新型コロナウイルス感染症をきっかけに、さまざまな技術が急速に開発された。
エンジニアができる限り倫理的かつ柔軟に働けるよう、技術がもたらす道徳的・社会的影響を考慮するための新たな研修が必要だ。
新型コロナウイルス感染症により、世界各地の組織は事業運営を継続するため、業務をオンラインに移行せざるを得なくなった。この急速なデジタル化によってサイバー攻撃の対象領域が大幅に拡大し、ハッカーやサイバー犯罪者がその隙を突いている。医療システム、ビデオ会議ツール、さらには新型コロナウイルス感染症への対応を調整する世界的な組織への攻撃が、毎日のように報告されている。毎年実施される「グローバルリスク認識調査」に参加する専門家の間でも、サイバーリスクが現実化する可能性は高まっている。
日常生活と地球規模の課題は、ますます密接に絡み合うだけでなく、複雑化し、相互依存を深めている。ソフトウェアエンジニアやコンピューターエンジニアは、金融からサプライチェーンの仕組み、コミュニケーション、ひいては人々の交流に至るまで、日常生活のほぼあらゆる面を制御し、左右するアルゴリズムやデバイスを構築している。
現在のパンデミックを受け、デジタルソリューションを設計し実現する人々、すなわちソフトウェアエンジニアは、私たちの日常生活を形づくるうえで、かつてないほど重要で影響力のある存在となった。危機に対応し、急増する需要を満たすため、迅速な方向転換と性急な規模拡大が求められた。しかし、急速な拡大には代償が伴う。それは信頼だ。その信頼を保つには、エンジニアへの新たな支援と研修が鍵となる。
目の前にある課題
エンジニアは時間に追われることが多く、デジタル製品を適切に設計するために必要な時間を与えられないことも少なくない。急いで作業するため、ユーザーやそのニーズ、市場の需要を理解するのに十分な時間をかけられない。時間的なプレッシャーのもとでは、適切な基盤となる要素を選び、実現可能性や持続可能性といった経済面を十分に検討できるとは限らない。
土木工学にたとえると、計算を誤り、必要な工程を省けば、橋は崩れ、プロジェクトは頓挫する。工程やベストプラクティスは支えとなり、惨事を防ぐ助けになる。テクノロジーの分野では、設計が不十分だと、データの誤用、多額の損失につながるミス、さらにはユーザーの信頼喪失を招きかねない。実際、ある調査では、消費者の85%が、自分のデータを扱う企業を信頼していないと回答した。

コンピューター工学とソフトウェア工学は精密科学であり、ビジネス上の課題と解決策をコードやアルゴリズムに置き換える能力が求められる。成功には、エンジニアの高い効率性、柔軟性、革新性が欠かせない。同時に、エンジニアは業務プロセスを理解するだけでなく、細部にも注意を払い、常に最高水準の安全性と倫理基準に従ってコードを書く必要がある。
新たな研修と支援の必要性
エンジニアが望むだけの時間を確保できることはないとしても、より良い支援と研修によって、適切な社会的視点と能力を身につけられる。新たなコードや技術は、人間の行動や意思決定の過程にどう影響し、社会全体をどう変えるかを、より深く考慮して開発する必要がある。エンジニアには、市場の観点だけでなく、社会を全体的に捉える視点から、社会行動や社会科学への理解を深める研修が必要だ。例えば、アルゴリズムの偏りを避け、多様性を尊重する手法を取り入れることが挙げられる。
ソフトウェアエンジニアやコンピューターエンジニアに求められる、将来を見据えた新たな倫理基準と社会への理解は、道徳基準をめぐる議論にとどまらず、発明がもたらしうる政治的、経済的、社会的な影響を含む、より広い社会課題への理解に基づく必要がある。技術の多様な側面と社会への影響を取り入れた、学際的なアプローチによって策定すべきだ。
変化に富み、多様な概念が交錯する世界において、カリキュラムやそれに続く議論を一つのアプローチに限定すべきではない。国際条約や国際機関が定める基本的人権を損なうことなく、地域や文化の違いに応じて議論を柔軟に適応させる必要がある。
エンジニアに包括的な研修を提供するのは、雇用主、政府、業界団体の責任である。現職のコンピューターエンジニアと次世代の育成・研修にはエコシステム全体を見渡すアプローチを取り、多様な利害関係者を参加させ、新技術の設計に最高水準を適用できるようにしなければならない。コンピューターエンジニア向けの研修を開発する際に包括的なアプローチを確実に採用するには、官民の協力がこの教育重視の取り組みの基盤となるべきだ。
「エンジニアには、社会行動や社会科学への理解を深める研修が必要だ。」
テクノロジー分野の専門家はパンデミックで重要な役割を果たしてきた。今後の危機でも重要な役割を担うだろう。自らが開発した技術が社会、とりわけ最も脆弱な立場にある人々にどう影響するかをよく理解する人々は、より公正で柔軟な解決策を生み出せる。
一般のデジタルユーザーがオンラインの巨大企業や、それらを支えるアルゴリズムを開発する人々を信頼できるようにするには、次世代のソフトウェアエンジニアに分野横断的な教育を行い、数行のコードが社会にもたらす影響に対する感度を高めなければならない。信頼には代償が伴う。その代償とは、適切で包括的な研修であり、社会と企業は進んで負担すべきだ。

