ライフサイエンスのイノベーションと連携で、気候変動による健康への悪影響を半減できる可能性

Closeup of two mid-aged male and female chemists performing an experiment in a laboratory.Shaking and analyzing a liquid solution. Wearing lab coats and protective eyewear. Green toned image. Finding climate-driven health solutions.
Greater investment in and collaboration on climate-driven health solutions could save 6.5 million lives over the next five to eight years.Image: istockphoto/gilaxia
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  • 製薬業界の年間研究開発(R&D)予算のわずか5%を気候変動に起因する健康問題の解決策に投資すれば、約650万人の命を救い、5.8兆ドルの経済損失を回避できる可能性があります。

  • 官民連携と新型コロナウイルス感染症から得た教訓を踏まえ、予防、治療、技術に関する研究開発に、5~8年間で約650億ドルを迅速かつ重点的に投資すべきです。

  • 革新的な資金調達の仕組みと世界的に調和の取れた規制枠組みは、切実に必要とされる気候変動に起因する健康問題の解決策への投資を、経済的に実行可能にする助けとなります。

今後25年間で、さらに1,450万人が死亡し、干ばつ、洪水、海面上昇などの気候関連事象や、地球温暖化によって悪化する疾病の急増により、生活の質も大幅に低下すると予測されています。1.25兆ドルの経済損失に加え、医療費は1.1兆ドル増加するでしょう。

2050年までに、気候難民は最大12億人に達する可能性があり、気温上昇によって病原体を媒介する蚊の生息域が欧州や北米に広がることで、さらに5億人がマラリアやデング熱にさらされる可能性があります。現在から2050年にかけて、食料と水の不足も、何十億人もの人々にとって大きな健康課題となるでしょう。

状況は深刻ですが、今すぐ行動すれば、こうした影響の最悪の事態を避けられる可能性があります。新たなワクチンやその他の予防策、治療法、技術に関する研究開発(R&D)へ迅速かつ重点的に投資すれば、気候変動による健康への悪影響を最大半分に減らせる可能性があります。

これを実現するには、世界経済フォーラムとオリバー・ワイマンによる新たな報告書は、気候関連のライフサイエンス・イノベーションへの投資を、今後5~8年間で650億ドルにする必要があると見積もっています。大きな額に聞こえますが、世界の製薬業界が現在、年間に投じる研究開発費の5%未満に相当します。

この水準の投資により、650万人の命を救い、世界全体で5.8兆ドルの経済損失を回避できるほか、気候に関連する障害や慢性疾患による障害調整生存年(DALY)を10億年分減らせる可能性があります。

健康状態の改善に向けた取り組み

健康危機に先手を打つため、政策立案者は研究開発資金の調達を促進する仕組みや、世界の保健システムとサプライチェーンを強化する方策を検討すべきです。気候変動が健康に及ぼす影響に対処する鍵は、ライフサイエンス企業が1年足らずで新型コロナウイルス感染症ワクチンを製造できたときのように、政府と産業界が同じ緊急性と協調性をもって取り組むことです。

十分な投資は重要な要素ですが、影響の緩和には官民パートナーシップの拡大と革新的な資金調達の仕組みも必要です。しかし、気候変動に起因する健康問題の解決策には障壁があります。

気候変動が私たちの免疫システムをどのように変化させるかを見ていきましょう。
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民間投資の障壁を取り除く

十分な投資を妨げる大きな要因は、気候変動に起因する健康問題の解決策の開発と承認にかかる期間や、最終的にどの程度普及するかが不確実なことです。投資回収の時期がはっきりしないため、民間投資家や製薬会社は十分な資源の投入をためらいます。公衆衛生の分野ではすでに、新しい抗生物質の導入が停滞しており、2017年以降に開発された薬剤はこの分類でわずか12種類です。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に各国政府が講じた最も重要な措置の一つは、ワクチンの開発中に数百万回分を前もって購入し、製薬会社に十分なインセンティブを保証したことでした。気候関連の健康問題に対する治療法についても、業界や投資家候補は、新しい治療法が商業規模で展開でき、投資に見合う妥当な収益を生むという同様の確約を得られれば、恩恵を受けるでしょう。新型コロナウイルス感染症の治療法がそうであったように、官民パートナーシップで協力し、こうした障壁を理解して乗り越え、このような形でインセンティブを整えることが成功の鍵となります。

