信頼と楽観的な見通しが乏しく、人々は変化の速さに落ち着かない思いを抱いています。
リーダーシップのモデルは、奉仕の精神、倫理、厳格さを基礎とする強固な土台の上で進化しなければなりません。
リーダーは、共創と目的意識、責任の共有、世代を超えた学び、長期的なビジョンを育む必要があります。
個人的な観察からも世界規模の調査からも明らかなように、信頼と楽観的な見通しは乏しい状況です。技術、経済、地政学の変化の速さに人々は落ち着かず、状況が自分たちに不利に働いていると感じています。こうした状況を背景に、リーダーシップの機能不全が生じています。変化の速さについていけず、人々と地球の利益となるよう変化を導くこともできていません。
より良いリーダーシップを実現するには、強固な基盤が欠かせません。リーダーシップを支える基本要素は、奉仕の精神、倫理、そして厳格さです。アリストテレスは約2,400年前、こう記しました。「私たちは徳や卓越性を備えているから正しく行動するのではない。むしろ、正しく行動してきたからこそ、それらを備えるのである……私たちは、繰り返し行うことそのものである。」
フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ(YGL)コミュニティのメンバーもこのことを理解しています。最近の調査では、道徳的な羅針盤を持つことが最も重要なリーダーシップスキルに挙げられ、共感力が2位でした。
リーダーシップにおける4つの戦略的転換
直線的な計画、中央集権化、上意下達の指揮に基づく従来のリーダーシップモデルでは不十分です。課題は、リーダーに不確実性への対処法を教えることではなく、その中で力を発揮できるようにすることです。だからこそ、先進的な組織は、異なる前提に基づく新たなリーダーシップモデルの実現に取り組んでいます。
1. 管理から共創へ
世界はより複雑になり、あらゆる変数を管理することも、把握することさえも不可能です。現代のリーダーは共通の目的意識を築き、それぞれが最も得意とすることを他者に任せます。
権限を持つ一人が難しい決断を下さなければならない場面は、常にあります。しかし、そこに至るまでの過程では、協働が最善です。優れたリーダーシップは、一人の才覚から生まれるのではありません。少なくとも持続的なものにはなりません。組織全体の力と創造性を結集することで生まれるのです。組織の目標は、リーダーシップを生み出す組織になることです。有能な経営幹部を育てるだけでなく、解決策を生み出す力を与えられた従業員を育成するのです。
リーダーシップは孤独なものになり得ますが、リーダーが一人で歩む必要はありません。そうしたいと思うべきでもありません。ASMLの長年のCEOであるピーター・ウェニンクは、著書『あらゆる局面に対応するCEO』の著者にこう語りました。「チームの誰も、私たちが共に成し遂げようとしていることより重要ではない。CEOであっても例外ではない。」
2. 個人の権限から責任の共有へ
共創は、リーダーシップの分権化を意味します。それを機能させるには、責任も共有しなければなりません。そのための重要な要素の一つが、あらゆる階層で耳を傾け、対話する力です。そうすれば、リーダーシップは、人々を集め、主体性を委ね、集合知を活用し、次世代を含む新たな視点に開かれていることになります。
パンデミック初期、当時シンシナティ小児病院の院長兼CEOだったマイケル・フィッシャーは、毎日「どうありたいか」のリストを作っていました。その日に重視したい資質を書き出したものです。これにより、病院が新型コロナ危機に対応する中でも、彼は自らのリーダーシップの軸を保つことができました。また、組織全体や地域の他機関との間に共通の目的意識を生み出し、次の対応を共に考える助けにもなりました。
3. 直線型から世代を超えたリーダーシップへ
経験、専門知識、広い視野は重要です。そのため、組織の階層の上層には通常、その分野で何十年も経験を積んだ人々がいます。シェブロンのCEO、マイケル・ワースが指摘するように、組織の知識がなければ、「大いに役立つ継続性や歴史の一部を見失うことになります」。
しかし、こうした資質がすべてではありません。新たなリーダーシップモデルでは別の資質がより重視され、リーダーへの道が多様な経歴や人々、若い世代にも開かれます。ブラックストーンのCEO、スティーブン・シュワルツマンは、「成功の一部は、起きる前に何が起きるかを想像することです」と述べています。変化が加速し、若い世代のほうが確かな感覚を持つことの多い業界では、これは特に重要です。次世代を加えることで、絶えず変化する世界でのレジリエンスに不可欠な、継続的な刷新のプロセスを始動できます。
4. 短期的な業績から長期的なインパクトへ
金銭や地位など、リーダーシップの報酬の多くは、好調な決算や決定的な選挙のように、ある一時点で得られるものです。そのため、人々が時間的視野の狭さに陥り、持続的な成果を生み出すことより目先の成功に注力してしまうのも不思議ではありません。しかし結局、短期思考は信頼、レジリエンス、長期的な好ましい成果を損なう可能性があります。
この落とし穴を避けるため、リーダーは自らに問いかけることができます。「もし自分が間違っていたら?次の世代のために、何を残し、何を手放すべきか。組織にはどのようなリーダーが必要か。」こうした問いに含まれる謙虚さ、柔軟な思考、忍耐力は、次の四半期を最優先事項ではないと捉える感覚を育てます。ネットフリックス共同創業者のリード・ヘイスティングスは、前提を問い直すことを習慣にしています。チームに失敗の姿を想像するよう求め、こう問いかけます。「10年後、ネットフリックスは倒産した企業になっている。原因としてどんなものが考えられるか。」このようなリーダーシップには勇気が必要ですが、現状への安住に挑むことで、リーダーはレジリエンスを築きます。
明日のリーダーを形づくる
企業のリーダーたちは、変化が加速している一方で、リーダーシップのモデルは課題に対応できるほど速く進化していないと考えています。世界経済フォーラムの「リーダーシップに関するグローバル・フューチャー・カウンシル」は、この進化を検証し、加速させるための実験の場を創設しています。そうして初めて、望む未来を形づくることができます。
この取り組みの前提の一つは、明日のリーダーには、深く耳を傾け、絶えず学び、そして集団で行動する方法を知る必要があるということです。それにより、上述したリーダーシップの戦略的転換が可能になります。もう一つの前提は、リーダーの成功を従来の指標だけで測るのではなく、人々に呼び起こす信頼、育むレジリエンス、そして残す遺産によっても評価すべきだということです。
アリストテレスの師プラトンはこう述べました。「リーダーシップとは命令する力ではなく、奉仕する力である。」この3つの形で進化することで、リーダーは支持する人々により良く奉仕し、自らの基準でも成功を収めることができます。
世界経済フォーラムのリーダーシップに関するグローバル・フューチャー・カウンシル、ヤング・グローバル・リーダーズ・フォーラム、そして「リーダーシップの未来」のインサイト責任者マリー・ソフィー・ミュラーに謝意を表します。


