近年、安全保障の優先順位の付け方に重要な変化が見られ、サイバー空間における脅威が重視されるようになった。昨年のソニー株式会社へのハッキングは世界的な注目を集め、サイバー空間における国家統治と安全保障に対する認識を揺さぶった。
世界のサイバー犯罪による推定経済損失は、年間4,450億米ドルを超える。個人にとって、個人情報や機微情報の喪失は特に懸念される。米国で最近実施された世論調査によると、米国民はサイバーセキュリティ侵害を、他のどの「従来型」犯罪よりも 恐れている。
アフリカもサイバー犯罪の増加と無縁ではない。ナイジェリア、ケニア、南アフリカなどの国々は、サイバー犯罪活動の拠点として急速に台頭している。
金銭的動機や政治的目標に基づく犯罪(最近では、米中央軍の ソーシャルメディアのプロフィールがイスラム国にハッキングされた事件など)が政策担当者に警戒感を抱かせる一方、テクノロジーを介したジェンダーに基づく暴力への懸念も新たに浮上している。
この種の攻撃で最も大きく報じられたのは、2014年に多数の著名人(圧倒的に女性が多かった)が被害に遭ったサイバー攻撃である。さまざまな著名人の個人的な写真が500枚近く流出し、その中には露骨な写真も多く含まれていた。写真はインターネット上に公開され、またたく間に拡散した。写真は AppleのiCloudシステムへの侵入によって入手されたと考えられている。しかし、この種の犯罪の被害者は著名人に限られず、サイバー空間で一般の人々が標的となる手段も増えている。
個人のメールアカウントへのハッキングや「リベンジポルノ」もその一例だ。リベンジポルノとは、同意の有無にかかわらず撮影された露骨な画像が、 同意なく配布されることである。被害者の大半は女性で、深刻な影響が及ぶ場合もある。ハッキング事件が相次ぐなか、こうした犯罪を従来の枠を超えた一種の性的暴力とみなせるかどうか、新たな議論が始まっている。
テクノロジーを通じて、さまざまな形態の暴力が広がり得ることへの懸念も高まっている。南アフリカで特に一般的になっている、レイプ動画が拡散する現象は、こうした暴力の一例である。また、テクノロジーを使って被害者を「サイバーストーキング」することも大きな懸念となっている。位置情報のタグ付けなどを通じ、オンラインで得られる情報が増えることで、こうした被害が助長され、被害者のリスクが高まる可能性がある。
サイバー空間で発生する、あるいはテクノロジーによって助長される性的暴力やジェンダーに基づく犯罪には、ほかにも数多くの種類がある。ネットいじめや嫌がらせ、テクノロジーを介した児童搾取、児童ポルノの配布などが含まれる。また、女性がジェンダーを理由に疎外され、脅威を感じるような場を作るためにもテクノロジーが使われており、サイバー空間では極端な女性嫌悪の事例が数多く見られる。
「Gamergate」 論争は、その一例を示している。 多くの人にとって「ビデオゲーム文化」で広がっている性差別を浮き彫りにした。2014年、女性ゲーム開発者のゾーイ・クインは、批評家から高い評価を得たゲームを発表した。その後、ゲームコミュニティの多くの人々が、クインは好意的なレビューと引き換えに性的な便宜を図ったと非難した。議論は一見、公平なゲームレビューとは何かをめぐるものとして始まったが、すぐにジェンダーに基づく憎悪へと転じた。
クインは数多くのオンライン攻撃の標的となり、攻撃は次第に悪質化して、レイプや暴力の脅迫も含むようになった。彼女のオンラインアカウントやソーシャルメディアのプロフィールは繰り返しハッキングされ、改ざんされ、個人的な写真もネット上に流出した。
彼女を擁護した多くの人々も嫌がらせを受け、数人はオンライン攻撃の対象にもなった。
同様の事例として、フェミニスト活動家のアニタ・サーキージアンは、自宅住所を含む個人情報を脅迫とともにネット上に公開され、予定していた公の場への出演を取りやめた。この攻撃は、フェミニスト批評を用いてビデオゲームにおける女性の 描かれ方を分析する一連の動画の制作に対する反応だった。こうした攻撃は、オンライン、特に女性の表象と参加を制限しようとする一部のオンラインコミュニティにおいて広がるジェンダー差別の一形態を典型的に示しているとの懸念が高まっている。
表現の自由などの市民的自由を侵害せずに、この種のジェンダーに基づく被害を規制することは、依然として極めて難しい。さらに、サイバー空間は世界規模であるため、何をジェンダーに基づく暴力とみなすかについて、共通の理念や規範を作ることも難しい。そのため、インターネットの統治をめぐる議論は、世界規模で激しく続いている。
テクノロジーを活用して前向きな変化を促す可能性は、いくら強調してもしすぎることはない。アフリカでは、女性たちがテクノロジーをさまざまな前向きな目的に活用しており、 セクシュアルハラスメントの報告 や表現の自由の拡大などが挙げられる。テクノロジーには、ジェンダーに基づく暴力事件で犯罪の訴追を促進する可能性もある。南アフリカで最近起きたシュリエン・デワニとオスカー・ピストリウスの事件では、電子機器から収集された情報が証拠として使われた。
これをより頻繁に実施できるよう、アフリカでは法令や実務の整備をさらに進める必要がある。しかし同時に、ますます重要性を増しながらも統治が行き届いていない領域で、女性が被害を受けていることは懸念材料である。この二つの不可欠な価値のバランスを取ることは、世界的にますます重要な課題となるだろう。
本記事は ISS Africaとの協力のもとで公開されています。記事の公開は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:Khalil Gogaは、ISSプレトリアの国際的脅威・国際犯罪部門の研究員。
画像:ラバト近郊のスキラートで開催された第4回アラブ革新的教師フォーラムの開会式に出席する女性たち。REUTERS/Rafael Marchante

