農業は、インドの人口14億人の半数を支えている一方、温室効果ガスと汚染の主な発生源でもある。
テクノロジーを活用した取り組みは、インドの大きな炭素排出を吸収・相殺するとともに、農家の収入増と効率向上にも役立っている。
2070年までに排出量ネットゼロを達成するには、インドの数百万人の小規模農家がカーボンクレジットやその他のカーボンオフセットの取り組みを利用できるようにする必要がある。
世界人口は2050年までにほぼ100億人に達すると予測されている。人口が増えるにつれて、農業業界と農家への圧力も強まっている。
世界の食料を供給する大きな責任を担うのがインドだ。同国は、コメ、小麦、落花生、果物、野菜などの主要食料の世界第2位の生産国である。
農業はGDP全体の約20%を占め、14億人を超える人口の半数以上に雇用を提供し、農村世帯の70%超にとって主な生計手段となっているうえ、インドにとっても重要な産業である。
しかし農業は、森林伐採、土地利用、稲作を通じて温室効果ガス(GHG)排出の主な要因にもなっている。なかでも稲作だけで、世界の農業由来メタン排出量の11%を占める。
インドは世界第3位のGHG排出国であり、炭素排出量の74%は家畜と耕作に由来するメタンによるものだ。また、農業由来の炭素排出量の17.5%は稲作による。
インド北部では毎年、稲わら2,300万トンが焼却され、冬季にはニューデリーの大気汚染の最大40%を占める。その結果、健康面と経済面で年間約300億ドルの損失が生じている。
気候変動にプラスの力となる農業
COP26でインドは、気候変動対策の5つの柱からなる戦略を発表した。公約には、2030年までに炭素排出量を10億トン削減すること、同年までにGDPの炭素集約度を45%低減すること、そして2070年までに排出量ネットゼロを達成することが含まれた。
農業は気候変動の主な原因と見なされる一方で、解決策に欠かせない一部でもある。
土壌を例に考えてみよう。適切な手法や技術を用いれば、農地だけでも最大12億トンの炭素を貯留でき、今世紀の残りの期間にわたって、平均年間GHG排出量の4%を相殺できる可能性がある。
土壌への炭素隔離は、気候変動にプラスの農業に新たな可能性をもたらす。土壌の質が高まれば肥料の使用量が減り、作物全体の健康状態も改善する。さらに、農家の気候変動への適応力と繁栄を高め、GHG排出量も削減できるなど、複数の恩恵が得られる。
世界の農地の52%が劣化または未利用となっているなか、積極的な介入を通じて健全な土壌の価値を取り戻すことが急務である。
再生型農業の実践にカーボンクレジットで報いる
カーボンクレジット――気候変動にプラスのプロジェクトによる排出削減を認証したもの――は、持続可能な事業慣行を促し、世界のネットゼロ目標達成を支援する手段として急速に普及している。2021年に10億ドル規模だった自主的なカーボン市場は、今や世界の大企業の関心を集めている。
これまでカーボンクレジットの創出に使われてきたプロジェクトの多くは、再生可能エネルギーや森林再生に関するものだったが、「カーボンファーミング」という概念への認知が高まっている。
こうしたプログラムは、土壌への炭素隔離によるオフセットの創出を支援し、そのクレジットの取引を目指すことで、気候変動緩和における農業の役割を高めようとしている。
例えば、マイクロソフトは最近、米国の農業協同組合から200万ドル相当のカーボンクレジットを購入すると表明した。また、米国のバイデン大統領は、再生型農業の実践を導入した農家に支払う「カーボンバンク」の設立を提唱している。
これまで農業関連のカーボンクレジット制度は、主に先進国の大規模農地に限られてきた。こうした地域の農家は、情報源や技術、必要な機械化や設備をより利用しやすいためだ。
しかし、数億人の農家が小規模農地で営農する途上国には、甚大なインパクトをもたらす可能性がある。プロジェクトをより迅速に拡大し、持続可能な慣行を支えるため、カーボンクレジットの認証・検証プロセスを簡素化する必要がある。
持続可能な利益につながるイノベーションを広く開放する
テクノロジーと民間部門も、小規模農家がカーボンクレジット制度やその他の炭素吸収源を利用できるようにするうえで役割を果たせる。
例えば、nurture.farmは、持続可能な農業のためのデジタルプラットフォームだ。地球最大の炭素吸収源である土壌の健全性を世界規模で守り、高めるとともに、まだ活用されていないその可能性を引き出すことを目指している。この取り組みでは、小規模農家が重要な役割を担う。
2021年11月、作物残渣管理(CRM)プログラムの一環として、インド農業研究所と連携したnurture.farmは、25,000人を超える農家に働きかけ、42万エーカーを超える農地で稲わらを焼却せずに分解するよう促し、100万トンを超える二酸化炭素の排出を防いだ。
これを可能にしたのは、稲わらを分解して堆肥に変える生物酵素「PUSA」の配布だった。これにより土壌の質と農地の保水力が高まり、農家が追加の肥料に頼る度合いも低下した。
nurture.farmは、ほかにも数多くのテクノロジーを活用した革新的な取り組みを行うとともに、インド初の農業由来カーボンクレジットを販売し、農家が自社のイノベーションを活用するよう促している。
また、CropInなどの企業は、人工知能を活用して農場の意思決定をデジタル化し、支援している。インドの農家に、播種、土壌の健全性、種子処理、天気予報に関する知見を提供するモバイル型のアドバイザリーダッシュボードを導入することで、農家は気候変動への適応力を高め、再生型農業を実践しながら、農場の効率と収益性を維持している。
ネットゼロに向けて
インドは2070年までに炭素排出量ネットゼロを達成すると公約している。その実現に向け、稲わら焼却の廃止、農家へのデジタルツールの導入、その他の再生型農業の実践を最優先事項とし、その優先度を保ち続ける必要がある。
新たなテクノロジーとデジタル接続は、すでにカーボンクレジット制度と結びつき、気候変動にプラスの農業の力を活用する農村コミュニティに新たな機会を開き、その生計向上にもつながっている。
カーボンの認証・検証プロセスの効率化にはなお取り組みが必要だが、個々の状況に合わせた統合的なアプローチによって、小規模農家もカーボン市場に参加し、農家と地球の双方に利益をもたらすことができる。
