命を救うかもしれないスマートフォンアプリ

A health worker pretends to be a doctor using a stethoscope on a patient during a protest against the local government's plans to cut public healthcare spending outside Infanta Leonor hospital in Madrid May 7, 2013. The T-shirt reads, "Public health for all". REUTERS/Sergio Perez (SPAIN - Tags: HEALTH POLITICS BUSINESS CIVIL UNREST) - RTXZDH7
According to the Centers for Disease Control and Prevention, an estimated 2.7 million to 6 million people in the United States suffer from AF.Image: REUTERS/Sergio Perez
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特定の病気や健康状態の兆候が、顔に現れることがある。まぶたが白っぽい場合は貧血、肌が黄色みを帯びている場合は黄疸、唇がひび割れている場合は糖尿病の兆候かもしれない。

現在、MITメディアラボ発のスタートアップであるCardiioは、スマートフォンのカメラを使い、脳卒中に関連する心不整脈の顔面上の兆候を検出するモバイルアプリを開発した。脈拍によって生じる、皮膚に反射した光のごくわずかな変化を測定・分析することで検出する。

Cardiioは、人気のフィットネスアプリを手がけるスタートアップだ。同名のアプリは2012年に公開され、顔に反射する光をもとに心拍数を計算する。心臓が鼓動するたびに、血管内の血液量が増えるため、これが可能になる。血液中のヘモグロビンが光を吸収することで、皮膚に反射する光が減少する。Cardiioアプリは、人間の目には見えない反射光の微細な変化を追跡し、心拍を正確に計算する。

Image: Cardiio

しかし最近、このスタートアップは光の反射データを使って、新しいアプリの開発に着手した。このアプリは、脳卒中につながる可能性のある一般的な心不整脈の一種、心房細動(AF)による不規則な心拍パターンを検出できる。

Cardiio Rhythmと名付けられたこの臨床用アプリは、現在は研究目的に限って使用されており、複数の学術論文で有効性が検証されている。Cardiioは近い将来、このアプリを心不整脈の早期スクリーニング用として一般消費者に提供したい考えだ。

「スマートフォンやウェアラブル端末など、広く普及している機器から収集した[生体情報]データから、臨床的な知見を引き出すアルゴリズムの開発を目指しています」と、Cardiioの共同創業者兼CEOで、アプリの共同開発者でもある、元メディアラボ研究員のMing-Zher Poh博士(11年修了)は話す。「それによって、人々は自分の健康についてより深く知り、……自らの健康をより主体的に管理できるようになります」

Cardiio Rhythmは、AFの早期スクリーニングだけを目的とするもので、たとえば、この症状にかかりやすい高齢者が利用することを想定している。心不整脈の正式な診断は、引き続き医療専門家が行う必要がある。

AFへの早期対応

米国疾病予防管理センターによると、米国では推定270万~600万人がAFを患っている。AFは心臓の上部にある心房の鼓動が不規則になり、血液が下部の心室にうまく流れなくなる状態だ。血栓が生じ、それが脳に移動して脳卒中を引き起こすことがある。

AFによる入院は年間約75万件、死亡者数は推定13万人に上る。また、脳内の血栓が原因で起こる虚血性脳卒中の約15~20%にも関与している。「AFのリスクは年齢とともに高まります。米国では高齢化が進んでいるため、問題も拡大しています」とPohは話す。

Pohによると、早期に診断すれば、AFに関連する脳卒中の約3分の2は薬物治療で予防できる。しかし、この症状は自覚しにくかったり、症状がなかったりすることが多いため、見過ごされる場合がある。

さらに、発作性AFと呼ばれるAFの一種では、不規則な心拍が突発的に起こり、診断されないことがある。AFの標準的な検出機器である心電図(ECG)では、患者の胸部に電極を取り付け、心拍による電気信号を測定して不整脈を検出する。

「しかし、診療所での定期検査の際に心拍リズムが不規則でなければ、心電図で[AF]を検出できない可能性があります」とPohは話す。「脳卒中を起こして初めて、自分にこの不規則な心拍リズムがあると知る人もいます」

Cardiio Rhythmは、スマートフォンのカメラを人の顔に向けるか、カメラに指を当ててもらうことで、不規則な心拍を検出できる。心臓が鼓動すると、アプリは血液量のデータを脈波として捉える。機械学習アルゴリズムが脈波を分析し、AFに特徴的な脈拍パターンを検出する。

