アスリートも、CEOも、職場や家庭にいる人々も、罵り合います。人によっては、相手を罵ることは呼吸と同じくらい自然なことです。しかし、こうした辛辣な侮辱の標的となった人には、どのような影響があるのでしょうか。ウォートン校の客員研究員でジョージタウン大学の教授でもあるジェレミー・イップとモーリス・シュワイツァー(ウォートン校のオペレーション、情報、意思決定学教授)が、最新の研究「Trash-Talking: Competitive Incivility Motivates Rivalry, Performance and Unethical Behavior(罵倒:競争における無礼な言動がライバル意識、パフォーマンス、非倫理的行動を促す)」で明らかにしようとしたのは、この問いです。 この論文は、ウォートン校の経営学教授であるサミール・ヌルモハメドも共著者に名を連ね、Organizational Behavior and Human Decisions Processes誌に掲載される予定です。3人はKnowledge@Whartonの取材に応じ、研究結果について語りました。
以下は、編集を加えたインタビューの内容です。
Knowledge@Wharton:論文の前提となる考えを教えてください。
ジェレミー・イップ:私たちは、罵倒を概念化し、競争行動における対人関係上の影響を示す実証的な証拠を提示した最初の研究者です。罵倒というと、スポーツや政治の場で行われるものと思われがちですが、組織生活においてもかなり広く見られます。
例を挙げましょう。新千年紀を祝うため、ロンドン市はテムズ川沿いに巨大な観覧車、ロンドン・アイを建設しました。ロンドン・アイをご存じの方も多いでしょうが、建設のスポンサーがブリティッシュ・エアウェイズだったことは、あまり知られていないかもしれません。建設の最終段階で、ロンドン・アイを所定の位置に設置しようとしていたところ、技術的な問題に直面しました。
ヴァージン・アトランティック航空の創業者であるリチャード・ブランソンは、主要な競合相手の窮状に乗じ、ブリティッシュ・エアウェイズに恥をかかせることを狙ったメッセージを発信することにしました。ヴァージン・アトランティック航空に飛行船を手配させ、ロンドン・アイの建設現場の上空を飛ばしました。そこには巨大な横断幕が掲げられ、こう書かれていました。「BA、なかなか立ち上がらないね!!」この公然の侮辱は、ブリティッシュ・エアウェイズとヴァージン・アトランティック航空の長年にわたる競争を激化させました。私たちの論文で探っているのは、競争におけるこうした攻撃的なコミュニケーションです。
Knowledge@Wharton:罵倒をどのように定義しますか。
イップ:私たちは、罵倒を「競争における無礼な言動」として概念化しています。つまり、対戦相手同士の間で交わされる無礼な発言や攻撃的なコミュニケーションです。より具体的には、競争相手が通常、競争の前または最中に口にする、自分を誇る発言や競争相手を侮辱する言葉と定義しています。
興味深いことに、罵倒は米国企業にも広く浸透しています。CEOによる罵倒の例をいくつか挙げましょう。一つは、GMのCEOだったダン・アカーソンの例です。GMがメルセデスのCクラスと真正面から競合する後輪駆動車を発売すると発表しました。メルセデスについてどう思うかと尋ねられると、彼は「Cクラスと呼ぶのは、ごく平均的だからだ」と言いました。もう一つの例は、TモバイルのCEO、ジョン・レジェールです。競合相手の一つであるAT&Tについて、「Match.comの広告の方が、AT&Tの通信エリアマップより正直だと思う」と言って、こき下ろしました。
では、職場での罵倒はどれほど一般的なのでしょうか。研究を始めるにあたり、フォーチュン500企業でフルタイム勤務するオフィスワーカーを募り、資源や評価をめぐって競争する中で、職場で誇らしげな発言や侮辱的な言葉を聞いた、あるいは口にした経験を思い出してもらう予備調査を実施しました。さまざまな事例が寄せられましたが、特に興味深かったのは、従業員の57%が、罵倒は月に1回以上起きると回答したことです。
Knowledge@Wharton:非常に意外な数字ですね。シュワイツァー教授、予備調査と、それに続いて行った実験について、もう少しお話しいただけますか。
モーリス・シュワイツァー:このテーマは本当に広く見られます。私たちは周囲で罵倒を目にします。私たちが調べようとしたのは、罵倒がもたらす結果、特に罵倒を受けた人に何が起きるかです。別の予備調査では、人々は罵倒が動機づけに影響を与えるとは予想していないことが分かりました。しかし実際には、私たちの研究では一貫して、罵倒の標的となった人は非常に強く動機づけられることが分かっています。
[私たちの実験では]文字を数えたり、スライダーを動かしたりするような、ごく単純な作業を参加者にしてもらいます。競争の中で努力を求められると、「負け犬め。あの1ドルは俺のものだ。さもなければ、貸しロバのようにお前を打ち負かしてやる」といった罵倒をする人がいます。こうした言葉の標的になった人は、はるかに強く動機づけられることが分かりました。努力を増やし、成績も上がります。実際、私たちの研究の重要な発見の一つは、罵倒の標的となった人が非常に強く動機づけられることです。
「私たちは、罵倒を『競争における無礼な言動』として概念化しています。」―ジェレミー・イップ
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別の研究では、勝つために非倫理的な行動をとりかねないほど、動機づけが高まる場合もあることを示しました。人々が重視するのは、自分を罵倒した相手を上回ることです。相手を上回るためなら、建設的な努力をするだけでなく、非倫理的な行動にも踏み切るのです。
……こうした建設的な効果に加え、創造性を要する課題を調べたところ、罵倒は実際には妨げになることが分かりました。動機づけを高める一方で、注意をそらすのです。罵倒の標的となった人は、標的とならなかった人よりも、創造的な課題をうまく完了できませんでした。
