なぜワクチン接種は、個々の疾病を超える重要性を持つのか

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• ワクチン開発には、目の前の疾病を治療する以外にも役割がある。

• この分野は、パンデミックの早期発見につながる、疾病全般の監視にも役立つ。

• エボラ出血熱の歴史は、ワクチン開発とエピデミック管理の結びつきを示している。

現在、COVID-19ワクチンは100種類以上が開発中だ。これほど広く期待され、必要とされたワクチンは、かつてなかったと言ってよいだろう。新型コロナウイルスのパンデミックを終息させ、命の損失を最小限に抑え、ある程度の平常を取り戻す唯一の方法は、ワクチン接種だという認識が広がっている。

このパンデミックによって、ワクチンは感染症を予防して命を救うだけでなく、世界の安全保障、社会的結束、経済の安定を維持するうえでも不可欠だということが、痛切なほど明らかになった。いま世界の注目はCOVID-19ワクチン開発競争に集まっている。ほぼ確実に複数のワクチンが必要になるだろう。開発には12~18カ月かかると見込まれるなか、パンデミックの最中にワクチンがより迅速な役割を果たすことはできるのだろうか。

公衆衛生上の介入策として、ワクチン接種は最も効果が高く、費用対効果にも優れたものの一つだ。天然痘を根絶し、ポリオもほぼ根絶した。また、ここ数十年で、かつて毎年何百万人もの命を奪っていた麻疹などの感染症の発生率を下げ、子どもの死亡率を半減させるのに貢献してきた。

しかし、新たな脅威が現れたり、知られてはいても顧みられてこなかった感染症の広がり方に変化が生じたりすると、ワクチンのない疾病による突発的で大規模なエピデミックやパンデミックが起こり、私たちは不意を突かれることがある。SARS、MERS、豚インフルエンザ、エボラ出血熱、ジカ熱がその例だ。

いずれの場合もワクチン開発競争が始まったが、開発に成功したワクチンが、差し迫った危機を終わらせるほどの効果を発揮できる時期に間に合った例はない。だからといって、ワクチンが不要というわけではない。エボラワクチンは、2万8,000人以上が感染し、1万1,000人以上が死亡した西アフリカでの流行の終息には貢献しなかったかもしれない。しかしその後、コンゴ民主共和国での流行が制御不能に陥るのを防ぐうえで、重要な役割を果たしてきた。

選択的なワクチン接種

こうした疾病の一部は危機が起きる前から知られていた。エボラ出血熱は1976年に初めて確認され、ジカ熱はさらに古く、1947年に確認されている。それなのに、なぜ一部の疾病にはすでにワクチンがなかったのだろうか。理由は数多くあるが、要するに、世界は感染症が世界の保健安全保障上の脅威となるまで、それを脅威として扱わない傾向がある。

西アフリカでの流行以前、エボラ出血熱は数年ごとに数百人ほどの命を奪う疾病で、主な被害者はアフリカの極めて貧しい農村地域の人々だった。また、非常に感染力が強く、農村部では、人々が感染を広げる機会を得る前に行動不能にしたり命を奪ったりして、通常は自然に収束していた。このため、流行を引き起こす可能性のある疾病とはみなされていなかった。ワクチン開発には莫大な費用と時間がかかり、製造施設の建設だけでも5億ドルに上る場合がある。最もリスクの高い人々は少数で、ワクチンを購入する余裕もなかったため、エボラワクチンの開発を促す市場は存在しなかった。

避けられない事態が起こり、エボラ出血熱がついに人口密度の高い地域に広がって感染拡大が速まると、もたらされるリスクへの認識は一変した。しかし、それほど多くの人命が失われ、流行による損失が累積GDP損失で28億ドルを超えたにもかかわらず、ワクチンの明確な市場は依然として存在しなかった。

