心理学者アブラハム・マズローの「欲求の階層」モデルが初めて発表された1943年、世界は今とは大きく異なっていました。世界はコンピューティング・パワーの可能性を実現し始めたばかりの段階にあり、そのパワーは暗号解読者によって、第二次世界大戦を終結させるために活用されていました。
時は進んで2019年、私たちは第四次産業革命という、もう一つの大きな変革の入り口に立っています。さらなる混乱と変化が見られる中で、この人間の動機づけのモデルは、今日のデジタル経済において人々が持つ欲求を理解する上で、どのように役立つのでしょうか?
この問いは、私たちの最近の報告書の中核をなすものです。 『デジタル社会指数2019:アジア太平洋のイノベーションを人間のニーズが原動力とすべき理由』この報告書は、アジア太平洋の国々が社会のすべての人々にとって機能するデジタル経済をどの程度構築しているかについて戦略的な視点を提供するとともに、テクノロジーが人間の基本的な欲求をどのように満たしているかを、非常に個人的な視点から理解する方法も提供しています。
デジタル時代のマズロー
24カ国の43,000人以上を対象とした世界的な調査に基づき、私たちの分析では、テクノロジー主導の現代において、個人が自らの可能性を実現するために何を必要としているのかを検証しました。マズローの欲求モデルに着想を得て、このフレームワークは次の4つの次元で構成されています。

1. 基本的ニーズ
まず基本的なものがあります。人々は、高品質なモバイル・ネットワークやインターネット・ネットワークといったデジタル・インフラへのアクセスに加え、データのプライバシーとセキュリティへの信頼を必要としています。アジア太平洋地域の人々の54%が、このニーズが満たされていると考えており、これは世界平均の49%を上回っています。同地域の多くの市場は、テクノロジー・インフラの面で先進国経済を飛び越えて発展しており(例えば中国におけるモバイル決済の普及を見れば明らかです)、人々はその恩恵を明確に実感しています。
2. 心理的ニーズ
スマートフォンからウェアラブル機器に至るまで、デジタル技術には、新たなコミュニティとつながり、健康サービスにアクセスし、自身の生体情報をモニタリングする大きな力があります。しかし、その裏側もあります。精神的健康への潜在的な悪影響は、ますます広く報告されています。デジタル技術の個人的利用において健全なバランスを保つことは、今日における重要なニーズです。しかし、このニーズが満たされていると考えているアジア太平洋地域の人々は、わずか28%にとどまります。これは世界平均の38%を大幅に下回っています。
3. 自己実現のニーズ
混乱する未来において、充実した雇用を得るというニーズを満たすには、適切なスキル、経験、職場での機会が必要です。アジア太平洋地域の人々の過半数(51%)が、このニーズが満たされていると考えており、世界では45%です。しかし、同地域には大きな格差もあります。中国では、68%の人々が、正規の教育によって必要なテクノロジー・スキルを身につけられたと考えています。日本では、同意するのはわずか18%です。
4. 社会的ニーズ
世界がより相互依存的かつ相互接続的になるにつれて、デジタル経済が社会にとって前向きな力になるという人々の楽観の度合いは、ますます重要になっています。人々は、テクノロジーが自分たちの雇用を生み出し、地球規模の課題を解決し、全体として社会に好ましい影響を与えると信じているでしょうか?アジア太平洋地域の人々にとっての答えは「はい」です。59%がこのニーズが満たされていると考えており、世界では49%です。
これらの結果は、同地域のビジネス・リーダーや政策立案者に対する注意喚起となるものです。アジア太平洋地域の人々は、デジタル面での自分たちのニーズが満たされていることについて、全般的により前向きです。しかし、心理的ニーズ(健康、ウェルビーイング、生活の質)への影響は、顕著な例外です。技術の進歩は、個人にとって代償を伴うものとなっているようです。
これが消費者行動について示すこと
人々のデジタル・ニーズに応えるための行動は、単に正しいことというだけではありません。賢明な選択でもあります。私たちの分析によれば、自己実現と社会的ニーズを満たすことと、デジタル製品・サービスを利用する可能性との間には、強い相関関係があることが示されています。言い換えれば、デジタルに精通しているほど、あるいは将来に対する楽観の度合いが高いほど、例えばオンラインで買い物をしたり、音楽をストリーミングしたり、アプリでタクシーを呼んだり、銀行サービスを利用したりする可能性が高まるのです。
しかし、デジタル・リテラシーの高まりは、個人データがどのように利用されるかに対する信頼が低い状況と相まって、意図しない結果をもたらしています。本調査の前年、世界では10人中4人が、オンラインで共有するデータ量を減らすための措置を講じたと答え、4分の1以上が広告ブロッカーをインストールし、5分の1を超える人々が、オンラインで過ごす時間を意図的に制限していました。しかし、こうした人々は、デジタル製品・サービスを利用する可能性が最も高い層でもあります。最良の顧客は、今や最も接触しにくい存在になっているのです。
デジタル・ニーズとリーダーシップ4.0
第四次産業革命には、強力なリーダーが必要です。しかし、今日のリーダーとはどのような姿なのでしょうか?産業やビジネスモデルを変革し、適切な国際的な枠組みや政策を策定し、最終的に社会がデジタル世界に適応できるようにすることは、決して容易なことではありません。しかし、それは可能です。
それを実現するために、クラウス・シュワブが指摘したように、リーダーは自我を捨てなければなりません。その強みは、共感と協調に根ざしたものであるべきです――「より人間的な、新しい形のリーダーシップ」。
私たちのデジタル・ニーズのフレームワークは、リーダーが戦略に焦点を当て、今日の消費者への理解を深めることができるよう、人間中心の視点を提供するものです。また、リーダーに次のことを思い起こさせます。テクノロジーの将来の可能性は、リーダーの肩にかかっているのではなく、世界中の他の70億人の肩にかかっているのだということです。人間のニーズを自らの取り組みの中心に据えることで、リーダーは後世のためにイノベーションを守ることができます。


