野です。しかし、1%の成功が指数関数的な影響をもたらします。それによって失敗を乗り越えられるのです。

だからこそ、リスク資本は営利セクターだけでなく社会セクターにも必要だというメッセージを強く訴えたいのです。営利セクターでは大きな違いを生み出すことがすでに示されています。今日の世界で育まれ、成長している新しいテクノロジーを見ても、そのモデルが機能していることが分かります。

そして私が見てきた限り、社会セクターではリスク資本が切実に必要です。専門知識を伴うリスク資本を提供できれば、社会セクターに大きな変化をもたらすうえで大いに役立つでしょう。

おすすめの本

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:おすすめの本はありますか。

ジェームズ・チェン:実は、とても時宜を得た質問です。ちょうど刊行されたばかりの本があります。タイトルは『慈善活動を擁護する』で、著者はベス・ブリーズ教授です。現代の慈善活動批判を取り上げた本です。ここ数年、慈善活動を批判する影響力の大きな本が何冊か出ていますが、この本では、慈善活動が実際にどのように機能し、何を成し遂げてきたのかについての誤解に正面から取り組んでいます。

大きな論点の一つは、「寄付者はより大きな権力を得るためにこうしたことをしている」という批判です。そういう場合もあるかもしれませんが、大切なのは、その権力を何に使うかです。社会全体の利益のためか、それとも自己顕示のためか。どちらの場合もあり得ますが、慈善活動に真剣に取り組む人の多くにとって、特に多大な労力をかけるのであれば、もっと簡単な方法があると思います。

Meet The Leader/リンダ・ラシーナ:その本を読んだ人は、何を得られるでしょうか。

ジェームズ・チェン:この本を通じて伝わってくるのは、情熱は戦略と同じくらい重要だという考えです。小切手を書くだけの話ではありません。自分のスキルや、リスクを取る考え方を生かすことです。そして情熱がなければ、最後まで続けることはできません。

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