気候変動が健康に及ぼす初期の影響の大部分は、開発の遅れた経済圏に集中するでしょう。これらの地域では必要な公衆衛生対策の資金を賄えないため、資金調達の取り組みは世界規模で行い、経済的に発展した国々から幅広い支援を得なければなりません。

しかし、気候変動によって悪化する疾病はより脆弱な人々に集中する一方で、多くの疾病が急速に広がると予想されます。たとえば、今日、主にアフリカやアジアの人々に影響を及ぼしているマラリアやデング熱など、蚊が媒介する感染症です。地球温暖化により、病原体を媒介する蚊の生息域はすでに北米や欧州へと広がっています。今世紀末までに、最大で84億人がさらされる可能性があり、マラリアとデング熱に毎年感染するおそれがあります。

調和の取れた規制枠組みを構築する

ライフサイエンスのイノベーションを複雑にするもう一つの要因は、各国で規制、金融、税制上のインセンティブがばらばらに設けられていることです。そのため、企業は複数の地域にまたがる一貫した戦略を立てにくくなっています。これは革新的な気候変動対策の健康ソリューションの普及を制限し、新製品開発へのインセンティブを損なう可能性があります。規制の道筋が不明確または予測不可能であることや、低・中所得国における技術面・規制面の対応能力不足は、投資を妨げ、より高品質な製品を低コストで広く生産することを阻むおそれがあります。

米国食品医薬品局(FDA)による迅速承認制度を通じた2020年の新型コロナウイルス感染症ワクチンの承認は、柔軟な規制枠組みが重要な医療ソリューションの提供をいかに迅速化できるかを示しています。同感染症の治療法に関する規制上の特例は、患者がワクチンを迅速に利用できるようにし、ウイルスの最も深刻な影響を2年未満に抑えるうえで重要な要因でした。より柔軟で支援的な規制の必要性を示すもう一つの例は、希少疾患の治療法開発を製薬会社にとって経済的に実行可能にすることを目的とした、米国の1983年希少疾病用医薬品法の成立です。

気候データと健康データを統合する

気候情報を保健分野の日常的な意思決定に取り入れることも業界にとって課題です。気候と健康の専門家が日常的にデータを共有しておらず、双方が知見を持ち寄れる場もないためです。

多様なデータセットを統合する人工知能を備えた高度な気候・健康データプラットフォームを構築すれば、気候変動に起因する疾病をより的確に予測できるようになり、対応時間の短縮や、より対象を絞った介入につながる可能性があります。こうしたプラットフォームへの投資は、気候変動の影響を受ける疾病のパターンを特定し、製薬会社が先を見越して解決策を開発する助けとなります。

2023年、世界保健機関、世界気象機関、ウェルカム・トラスト、ロックフェラー財団など、民間・公共部門の有識者は、気候と健康に関するデータおよび監視システムの統合に向けた3年間の行動計画に合意しました。これには、優先的に取り組むべき不足分を特定し、気候・気象情報を保健情報システムに統合するための初期要件を定めることが含まれます。

気候変動の脅威に対する認識を高める

政策立案者、業界リーダー、そして一般市民が地球温暖化の脅威と、気候変動に起因する健康問題の解決策の必要性を認識しなければ、これらは実現しません。しかし、気候変動は差し迫った問題ではないという誤った印象が、十分な危機感とそれに見合う対応を促すうえで、常に大きな障害となってきました。

科学者たちは、気候変動対策を講じるための時間が縮まっていると指摘しています。地球の気温上昇は、2030年までに産業革命前の水準を摂氏1.5度超えると予測されており、気候リスクにとって重大な転換点となります。新たな治療法の開発、世界の保健システムの強化、そしてこうしたソリューションやサービスの展開を拡大するために必要な官民連携の確立に残された時間は、5年を切っています。

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