化学・素材産業は景気刺激策の効果を高められる。その方法とは

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  • 化学・素材セクターは、世界各国の新型コロナ対策の刺激策の効果を最大化するうえで重要な役割を果たすことができます。

  • このセクターは多くのグローバル・バリューチェーンの中核にあり、そのため持続可能性への移行において重要な役割を担っています。

  • 刺激策資金の効果と波及範囲を最大化するため、セクターのリーダーが取れる3つの方法を紹介します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、数十年で最悪の健康・人道危機をもたらしただけでなく、世界のGDPをほぼ7兆ドル減少させました。

これを受け、世界各国の政府は新型コロナ対策の刺激策に15兆ドル超を投じると表明しました。こうした施策のプラス効果を高めるうえで、化学・素材産業は役割を果たせるでしょうか。私たちは、果たせると考えています。

政策立案者やその他の関係者と協力することで、このセクターのリーダーは、持続可能な製品に対する新たな消費者需要に応えるソリューションを提供できるだけでなく、バリューチェーンにイノベーションを積極的に取り入れ、「より良い復興」を実現し、セクターをより再生可能で循環型かつ強靱な未来へと導く役割も果たせます。

世界経済フォーラムの化学・先端素材産業アクション・グループ(IAG)は、アクセンチュアとの協力のもと、フォーラムの支援を受け、協働を通じてセクターと社会のレジリエンスを高める機会を特定しました。この取り組みの一環として、経済刺激策の効果を高めるうえでセクターが果たす役割に注目したいと考えています。

経済の停滞

化学産業は原材料を7万種類を超える製品に加工します。これらの製品は、食品、医療、建築・建設、消費財、農業、運輸など幅広い産業で使われています。化学セクターの代表的な製品には、界面活性剤、顔料、合成ゴム、ポリマー、肥料、電池用素材などがあります。

2018年以降、主要な製造国では化学製品の生産の伸びが鈍化、または縮小しています。欧州と北米はいずれも、主に世界経済の減速と貿易摩擦を背景に、2019年の化学産業の活動が低下したと報告しています。さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、顧客産業は工場全体の操業停止を余儀なくされました。アクセンチュアの調査によると、その結果、2020年の世界の化学産業のGDPは約11%減少すると見込まれています。化学・素材産業の回復は、自動車、建築・建設、消費財など主要顧客の回復にかかっています。しかし、その回復への道筋は不透明で、今後2、3年も不透明な状態が続く可能性があります。

さらに、新型コロナウイルス感染症によって生じた消費者行動の一部が危機後の新たな常態となるにつれ、需要のパターンはますます変化に富むようになります。パンデミックは、人々の暮らし方、買い方、考え方に変化をもたらしました。例えば、持続可能な製品への需要はすでにしばらく前から高まっていましたが、新たな調査によると、パンデミック後、消費者の79%が、より健康的で環境に配慮した製品を探すと回答しており、そうした製品には割増価格を支払う意思があることも分かりました。

消費者の健康意識が高まり、オンラインショッピングの拡大に見られるように、利便性や快適さへのニーズも強まっています。こうした消費者行動の変化は、パーソナルケア製品、包装材、潤滑剤、栄養製品のメーカーにそれぞれ異なる影響を及ぼします。衛生用品に含まれる化学物質や包装材・個人用防護具(PPE)に使われる一部のプラスチックを製造する企業など、産業の一部は恩恵を受ける可能性がありますが、他の分野はマイナスの影響を受けるでしょう。

刺激策を好機に変える

各国政府は、最大15兆ドル規模の刺激策を通じてGDPの落ち込みを埋めるため、抜本的な措置を講じています。これは、2008年の金融危機後に支出された額(GDP比)の3倍に当たります。 その結果、世界各国の政府は、それぞれの経済において最も強力な消費の担い手となっています。

化学産業は複数のバリューチェーンの中核に位置し、経済の他のセクターにソリューションを提供しているため、持続可能な回復を主導するうえで中心的な役割を担います。今日、化学分野のイノベーションは、エネルギーと気候、運輸、健康、食料など、複数の持続可能な開発課題にすでに貢献しています。

化学・素材セクターは、直接・間接の両方の刺激策を活用し、その広範な効果を高めることで、企業と社会に共通の価値をもたらすことができます。その方法を紹介します。

  • 化学・素材の重要なバリューチェーンを加速する。短期雇用制度など、刺激策の一部は即効性のある支援となります。しかし、消費者の所得と支出の回復を目的とする刺激策の多くは、川上産業に実質的な変化をもたらすほど迅速には実施できません。さらに、バリューチェーンの下流にある製品への顧客需要から、化学産業が収益を得るまでに時間がかかることが問題を深刻にしています。例えば、アクセンチュアの分析によると、化学工場を出た分子が消費者に届くまで平均88日かかります。自動車の一部として使われる場合などがその例です。

