価値に基づく医療という概念が主流になってから20年がたつ。この考え方は、医療はサービスの量ではなく成果をめぐって競うべきだと主張する。
それでも、重要な成果の多くで進展は停滞しており、支出と成果の隔たりを示す最も顕著な例の一つが女性の健康だ。
女性の健康格差を解消すれば、2040年までに世界経済に年間少なくとも1兆ドルが加わる可能性がある。その実現に向けた設計を選ぶ必要がある。
「価値に基づく医療」という概念が主流になってから20年になる。マイケル・ポーターとエリザベス・タイスバーグは、医療はサービスの量ではなく、支出1ドル当たりの健康成果を競うべきだと提唱した。
しかし、最も重要な成果の多くで進展は停滞している。世界保健機関によると、世界は健康関連のすべての国連の持続可能な開発目標で達成軌道を外れており、妊産婦死亡率は2030年目標のほぼ3倍に達している。米国だけで2025年に医療に費やした額は5.7兆ドルで、GDPの18.4%に相当し、7%を超える伸びが3年連続となった。
支出と成果の隔たりをこれほど明確に示す分野は、女性の健康をおいてほかにない。女性の健康は、妊娠前から産後(母親と新生児)を経て、中年期、そして健康な高齢期までの道のりに及ぶ。March of Dimesの2025年成績表によると、米国では妊娠中の患者の高血圧が6%、糖尿病が8%増加し、早産率は10.4%にとどまった。D+評価は4年連続だ。
進展を妨げているものは何か。今日の医療制度は依然として、人々が病気になってから対応するよう設計され、成果より受診件数を評価している。こうした状況は偶然ではない。何に投資し、何を測定し、何を成り行きに任せるかという選択が積み重なった結果だ。
医療の価値を実現する入口としてのアクセス
こうした選択とその結果は、アクセスから始まる。給付対象にすることと、問題が深刻化する前に適切なケアを適時に受けられるようにすることは同じではない。
医療保障が全国民に適用されるイングランドでは、55万人を超える女性が婦人科医療を待っており、待機の負担は最も困窮する地域社会に最も重くのしかかっている。米国では、郡の3分の1が産科医療の空白地帯となっており、580万人の女性が十分な産科医療を受けられない。
女性が家族を持つ時期も遅くなっている。経済協力開発機構(OECD)加盟国全体で、出産時の母親の平均年齢は現在31.1歳で、1970年から2~5歳上昇した。この変化により、不妊治療や幅広い女性の健康支援を適時に受けられることは、ますます重要になっている。
女性が十分な健康医療にアクセスできないことの世界的な影響は、よく知られている。世界経済フォーラムとマッキンゼー・ヘルス・インスティテュートの推計によると、女性は男性より長生きする一方で、不健康な状態で過ごす期間は25%長い。この格差を解消すれば、2040年までに世界経済に年間少なくとも1兆ドルが加わる可能性がある。
女性医療を再設計する3つの転換
アクセスは不可欠な出発点だ。しかし、アクセスをより良い成果と持続的な価値につなげるには、さらに3つの設計転換が必要だ。
転換1:予防を標準にする
予防は診断から始まるのではない。教育、リスクの特定、状態が悪化する前に行動するための助言から始まる。世界経済フォーラムとマッキンゼーによる2026年の報告書によると、予防策を早期に導入することで、女性が健康に過ごせる期間を2.5日延ばし、米国だけで有害な医療事象を7万件回避し、投資収益率を推定3~6倍にできる。
不妊治療の分野だけを見ても、根底にある疾患が見逃されることは多い。卵子凍結の相談に来た患者が、初めて多内分泌代謝性卵巣症候群(PMOS、最近までPCOSと呼ばれていた)と診断された例を考えてみよう。これは診断されないことも多い疾患で、世界の生殖年齢の女性の最大13%に影響する。
PMOSを管理しないままにすると、2型糖尿病、高血圧、心疾患、子宮内膜がんのリスクが高まり、米国の医療費は毎年推定80億ドルに上るとされる。これらは避けられないことではない。
その会話は、健康リスクを早期に捉え、適切な助言を行い、その女性の現在と将来の健康の行方を変える機会になった。適切なタイミングで交わす一度の会話が、長期的なケアの軌道を変えることがある。
この事例が示すように、女性の健康は断続的なものではなく、人生の各段階にまたがる道のりだ。予防には、こうした会話が幸運に恵まれたときだけでなく、日常的に行われるよう設計された制度が必要である。Progynyでは、エビデンスに基づく教育と、人生の各段階で助言を行うケア・アドボケートを通じて、女性が一歩一歩、自分に合った支援を受けられるようにしている。
