いい人は必ずしも損をするわけではない。むしろ、より有能なリーダーかもしれない

UBS employees work in the UBS "fintech lab" at Canary Wharf in London, Britain, October 19, 2016.
What, when and how executives communicate during a crisis is criticalImage: REUTERS/Hannah McKay
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次のような状況を想像してほしい。業績回復の途上にある大企業が、事業の一つを閉鎖しなければならなくなった。CEOはその事業部門の上級管理職を自分のオフィスに呼び集めた。「悪い知らせだ」とCEOは言う。「君たちの事業を閉じる。従業員は約3分の1しか維持できない。発表は数週間後になるので、それまでは何事もなかったかのように事業を続けてほしい」

管理職たちは驚き、沈黙した。「私たちはどうなるのですか」と、ようやく一人が尋ねた。「まだ決まっていない」とCEOは答え、会議は終わりだという合図に、机の上の書類へ目を向けた。チームが部屋を出ていくなか、CEOは心の中でこう思った。やれやれ、これで一段落してほっとした。率直に話したことを、チームもありがたく思ってくれたに違いない。しかし、管理職たちがそれぞれのオフィスに戻ると、この会話から受け取ったものはまったく違っていた。

危機に直面している企業にとって、再編の最中であれ、再編を避けるための措置を講じている最中であれ、これ以上ないほど重大な局面にある。こうした状況では、メッセージが重要になる。内容だけでなく、構成、伝達手段、タイミング、伝え方のトーンも重要だ。危機時に経営幹部が何を、いつ、どのように伝えるかは極めて重要であり、変革のプロセスやその結果に大きな影響を及ぼす可能性がある。だからこそ、危機の際に、より効果的に、そして共感をもって伝えるために、ビジネスリーダーが実践できる一連の原則をまとめた。

メッセージを誤るリスク

企業が深刻な窮地に陥ると、コミュニケーションに割く時間や注意が、意図せず軽視されることがある。経営幹部は、悪い知らせは悪い知らせであり、衝撃を和らげる方法はないと思い込むかもしれない。そうした対応は、本来なら建設的に解決できる状況を損なうおそれがある。

リーダーが共感をもって伝えられなければ、さまざまな悪影響が生じる可能性が高い。

  • 士気は大きく低下する。人員削減が迫っていると知らされると、士気は大きく低下する。従業員は仕事に集中できなくなり、予定されている変更が自分やチームにどう影響するのかを理解しようとして、勤務時間を費やすことがある。組織文化は、協力から競争や対立へと一変し、従業員は自分の役割や責任を守ろうとし、同盟を組み始め、同僚との率直なコミュニケーションをやめてしまう可能性がある。

  • エンゲージメントが低下する。連携の取れていないメッセージは、従業員の意欲を失わせ、無関心な雰囲気を生みがちだ。従業員はしばしば、先行きの不透明さに対し、不安な状態にとどまるよりも、自ら安定を確保しようとする。極端な場合には、将来の成長機会がある、より安定した仕事を積極的に探し始めることもある。

  • 生産性が低下する。事業の将来や方向性が不透明になると、従業員の帰属意識は弱まる。変化はさまざまな感情を引き起こし、多くの人にとって、その感情は恐れに根差したものになりうる。

強引で計画性に欠けるコミュニケーションは、企業文化を急速に損ない、修復に何年もかかることがある。個人のレベルでは、不用意または不十分な伝達がリーダーの評判や信頼性を損ない、危機の収束後に従業員の意欲を高め、再び仕事に向かわせることをいっそう難しくする。

危機時に効果的に伝える

変革のマネジメントについては、多くの学術モデルが提唱されてきたが、リーダーがどう伝えるべきかを扱うものは少ない。CAREという頭字語にまとめられる4つの原則は、危機時の効果的なコミュニケーションの基盤となる。

道筋を描く:危機を通じた主要な出来事を時系列で整理する。ステークホルダーはどこで疑問を抱くだろうか。望む結果を得るために、特定のステークホルダーに特定の行動や対応を求める必要があるのはどの場面だろうか。リーダーは各出来事に先立ち、明確で適切なメッセージをあらかじめ伝え、その出来事の最中と後にも一貫して繰り返す必要がある。こうした状況では、コミュニケーションは多いほどよい。