  • 「より良い復興」を支援するインセンティブを盛り込む。アクセンチュアが分析した主要経済圏では、刺激策総額のうち、環境目標の推進など、産業の構造変革を促す目的に充てられるのはわずか5%です(下図参照)。刺激策資金の大部分は、市民への現金給付、企業の流動性支援、減税などの一般的なプログラムに流れています。こうした措置は重要ですが、化学セクターや川下産業がイノベーションを起こし、レジリエンスを高める機会を支援するよりも、従来の現状への回帰を後押しする可能性が高いでしょう。

Image: アクセンチュア

以下に、直接・間接の刺激策が化学・素材セクターに与えた影響の例を示します。

直接:

  • 中国は石油化学製品の輸出補助金を増額し、合計16件の製油所・石油化学プロジェクトに数十億ドル規模の投資を開始しました。

  • 複数のEU加盟国、米国、日本は、国内の医薬品クラスターの形成を促進しています。例えば、フランスはパラセタモールの生産を国内に戻すことを目指しています。日本は、医薬品製造を国内回帰する企業に補助金を提供しています。

間接:

  • ドイツのグリーン水素戦略には100億ドルの予算が含まれています。これは現在のドイツの水素市場規模を何倍も上回りますが、同国の電力エネルギー部門全体に占める割合は依然として小さいものです。

  • EUは電動モビリティへの補助金を支援しており、その計画規模は910億ドルです。これはEUの電気自動車市場規模の250%に相当します(Allied Market Researchの推計によると、同市場は2019年に370億ドル)。

次に何をすべきか

刺激策を通じて回復を強化するには、資源をどのように、そしてどれだけ速く配分するかが重要です。化学セクターのリーダーが取れる行動を3つ紹介します。

1. より強靱で持続可能な社会経済システムを支えるインフラを構築する。消費者の83%が、製品を再利用・リサイクルでき、埋め立て処分されないよう設計することは企業にとって重要だと回答しています。化学産業は、持続可能性を高める変革の基盤となる大規模なインフラ投資に取り組む必要があります。例えば、循環経済への移行には、廃棄物の流れの透明性を高める仕組み(循環型トラッキング・トレーサビリティ)の促進、対象となる素材の種類を広げた使用済み製品の回収システムの整備、ケミカルリサイクル工程の開発、必要な物理的資産の構築への投資が必要です。これは地域クラスターでの協業によってのみ実現でき、地域クラスターは刺激策による支援に最適な機会となります。

2. 刺激策を活用してイノベーションを起こし、より広範な持続可能性目標を支援する。化学産業には、政策立案者と連携し、野心的な政策目標の実現に不可欠な貢献を示す機会があります。例えば、産業界のイノベーターは、よりクリーンなモビリティへの移行をさらに支援できます。化学産業はすでに、輸送のエネルギー効率を高めるさまざまなソリューションを提供しています。自動運転車や電気自動車の車両群が普及する将来のモビリティでは、電池から簡素化されたパワートレイン、カスタマイズ可能な内装に至るまで、あらゆるものを実現する新たな素材・化学品が必要になる可能性があります。先進バイオ燃料、グリーン水素、持続可能な電池材料、リサイクル技術の開発におけるこのセクターの貢献は、この移行を可能にするうえで欠かせません。

3. 協働型エコシステムを通じて、新たなイノベーションの波を生み出す。バリューチェーンのパートナー、政府、スタートアップと連携することで、化学産業は次のイノベーションの波を生み出すエコシステムを構築できます。これを実現するため、化学産業のリーダーはスタートアップと連携し、新たな(デジタル)イノベーションの源泉を取り込めます。例えば、リサイクル分野だけでも、世界中に関連するスタートアップが数百社あり、新技術に取り組んでいます。しかし、追加資金がなければ規模を拡大できません。こうした技術の市場投入を加速するため、企業と公共部門による新たなベンチャー投資を始める好機です。

より良い復興

化学産業はこれまでも、固定費の入念な再編、冷静なポートフォリオ管理、プロセスへの「リーン」の視点の適用を通じて危機を乗り越えてきました。今こそ、人々と地球がビジネスを動かす真の原動力であることを示す機会です。セクターを越えたイノベーションと協業を活用すれば、化学産業はより良い復興を実現するだけでなく、改善された製品、サービス、技術を通じて、ポストコロナ時代における役割を確かなものにできます。

本ブログは、シモネッタ・リマ(世界経済フォーラム)、シモーネ・パエス(アクセンチュア)、デビッド・アペル(アクセンチュア)、ベルント・エルザー(アクセンチュア)の協力を得て執筆されました。

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