多くのアメリカ人は、毎年夏時間に切り替わることを憂えている。
米国では、標準時を恒久的に採用するほうが有益かどうかをめぐり、意見がまとまらない状況が続いている。
神経科医が、標準時から夏時間への切り替えが健康に悪影響を及ぼす可能性について詳しく解説する。
米国の人々が3月半ばに時計を1時間進める準備をするなか、私は毎年恒例の儀式であるメディアの報道、つまり日々の習慣が乱れることについての報道に身構えている。標準時から夏時間に切り替えることで生じるものだ。
アメリカ人のおよそ3分の1は、年に2回の時刻変更を楽しみにしていないと答えている。63%対16%という圧倒的多数が、完全になくしたいと考えている。
しかし、その影響は単なる不便にとどまらない。研究者たちは、毎年3月に時計を「春に進める」ことが、深刻な健康への悪影響と関連していることを明らかにしつつある。
私は神経学・小児科学の教授で、テネシー州ナッシュビルにあるヴァンダービルト大学医療センターの睡眠部門長を務めている。2020年に医学誌『JAMA Neurology』に発表した論評では、共著者らとともに、毎年の夏時間への移行が、脳卒中の増加、心臓発作、そして10代の睡眠不足と関連していることを示す証拠を検討した。
幅広い研究成果に基づき、私と同僚たちは、これらの関連を示す科学的根拠は強く、全国で恒久的な標準時を採用することを十分に支持する証拠があると考えている。私は最近の議会公聴会で証言した。
睡眠不足、健康状態の悪化
「秋に時計を戻す」こと、つまり毎年11月に夏時間から標準時へ移行し、時計を1時間戻すことは、比較的影響が少ない。調子が崩れ、回復に数週間かかる人もいるかもしれないが、研究では健康への深刻な影響との関連は確認されていない。
一方、春に時計を進めることは、体への負担が大きい。時計上の時刻が1時間遅くなるためだ。言い換えれば、時計は午前8時を示していても、体感では午前7時ということになる。その結果、変更当日やその後数週間だけではなく、ほぼ8か月にわたり、朝の光を浴びる時間が恒久的に遅くなる。朝の光は体内の自然なリズムを整えるうえで重要であり、目を覚まし、注意力を高める。
正確な理由はまだ分かっていないが、光によって、コルチゾールの濃度が高まることが関係している可能性がある。コルチゾールは、ストレス反応を調整するホルモンだ。または、感情に関わる脳の一部である扁桃体に光が作用することが関係している可能性もある。
これとは反対に、夜遅くまで光を浴びると、眠気を促すホルモンであるメラトニンの脳内での分泌が遅れる。睡眠が妨げられ、全体的な睡眠時間が短くなることがあり、この影響は、夏時間の開始時に1時間分の睡眠を失うことに多くの人が慣れた後も続く場合がある。
思春期にはメラトニンの分泌も夜遅くなるため、10代の若者は自然に眠りにつくための信号が遅れる。そのため、思春期の若者は睡眠の問題が特に起きやすい。夏時間によって夕方の明るい時間が延びることが影響する。思春期に起きるこのメラトニン分泌の変化は、20代まで続く。
また、学校やスポーツ、社交活動の予定のため、10代の若者は慢性的な睡眠不足に陥ることもある。たとえば、多くの子どもは午前8時ごろ、あるいはそれより早く登校する。つまり夏時間の期間中、多くの若者は真っ暗ななか起床し、通学することになる。
「西端」効果
地理的な条件も、夏時間が人々に及ぼす影響を左右する。ある研究では、朝遅くに明るくなり、夕方も遅くまで明るい時間帯の西端に住む人々は、睡眠時間が短かったことが、時間帯の東端に住む人々と比べて明らかになった。
この研究では、西端の住民は肥満、糖尿病、心臓病、乳がんの罹患率が高く、1人当たりの所得が低く、医療費が高いことも分かった。別の研究では、時間帯の西端で一部の他のがんの罹患率も高いことが確認されている。
科学者たちは、こうした健康問題は、慢性的な睡眠不足と「概日リズムのずれ」の組み合わせが原因かもしれないと考えている。概日リズムのずれとは、体内のリズムと外の世界との間で、時間のずれが生じることを指す。つまり、日々の仕事や学校、睡眠の時間が、太陽の昇り沈みに合わせてではなく、時計に合わせて決められているということだ。
夏時間の簡単な歴史
議会は夏時間を導入したのは第一次世界大戦中で、その後、第二次世界大戦中にも再導入した。そして、1970年代初頭のエネルギー危機の際にも、再び導入した。午後遅くまで明るい時間を増やせば、電灯の使用を減らしてエネルギーを節約できるという考えだった。しかし、冬の朝は暖房需要が増え、夏の午後遅くには冷房需要も増える可能性があるため、この考えはその後、大部分が誤りだと証明された。
夏時間を支持するもう一つの主張は、日暮れまで明るい時間が増えると犯罪率が下がるというものだ。これは事実と証明されているが、変化はごくわずかで、健康への影響は、犯罪率の低下を上回るようだ。
第二次世界大戦後、夏時間の開始日と終了日の設定は各州政府に委ねられていた。しかし、それによって鉄道の運行計画や安全に関する問題が多数生じたため、議会は1966年に統一時間法を可決した。同法は、全国の夏時間の期間を4月の最終日曜日から10月の最終日曜日までと定めた。
2007年、議会は統一時間法を改正し、夏時間の期間を3月の第2日曜日から11月の第1日曜日までに拡大した。この日程は現在も適用されている。
ただし、この法律は州と準州が夏時間を適用しないことを認めている。アリゾナ州とハワイ州は、プエルトリコ、米領バージン諸島、北マリアナ諸島、グアム、米領サモアとともに、恒久的に標準時を採用している。現在、ほかにも多くの州が、時計を戻したり進めたりするのをやめるかどうか検討している。
では、恒久的な夏時間と恒久的な標準時のどちらを選ぶべきなのだろうか。
恒久的な標準時を採用すべき強い根拠
アメリカ人の間では、恒久的な夏時間を好むか、恒久的な標準時を好むかで意見が分かれている。しかし、私と同僚たちは、恒久的な標準時の導入を支持する健康関連の科学的根拠は強いと考えている。
標準時は自然光に最も近く、太陽が正午ごろに真上にくる。それとは対照的に、3月から11月までの夏時間では、自然光の時間が不自然に1時間遅くなる。
夏時間が不自然で健康に悪影響を及ぼすという豊富な証拠に基づき、夏時間を廃止し、恒久的な標準時を採用すべきだと私は考えている。