定期的な会議も役に立つ。たとえば、月例の全社集会でCEOが設定済みの目標に対する進捗状況を従業員に伝え、各地域のリーダーがより個人的な対話や支援を行うことができる。

問題に正面から向き合う:難しい話題や起こりうる結果を避けたり、矮小化したりするのではなく、リーダーは問題に正面から取り組むべきだ。従業員はたいてい、経営陣が考える以上に根本的な問題を把握しており、問題を軽く扱うことは逆効果になりうる。それにより従業員は、リーダーが率直でない、デリケートな知らせに対処する力を従業員に信頼していない、変革への取り組みに対する従業員の意見や貢献を重視していない、あるいは単に現実を把握できていないと感じる。

ステークホルダーのニーズを尊重する:危機時には、それぞれの関係者が固有の懸念やニーズを抱えている。たとえば従業員は、雇用の安定や、予想される給与・福利厚生の削減を心配するかもしれない。極端な場合には、次の給与を受け取れるのか不安に思うこともある。取引先などの社外ステークホルダーは、会社が破産を申請した場合、あるいは申請するときに、支払いを受けられるか、自らの権利がどうなるかを懸念するかもしれない。顧客には、供給が途絶えないという安心が必要な場合がある。政府機関、税務当局、株主、社債権者にも、それぞれ固有の懸念がある。適切なコミュニケーションは、すべてのステークホルダーに敬意と安心を示す手段となる。

共感を示す:リーダーは人間らしさを保ち、冷静かつ専門的で、率直であるべきだ。すべてのコミュニケーションは個人攻撃を避け、敬意を払うものでなければならず、そのためには勇気、率直さ、思いやりの組み合わせが必要となる。リーダーと受け手をつなぎ、個々の状況を理解し、不安に向き合うメッセージは、変革と移行に適した環境をつくる。

CAREが機能する理由

CARE原則の心理学的な根拠は、十分に確立されている。コミュニケーションは一方通行ではない。メッセージ全体とその意味を形づくるために、受け手の視点、ニーズ、声を取り入れなければならない。リーダーは嵐の中で道を示す声となり、パニックや動揺をあおらずに現状を率直に説明し、従業員やチームを結束させ、これから取り組む重要な課題への意欲と足並みをそろえる必要がある。

人間らしさ、理解、忍耐を示すことは、従業員の間に信頼と安心感、そして主体的な関与を築くうえで非常に効果的なコミュニケーション手段である。

全体をまとめる

CARE原則を適用するには、確かな取り組みと体系的なプロセスが必要だ。業務部門のリーダーとコミュニケーションの専門家からなる中核チームは、チームメンバーが知っていることと知らないことを明確にするタイムラインを作成する必要がある。また、再編プロセスにおける説明が必要な主要な出来事を特定する。特に、従業員に特定の対応を求める出来事には注意を払う。

主要な出来事ごとに、経営陣とコミュニケーションチームは具体的なメッセージを決め、ステークホルダーの各層に伝える筋書きを定め、適切なメッセージを適切なグループに適切なタイミングで届ける方法を決める。手紙、会議、公式またはソーシャルメディアのチャネルなどが考えられる。さらに、具体的なメッセージを誰が伝えるかを指定し、担当者が強調すべき点と避けるべき点を明確にし、質問への対応方法を想定しておく必要がある。

最後に、経営陣がこれまでコミュニケーションをうまく行えていなかった場合は、質の高いコミュニケーションの価値や、現実に根差し、将来を見据えたメッセージを保つ方法について、会社のリーダーを教育することから始めるとよい。

要するに、危機時に経営幹部がどう伝えるかは、従業員の関与のあり方や、危機の最中とその後の企業業績に大きな影響を及ぼす。明確で一貫したコミュニケーションを練り上げて伝え、企業にとって必然的にストレスの多い時期に、人々が自分の声を聞いてもらい、大切にされていると感じられるようにするには時間がかかる。しかし、その労力に見合う成果が得られる。さらに、共感をもって伝えることは、人々に接するうえで正しいあり方にほかならない。

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