今日の企業は、存続するために、これまで以上の速さで成長し、革新を進める必要がある。不確実性と変化に満ちたこの環境では、確固とした道徳的な羅針盤を持たないリーダーは、自らの価値観に沿って行動することに苦労する可能性が高い。
ビジネス教育に携わる私たちは、倫理観と責任感を備えたリーダーの育成を常に目指している。しかし、新聞の経済ニュース欄をざっと見るだけでも、もっと取り組む必要があると分かる。リーダーが直面する複雑な意思決定やトレードオフに備えさせることに、より力を入れなければならない。
優れたリーダーシップが持つ道徳的な責務
リーダーは、道徳的な羅針盤を十分に備えてキャリアを始めるというのは誤った思い込みだ。倫理的判断力は、キャリアを通じて学び、育まれる。それは、自分自身の価値観を理解することから始まる。
道徳的な羅針盤を育むうえで、試練となる経験はとりわけ重要だ。しかし調査によると、多くのビジネスリーダーは、自分にとって本当に大切なものは何かを問い直させるような逆境を、あまり経験していない。多くは上昇志向の強い家庭環境に育ち、最も名声ある教育機関で学んできた。顕著な例外はあるものの、多くは研究者シャロン・パークスが「成功の流れ」と呼ぶものに乗ってきた。彼女が指摘するように、「社会は彼らに都合よく機能しているようだ」。
リーダーに価値観がないということではない。価値観はある。ただ、それが何なのかを知らず、ましてや倫理的判断に伴うトレードオフに対処するためにどう生かすかも分かっていない。皮肉なことに、野心、強い達成欲求、そして自分自身の価値観への認識の乏しさが組み合わさると、たとえ善意のリーダーであっても、破綻を招く要因になりうる。
事態が悪化したとき
ニクソン大統領のホワイトハウス法律顧問を務めたジョン・ディーンの話を考えてみよう。彼の回顧録『盲目的な野心』は、政府内で急速に昇進した経緯を語り、ウォーターゲート事件の隠蔽への関与によって有罪判決を受け、収監されるに至ったところで終わる。
ディーンのような話を読んで、彼は単に「悪人」だったと言い切るのは簡単だ。別の見方をすれば、ディーンは比較的経験の浅いリーダーにすぎず、わずか32歳の若さで権力ある地位に就き、その役職に伴う複雑な相互依存関係や責任に対処する備えが不十分だと、後になって気づいたのである。
ディーンの物語の結末は特に劇的かもしれないが、彼の経験は珍しいものではない。リーダーの多くは、説明責任を負う相手であるステークホルダーの期待がしばしば曖昧で相反するため、道徳的主体性を発揮することが予想以上に難しいと感じている。
次世代のリーダーを育てる
ビジネス教育に携わる私たちは、リーダーが倫理的判断力を身につけるために必要な自己探求や内省、ときには個人的な変革を軽視してきた。
私たちの教育が、個人の学び、つまりリーダーシップの責任にかなう考え方や価値観を育むことに焦点を当てる機会は、あまりにも少ない。リーダーシップには権利や特権だけでなく、責務や義務も伴う。とりわけ今日の容赦ない世界経済において、リーダーには、いずれ必ず直面する倫理的ジレンマに対処するための、精緻な内なる羅針盤が必要だ。

また、そうした局面に伴うストレスや負の感情にどう対処するかも学ぶ必要がある。これらの課題は、ほとんどのリーダーシップ教育で見過ごされている。こうした複雑さに対処する力は、キャリアを通じて他者の尊厳を尊重し、倫理的に行動するうえで、リーダーの成否を左右する。
リーダーが自らに問うべきこと
道徳的主体性と勇気を発揮するには、リーダーは次の重要な問いを絶えず考え、自らに問いかける必要がある。私は本当は誰のために働いているのか。私の権利や特権は何か。私の責務や義務は何か。意図したものと意図しなかったものを含め、自分の影響をどう評価するのか。自分にとって本当に大切なものは何か。私の事業によって恩恵を受けたのは誰で、誰が受けるべきなのか。
こうした問いに向き合ってこそ、リーダーは自分にとって本当に大切なものを見いだし、行動を価値観に沿わせ、社会にとってビジネスが前向きな力となるための志を高める道のりを歩み始めることができる。