今日ワクチンがあるのは、私が所属するGaviワクチンアライアンスが、候補ワクチンを市場に送り出すための長期かつ高額な過程を進められるよう、製造業者に3億ドルのインセンティブを提供したからこそ実現したことだ。その結果、将来の流行に対応するため、認可済みエボラワクチン50万回分の備蓄を進めている。スペイン政府やラ・カイシャのような寛大な支援者の協力があるからこそ、これが可能になっている。今年初めにサンチェス首相と会談した際も、同首相が引き続き関心を寄せ、支援していく意向を示したことに心強さを感じた。

しかし、このエボラ出血熱の経験から、いくつかの教訓が得られた。世界保健機関(WHO)は、流行を引き起こす可能性があり、ワクチンも治療法も存在しない11の感染症をリストアップした。こうした疾病に対するワクチン開発の加速を使命とする感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が設立された。そしてCEPIは現在、Gaviと提携する予防接種のための国際金融ファシリティによる一部資金提供も含め、8種類のCOVID-19ワクチン開発を支援している。

未知の未知

こうした取り組みは、既知の疾病に関する盲点をある程度補うものだが、未知の疾病や新たな株についてはどうだろうか。多くの点で、こちらのほうがはるかに大きな脅威だ。進化の観点から見れば、必ず現れるからである。ウイルスは絶えず変異しており、人間の活動によって、私たちはウイルスと接触する機会がますます増えている。

1940年以降、新たに出現した感染症が335種類以上確認されておりその約60%は、人間と動物との接触にさかのぼることができる。COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2のようなウイルスは、コウモリなどの野生動物にも存在する。コウモリは、病原体が宿主に害を与えずに増殖する理想的な環境を、その生理機能や免疫系が作り出すため、人間に感染する可能性のあるウイルスをしばしば宿している。

戦後に出現した新興感染症(EID)Image: Nature

森林伐採、農業、生きた野生動物や野生動物の肉の販売といった人間の活動は、人類をこうしたウイルスにさらすリスクを高める。コウモリだけでなく、珍しいイヌ科の動物やサルなどの野生動物、あるいは蚊のような媒介生物との接触を通じて、人間と何年も接触せずに生きてきたウイルスにさらされることがある。同様に、すでに世界で毎年29万人から65万人の命を奪っているインフルエンザなどの既存のウイルスも、よく変異することが知られており、より致死性の高い新たな株が出現するリスクを生んでいる。

こうした要因すべてが、新興・既存の疾病の双方について、流行のリスクを高めている。世界各地の感染症専門家は、現在私たちが目の当たりにしている規模のパンデミックを経験するのは時間の問題だと、何年も前から警告してきた。

これまで見てきたように、懸念すべきなのはウイルスの出現だけでなく、感染拡大の能力もだ。人口増加、都市化、気候変動、人の移動によって、病原体はかつてないほど広がりやすくなっている。一方、気候変動は蚊などの病気を媒介する生物の生息域も変化させ、一部の疾病の地理的な分布を変えている。互いに近接して暮らす人が増え、毎年10億人を超える人々が国境を越えて移動するなか、疾病の伝播は容易になっただけでなく、食い止めることも難しくなっている。

芽のうちに摘む

ワクチンがない場合、流行をできるだけ早期に発見することが、最善の策となる。そのためには疾病監視の強化が必要だ。感染症監視ネットワークはすでに世界各地に存在するが、網の目が粗く、有効性にもばらつきがある。監視網を広げる費用対効果の高い方法の一つは、プライマリ・ヘルスケアへのアクセスを改善することだ。とりわけ低所得国では、感染症が発生しても発見されないことが多い。

プライマリ・ヘルスケアは通常、人々が病気になったときに医療・保健サービスと最初に接する場であり、現実的には流行を早期に発見する最初の機会でもある。しかし世界の多くの地域では、プライマリ・ヘルスケアは依然として極めて限られているか、存在しない。Gaviは、各国の小児予防接種プログラムを拡充することで、この状況の改善に取り組んでいる。