イップ:一連の研究を通じて、罵倒は競争における心理的な重要度を高め、標的となった人が相手を上回ろうとする動機を強めることを示しました。
競争で罵倒の標的となった参加者は、同じ経済的インセンティブを与えられながら罵倒の標的ではなかった参加者よりも良い成績を収めました。罵倒がパフォーマンスに及ぼす影響は、ライバル意識の認識によって説明できます。つまり、罵倒によって標的となった人は、相手をライバルと見るようになり、その結果、より懸命に競い、努力を要する課題でより良い成果を上げるのです。
私たちの研究は、罵倒によって引き出される動機の種類についても新たな知見をもたらします。罵倒に遭遇した人は、競争に勝って自分の報酬を最大化するよりも、罵倒した相手を罰し、その相手が負けるのを見ることに動機づけられると分かりました。
私たちは、効果が生じる境界条件として、競争的な状況か協力的な状況かを特定しました。私たちの結果によると、競争的なやりとりでは罵倒の標的となった人は努力を要する課題で良い成果を上げますが、協力的なやりとりでは、無礼な言動の標的となった人は努力を要する課題で成果が振るいません。
6つの研究を通じて、罵倒が標的となった人のパフォーマンス、ライバル意識の認識、動機、非倫理的行動、創造性に影響することを示しました。
「私たちの研究では一貫して、罵倒の標的となった人は非常に強く動機づけられることが分かっています。」―モーリス・シュワイツァー
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Knowledge@Wharton:この研究結果は、実務にどのように応用できますか。
イップ:私たちの研究からは、実務に役立つ示唆がいくつも得られます。まず、罵倒をする可能性のある人や、習慣的に罵倒する人に向けて、具体的な助言ができます。罵倒する人は、意図せず相手の動機やパフォーマンスを高めているかもしれないと認識する必要があります。そのため、自分の無礼な振る舞いが対人関係にどのような結果をもたらすか見極められるよう、相手の立場に立って深く考えることを勧めます。
次に、マネジャー、経営幹部、コーチには、従業員を罵倒にさらすタイミングを慎重に考えるよう勧めます。従業員がどのような課題に取り組んでいるかを検討したうえで、意図的かつ戦略的に罵倒にさらすよう促します。私たちの研究結果を踏まえると、従業員が努力を要する定型的な作業に取り組んでいる場合、競争相手が口にした、あるいは発信した罵倒のメッセージにさらすことで、パフォーマンスが向上する可能性があります。しかし、その作業がより高度な認知を要し、創造性を伴うものであれば、罵倒によってパフォーマンスが低下する可能性があります。マネジャーは、罵倒が行動に及ぼすさまざまな影響を認識しておく必要があります。
Knowledge@Wharton:協力的な状況では、罵倒はどのような影響を及ぼしますか。
シュワイツァー:興味深いのは、罵倒は競争的な状況では動機づけになりますが、協力的な状況では大きな破壊的影響を及ぼしうることです。ある研究では、参加者に誰かと協力するか、誰かと競争するかのいずれかをしてもらいました。相手役はサクラでした。報酬を受け取る研究助手で、どちらの場合も同じように罵倒をしました。
相手役は「あなたと組むなんて信じられない。もう負け犬だって分かるよ」といったことを言いました。その後、参加者は協力課題か競争課題に取り組みました。まったく同じメッセージでも、競争課題ではパフォーマンスを高めた一方、協力課題では損ないました。
Knowledge@Wharton:この分野の既存の学術理論に、あなたの研究はどのような貢献を加えますか。
シュワイツァー:私たちの研究は、二つの重要な研究領域と結びついていると思います。一つは、特に競争とライバル意識に関する研究です。ジェレミーが話したブリティッシュ・エアウェイズとヴァージンの例では、罵倒がライバル意識と競争環境の一部になっています。罵倒は人々の動機を高める一方で、対立を深めることも分かりました。ライバル意識は、競争的なやりとりが長期間続く中で生まれるものと考えられます。しかし罵倒は、その関係を急速に進展させ、通常の競争行動を、はるかに激しくライバル意識の強い状況へと変える手段になります。
もう一つ関連する研究領域は、無礼な言動に関する研究です。ジョージタウン大学教授のクリスティン・ポラスらによる、職場での無礼な振る舞いに関する興味深い研究があります。私たちの研究でも、先行研究と同じく、協力的な状況では無礼な言動が破壊的な影響をもたらすことが分かりました。組織内で互いに罵倒し合っても、あまり役に立ちませんが、競争的な状況では興味深い役割を果たす可能性があります。私たちが進めている別の研究では、他のグループを罵倒することが、自分たちのグループの結束を高める可能性も見え始めています。
Knowledge@Wharton:今後、研究をどのように発展させる予定ですか。
イップ:先ほど説明した現在の研究は、二者間のやりとりで、罵倒が標的となった人に及ぼす影響に焦点を当てました。モーリスと私が進めている最近の研究では、グループ間のやりとりにおける罵倒の影響を調べています。グループ間で罵倒がどのような影響を及ぼすか、また、必ずしも標的ではない傍観者にどのような影響があるかを理解することは重要です。現在の研究では、傍観者が罵倒にどう反応するか、また罵倒がグループの結束や機能に役立つかどうかを調べています。
リチャード・ブランソンの例に戻ると、彼はなぜ、巨大な横断幕を掲げた飛行船を建設現場の上空に飛ばすために、それほどの時間と費用をかけたのでしょうか。そうすることで何か利点があるのでしょうか。私たちは、その状況にいた従業員はそれを好意的に受け止め、組織への帰属意識を強める可能性があると仮定しています。その仮説を検証するため、データ収集を始めました。


