デジタル化の波が従来のビジネスモデルを一掃し、政府の透明性を高めて市民に力を与えるとともに、非営利団体や社会的課題に取り組むその他の組織が、今日人類が直面する最大級の課題のいくつかで前進できるようにしている。
それ以前の農業革命や産業革命と同じく、データ主導のネットワーク経済は、イノベーションの新たな波、世界的な経済成長と雇用の拡大、そして国際貿易を生み出す可能性を秘めている。
しかし、この期待は世界規模のネットワークを介したデータ/情報の自由な流通を前提としている。そして、
データ保護、プライバシー、セキュリティのバランスを取る方法を見いだせなければ、こうした取り組みは停滞しかねないという認識が高まっている。これを「信頼の欠如」の顕在化と呼ぶ人もいる。
この信頼の欠如は、個人市民、企業、政府という主な3つのグループに影響を及ぼしており、今、主に3つの理由から表面化している。エドワード・スノーデンによる政府の監視活動に関する暴露、サイバー犯罪者、「ハクティビスト」、国家の支援を受けた「サイバースパイ」によるサイバー攻撃、そしてクラウドとクラウドベースのデータ保存の普及拡大である(ただし、クラウド保存は多くの場合、ローカル保存よりも安全である)。
個人市民が最も懸念しているのはデータプライバシーであり、とりわけスノーデンの暴露を受けてその懸念は強い。しかし、オンラインで収集した個人データを企業が保護できるという市民の信頼も、大手小売業者、金融機関などの組織で相次ぐセキュリティ侵害の報道によって損なわれている。
米国と欧州の双方で、プライベートな情報を自ら管理できなくなったと人々が感じていることを示す調査研究が、顕在化する「信頼の欠如」を浮き彫りにしている。一方、企業は、価値ある知的財産の窃取や、データの窃取または事業活動の妨害を企てるサイバー犯罪者などの執拗な攻撃に直面し、知的財産とネットワークを保護するコストが増大していることを懸念している。
同じく重要なこととして、企業のリーダーたちは、プライバシー、データセキュリティ、監視に対する懸念の高まりが、データの摩擦のない交換によって潤滑されるデジタル経済において、自社の評判や事業遂行能力に影響を与えることを懸念している。
ネットワーク経済において企業は、効率性の向上、製品の性能と信頼性の改善、そして新しく革新的な製品やサービスの開発・提供のために、データ分析と、国境を越える信頼性の高い制限のないデータの流れに依存している。
しかし、政府の監視慣行に関する暴露によって、市民と企業はデータが安全に保護されて流通することへの信頼を損ない、とりわけ一部の欧州諸国では、データの「ローカライゼーション」(データの移転と保存を特定の地域内に限定すること)を求める声が上がっている。
しかし、データのオープンな流通がもたらす利点を踏まえれば、こうした制限は企業、ひいては消費者に大きな代償を強いることになる。多くの場合、新たな暗号化技術はデータのローカライゼーションよりはるかに効果的な代替策となり、データセキュリティとデータ保護をより確かなものにする。
場合によっては、政府がデータを保護するためではなく、国内のテクノロジー企業を外国との競争から守るために、データのローカライゼーションを義務付けることがある。真の危険は、こうした措置が新たな経済保護主義の時代を招き、経済成長を妨げ、
ある調査によれば、欧州のGDPを最大1.1%押し下げる可能性があることだ。
では、何をすべきだろうか。欧州は率先して、データを
制限なく移転でき、世界のネットワークに完全に開かれた、十分に機能するデジタル単一市場を確立すべきだ。(SAPが描くのは、データの保存・処理場所がどの加盟国であっても問題とならない欧州データ空間である。)
デジタル単一市場は欧州域外の事業者にも開かれ、第三国もEUと少なくとも同等のデータ保護基準を導入することを条件に、第三国へのデータ移転を認めるべきだ。中国、ブラジル、インドなどの新興市場を含む国境を越えたデータの自由な流通を確保するには、欧州、米国、その他のパートナーも、市民の正当なデータ保護とプライバシーの権利を守る世界的な合意に向けて取り組む必要がある。
理想的には、SAPを含むITプロバイダーは、欧州の顧客に単一のデータセンターだけでサービスを提供できる。欧州はクラウドコンピューティングがもたらす大きな規模の経済を実現でき、特に欧州のスタートアップや小規模ベンダーは、調和の取れた市場で事業をより速く拡大できるため、その恩恵を受けるだろう。
しかし、この構想の実現には行動が必要だ。何よりもまず、欧州(およびその他の地域)でデータ保護規則を調和させる必要がある。現在、欧州では企業は欧州データ保護指令の国ごとに異なる28通りの実施措置に対応しなければならず、連邦制を採るドイツやオーストリアなど一部の国では、地域レベルの指令も加わる。
たとえばSAPでは、複雑で国ごとに異なるデータ保護規則のため、欧州の顧客との契約締結に数カ月かかる場合がある。さらに、EU域内のデータの流れは、公共サービス、銀行、医療などにおける分野横断的または業種別の規制や慣行によって、依然として妨げられている。EUにおける既存のデータローカライゼーション政策と慣行を徹底的に見直す必要がある。
大西洋の両岸の国々がデジタル経済への転換を続けるなか、構想されている環大西洋貿易投資パートナーシップには、データの自由な流通を可能にする強力な規定を盛り込む必要がある。それは他の世界的な合意のひな型となり得る。
欧州と米国は、監視とデータ保護をめぐる相違を解消しなければならない。双方は、どのような状況で、どのように政府が個人データにアクセスできるべきかを明確にし、透明性のある監督手続きを確立する必要がある。さらに、EUと米国の間で個人データの移転を促進するセーフハーバー協定を強化しなければならない。デジタル経済への信頼を取り戻し、企業と市民の双方にとってその潜在的な恩恵を十分に引き出すには、これらの措置が急務である。
この記事は、 SAP Community Network との協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:ポール・テイラーはテクノロジーおよびビジネスジャーナリストで、現在SAPのシニア特派員兼コラムニストを務める。
画像:2013年2月28日、ワルシャワで男性がコンピューターのキーボードを打つ様子。資料写真。ロイター/カツペル・ペンペル。