女性の健康投資コンソーシアムを通じて、Progynyなどの関係者は投資をさらに上流へ移す取り組みを進めている。早期発見と予防を広く女性に届ける妨げとなる、エビデンス、資金調達、商業化の障壁に取り組んでいる。
転換2:成果を重視して設計する
医療の大半は今も、効果ではなく活動を評価し、より健康な人々と医療費総額の抑制よりも、初期費用と医療利用の最適化を重視している。しかし、これは明確な設計上の選択だ。支払い制度や給付制度は、患者が実現したい成果を中心に設計できるし、そうすべきである。
不妊治療は有用な試金石だ。需要が高まる一方、患者にも雇用主にも費用負担が大きく、給付設計は長らく、健康な赤ちゃんが生まれる可能性よりも、治療1サイクル当たりの支出を最適化してきた。この目標に照らすと、最も価値ある指標は利用状況の報告書には表れないものだ。早期から教育や助言を受けることで、Progynyの会員のほぼ半数が、不妊治療を一切受けずに家族を築く目標を達成している。
治療に進む人にとっては、臨床的な成果が価値を左右する。出生率は23%高く、生児1人当たりの採卵回数は41%少なく、多胎率は61%低い。これらが相まって、雇用主の費用を30%削減している。こうした成果は主に、クリニックとの緊密な連携と足並みの一致、そして個別化ケアを促し、最も重要な成果を評価する支払いモデルによって実現している。
この傾向は不妊治療以外にも当てはまる。コクランレビューは、17か国で1万5,000人を超える女性を対象とした試験に基づき、継続的な分娩支援を検討した。その結果、特にドゥーラなど専任の出産付き添い人がいる女性は、帝王切開で出産する可能性が25%低いことが分かった。個別化されたエビデンスに基づく支援は、より良い成果と、その後の費用削減につながる。適切なケアを早期に提供することは、最小化すべき費用ではなく、確かな見返りをもたらす投資だ。
転換3:女性を支援で取り囲む
健康を左右するのは診察だけではない。人々がどこで暮らし、働くか、複雑な医療制度を利用できるかどうかも影響する。 最近の調査では、患者のほぼ4人に3人が、医療制度を利用することが日々の生活にストレスを加えていると答えた。
難しい診断と向き合う女性が、自分のケアチームを集める責任まで負うべきではない。それでも、多くの制度は複雑さへの対応として、医療機関一覧を渡すだけだ。医師を探し、保障内容を確認し、あちこちに電話をかける……あとは幸運を祈る。これはアクセスではない。疲弊する無償労働だ。
別の設計も選べる。上流で選定作業を行い、専門家の質と経験を審査しておくことで、女性は妊娠前から産後、さらにその先まで支えてくれる、厳選されたネットワークにつながる。
分断された制度がもたらす深刻さは、時に顕著な形で現れる。リンジー・クランシーのマサチューセッツ州裁判は、産後精神病への注目を集めた。産後精神病はまれではあるが、重篤で治療可能な精神科の緊急事態であり、ケアの場が変わる中で急速に変化する症状を認識する難しさにも光を当てた。
事実関係、診断、法的責任については今も争いがあり、この事例を、予防可能な結果を医療提供者や制度が引き起こした証拠とみなすべきではない。しかし、能力ある専門職には情報共有、明確な責任体制、必要に応じて対応を強化する経路が必要だという、より広い設計原則を改めて示している。
なぜ女性の健康格差を解消すべきなのか
早産率が10.4%のままで、医療にGDPの18%を費やす国の郡の3分の1が産科医療の空白地帯となっている。これは安定の証拠でも、例外的な事態でもない。
健康関連の持続可能な開発目標の遅れや、イングランドの婦人科医療の待機リストと同じく、女性、家族、そして社会全体を制度が恒常的に支えられていない証拠だ。
解決に雇用主は欠かせない。雇用主が提供する保険は、65歳未満の米国人にとって最大の医療保障源であり、1億6,560万人を対象としている。また、人事責任者の81%が女性の健康増進に取り組むと答えている一方で、働く女性のうち、給付によって医療を手頃な価格で受けられると考える人は52%にとどまる。
欠けているのは意欲や投資ではない。価値を中心に据えた制度だ。女性の健康格差の解消によって生まれ得る年間1兆ドルは、遠くから眺めるだけの予測ではない。実現に向けた設計を選べば、私たち皆がその恩恵を受けられる。