「心電図に取って代わるのではなく、人々が早期に対応できるよう支援することが目的です」とPohは話す。

2016年、香港中文大学の准教授Bryan Yanが主導し、米国心臓協会の学術集会で発表された研究では、心電図検査の直後にiPhoneのカメラに顔を向けてもらい、入院患者85人を対象に心電図と比較してAFのスクリーニングを行うためにCardiio Rhythmが使われた。AFの検出精度は心電図の95%だった。香港大学の心臓病学教授Chung-Wah Siuが主導した、AFを発症するリスクのある患者1,013人を対象とする大規模な研究でも、このアプリが使われ、同様の結果がJournal of the American Heart Association(米国心臓協会誌)

に報告された。「有効性の検証は非常に重要なので、今後もさらに論文を発表する予定です」とPohは話す。その後、スタートアップは規制当局の承認取得に取り組む。

消費者向けから臨床向けへ

ハーバード・MIT健康科学技術学科の博士課程に在籍していたPohは、皮膚の電気伝導度を測定し、命に関わる可能性のある発作を検出する手首装着型ウェアラブル機器について博士論文を執筆した。メディアラボの教授Rosalind Picardと共同開発したこの機器は、現在、Empaticaを通じて製品化が進められている。

一方、メディアラボでのサイドプロジェクトとして、Pohはウェブカメラで心拍数と呼吸数を測定する技術Cardiocamを開発した。研究室の仲間であるDaniel McDuff博士(14年修了)とともに、光電式容積脈波記録法と呼ばれる技術を改良した。この技術では、赤色光と赤外光を患者の指先に当て、酸素と結合したヘモグロビンおよび結合していないヘモグロビンに吸収された光を測ることで、脈拍と血中酸素濃度を測定する。チームは高度な信号処理手法を用いて、周囲光だけを使い、離れた場所から皮膚の反射光を測定して同じ脈拍情報を抽出できるソフトウェアを開発した。

この技術の最初の応用はアプリではなく、Medical Mirrorというシステム全体だった。内蔵ウェブカメラ付きの液晶モニターと、ソフトウェアを実行する接続済みのノートパソコンで構成されていた。システムの前面にはマジックミラーが取り付けられ、人は自分の姿を見ながら、ウェブカメラで心拍数、呼吸数、拍動ごとの変動を検出できた。液晶モニターは、その情報を鏡面に投影する仕組みだった。

この鏡はメディアの注目を集め、Pohは当時ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の博士研究員だったYukkee Pohと、当時研究室の仲間だったChia-Hsun Lee博士(11年修了)とともに、技術の製品化を目指してスタートアップを設立した。しかし、予算に制約のある創業間もない会社にとって、心拍数を読み取る鏡を製造・販売するのは採算が合わなかった。

「世界中に配布でき、誰もがボタンをクリックするだけでダウンロードできるアプリから始めるのが、当時は理にかなっていました」とPohは話し、こう付け加える。「今でも、あの鏡を作れたらと思っています」

2012年1月、当時Cardiioという名称だったスタートアップは、サンフランシスコにあるデジタルヘルスのインキュベーターRock Healthに参加し、同種のアプリとしては先駆けの一つとなるアプリを公開した。それ以来、世界で数百万回ダウンロードされている。

アプリの公開から間もなく、臨床用アプリの開発を進めるため、主要病院との連携を目指してCardiioはケンブリッジに戻った。現在、このスタートアップはマサチューセッツ総合病院および香港の2つの病院と提携している。

Cardiio Rhythmの開発が進むなか、Pohによると、同社は消費者にとっての中間的な選択肢となることを目指している。広く利用できるフィットネスアプリと、病気をスクリーニングする従来の医療機器との間をつなぐものだ。従来の医療機器は高価で、使用に処方箋が必要なことも多い。

「一方には、多くの生体情報データを生み出すものの、得られる知見はある程度限られている、スマートフォン向け健康アプリやスマートウォッチ、フィットネストラッカーがあります。もう一方には、医師の診断を支援できるものの、消費者が簡単に利用できるわけではない、FDAの承認を受けた従来の医療機器があります」とPohは話す。「健康状態の改善には、フィットネス向け機器から、より医療に特化した用途への移行が必要です。私たちは、その移行を可能にするツールを提供したいと考えています」

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