今週、世界各国の政府の大半を代表する人々が、ウルグアイで開催される世界保健機関(WHO)の世界会議に集まり、非感染性疾患(NCDs)の世界的なパンデミックへの対策を協議している。
NCDsとは、がん、心血管疾患、呼吸器疾患、糖尿病などの慢性疾患で、現在、毎年およそ4,000万人の命を奪っている。世界の全死亡の70%を占め、HIVやマラリアなどの感染症よりもはるかに大きな影響を及ぼしている。NCDsによる予防可能な死亡を減らすことは、新たな持続可能な開発目標(SDGs)の主要な保健目標の一つである。
朗報は、会議の協定草案が、公衆衛生上の目標と、たばこ、不健康な食品、アルコール製品をめぐる民間部門の利害との対立に対処する必要性を認めていることだ。身体活動の不足と並び、これらの製品の消費はNCDsの主な要因の一つである。
残念なことに、この協定は、NCDsが世界的に増加するなかで貿易・投資協定が果たす役割について、ほとんど触れていない。
貿易協定が心疾患と肥満を増やす
心疾患などのNCDsや、主要な危険因子である肥満やたばこの使用に対する貿易・投資協定の影響を示す研究は数多くある。
たとえば、私たちの研究の一つは、ベトナムで砂糖入り飲料の消費が急増したのは、同国が貿易と外国投資に門戸を開いた後だったことを明らかにした。世界保健機関が糖分の多い飲料の消費増加を若年層の肥満増加の主な原因と特定するなか、米国を拠点とする清涼飲料メーカーは市場での存在感を高めた。
別の研究では、貿易協定の実施後、不健康な食品や甘い飲料の消費が増加することが分かった。そうした協定には、米国との協定が多く含まれる。また、こうした貿易協定と心疾患や肥満の罹患率上昇との間にも相関が見られた。
別の研究では、各国が貿易に門戸を開くと、たばこの消費が増えることが分かっている。国内市場に流入するたばこが増えるにつれて、価格競争が起き、より手頃な価格になった。
疾病予防に向けた政府の権限を制限する
NCDsを促すこうした傾向の原因は、貿易・投資協定だけではない。より広い意味でのグローバル化のプロセスも関わっている。たとえば、糖分の多い飲料やたばこなどの製品が、低所得国の人々にとって中流階級に「仲間入りした」ことを示す象徴として機能する場合がある。しかし、環太平洋パートナーシップ協定に関する私たちの分析が示すように、こうした協定は、NCDsの危険因子を抑制することを目的とした法律、政策、規制を政府が実施する能力を制限しかねない。
これらの協定では、貿易ルールに抵触する可能性のある新たな規制措置を導入する際、政府に科学的な証拠を求めている。しかし、その措置が新しいために、証拠が限られている場合はどうだろうか。協定はまた、政府に対し、その規制措置が「必要」であり、大規模な啓発キャンペーンなど、貿易をより制限しない他の手段が存在しないことを証明するよう求めている。
一方、NCDsの治療薬に対する特許保護が延長されると、貧しい人々には手の届かない価格になる。また、限られた政府の保健予算を圧迫する。
訴訟を恐れる政府
多くの貿易協定には、新たな規制による損失があったと外国投資家が判断した場合、政府を訴えることを認める規則も含まれている。オーストラリアがたばこの包装を無地にする制度を導入した際、フィリップ・モリスは実際にそうした。複数のたばこ輸出国が、政府間紛争を提起したのは、世界貿易機関(WTO)の制度のもとである。
こうした異議申し立ては、最終的に認められなかった。ただし、WTOの最終判断はまだ公表されていない。しかし、異議申し立てが可能とみなされたという事実そのものが、「規制の萎縮」を生み出す。将来、貿易や投資をめぐる紛争に発展することを恐れ、政府が新たな公衆衛生対策の制定をためらうようになるのだ。こうした規制上の異議申し立てに対抗する経済的な余力がない低所得国にとっては、特に深刻な問題である。
NCDs対策が正式な貿易・投資紛争に持ち込まれた例は、実際にはほとんどない。しかしWTOの制度のもとでは、健康リスクを消費者に知らせることを目的とした食品やアルコールの表示に関する政府の政策、マーケティング規制、そしてたばこ規制措置に対する異議申し立てが増えている。こうした非公式な異議申し立てを受け、紛争のリスクを避けるため、政策の実施を延期したり、撤回したりする政府もある。
予防可能な死亡を減らすための3つの措置
では、すでにNCDsの危険因子が自由化された世界経済を通じて広く拡散しているなかで、政府は何をすべきだろうか。幸い、ウルグアイ会議のテーマである「政策の一貫性」を確保するために、政府が取れる簡単な措置は3つある。
第一に、政府は今後締結するすべての貿易・投資協定において、NCDsの危険因子(またはその他の健康上の懸念)を抑えることを目的とする、差別的でない公衆衛生措置を全面的に適用除外とすることで合意すべきだ。科学的証拠や、貿易をより制限しない他の手段があるかどうかは問わない。
第二に、公衆衛生に関する規制の手足を縛りかねない既存の協定がすでに数多くあるため、政府は他国の差別的でない公衆衛生措置に対して紛争を提起しないと約束すべきだ。
第三に、政府はNCDsの治療薬に対する特許保護を強化しないようにすべきだ。予防措置によっていずれ減少に転じるまで、これらの疾患は増加し続けるため、手頃な価格の治療薬が必要になる。
この3つの約束を、ウルグアイでの最終合意に盛り込むべきだ。公衆衛生措置が他国の製品や貿易上の利益を差別するために使われないようにすることで、世界貿易の目的を尊重できる。また、市民の健康と福祉を守るために、政府が現在そして将来にわたって必要とする政策の余地も尊重できる。