現在、世界の子どもの90%が定期予防接種を少なくとも1回受けており、これほど広く行き届く公衆衛生上の介入策はほかにない。この対象を広げれば、感染症から守られる子どもが増えるだけでなく、感染症監視の改善にもつながる。予防接種プログラムがプライマリ・ヘルスケアへの入口となるためだ。

子どもが予防接種を受けられるようになると、その子どもと親、地域社会も、サプライチェーン、訓練を受けた医療従事者、データシステム、そして何より重要な疾病監視など、保健サービスに欠かせないさまざまな要素を利用できるようになる。定期予防接種を拡充することで、医療の早期警戒システムの基盤を整え、流行をより早く発見する能力の向上にも貢献している。

パンデミックの際には、ワクチンが利用可能になったときに世界規模のワクチン供給ネットワークの中核を担う点でも、こうした予防接種プログラムは重要だ。医療体制が最も脆弱な最貧国でも、できるだけ速やかにすべての人へワクチンを届けられるようにする。

COVID-19がもたらす希望

では、未知の脅威や新たな株に対するワクチンについてはどうだろうか。どうすればもっと早く開発できるのだろうか。今回のパンデミックで生じている遅れは、最初のワクチンの開発に要した時間によるものではない。SARS-CoV-2のゲノム配列が公表されてから、最初のワクチンは実際には数日以内に開発された。遅れの原因は、開発中のワクチンが安全で有効であることを確認するために必要な臨床試験にある。通常、臨床試験には5年から10年かかることがあり、最初は少人数を対象に、やがて他の疾病を抱える人やさまざまな年齢・リスク層を含む数千人規模の大きな集団を対象に、一定期間ワクチンを試験する。ワクチンの安全性を確認し、効果がある場合にはその予防効果の程度を十分に理解するために欠かせない。したがって、臨床試験を省くことはできず、また省いてはならない。

しかし今回の危機では、試験を一つずつ順番に行うのではなく、適応的かつ並行して実施することで、プロセスを速められる可能性がある。このパンデミックがもたらす希望の一つは、次のパンデミックへの備えを強化する新たなワクチン技術が幅広く登場することかもしれない。脅威の正体が分かる前にその脅威に対するワクチンを開発することはできないが、COVID-19への対応の一環として現在研究されているワクチン技術の一部は、別の方法で備えを整える可能性を開く。

例えば、COVID-19ワクチンに取り組む複数のグループが、ワクチンプラットフォーム方式を検討している。これは、特定の疾病群に対応するさまざまな抗原を運べる分子送達システムを作るものだ。ワクチンプラットフォームの利点の一つは、流行が起きる前に安全性試験の大部分を実施し、プラットフォーム上での製造を十分に理解して最適化できることだ。その後、対象となる病原体が分かった段階で抗原を追加できる。同様に、mRNAワクチンやDNAワクチンは、今回初めて作られたCOVID-19ワクチンで見られたように、こうした積み荷の開発にかかる時間を大幅に短縮できる。これらの積み荷については追加試験が必要だが、緊急時にワクチンを開発するまでの時間は大きく短縮されるだろう。

ワクチンは、流行がパンデミックへと拡大するのを防ぐうえで、重要な役割を果たすことができ、すでに多くの点でその役割を担っている。しかし今回の危機では、COVID-19ワクチンの有効性が確認され、前例のない規模で生産されるまで、人々を守るためにできる限りのことをしながら待つしかない。そしてワクチンができたら、誰もが平等に利用できるようにしなければならない。すべての人が安全でなければ、私たちも安全ではない。そうでなければ、このウイルスは何度でも戻ってくる。

世界経済フォーラムは、コロナウイルスの流行に対してどのような取り組みを行っているのか。

COVID-19のような将来の脅威に対してワクチンにより迅速な役割を担わせたいなら――進化の必然として、今後も同様の脅威は現れる――そして今回のようなパンデミックの再発を避けたいなら、流行が起こる前からワクチンが果たす重要な役割を認識し始める必要がある。パンデミック時に人々を守るだけでなく、流行を早期に発見し、そもそも制御不能に陥るのを防ぐ役割も含めてだ。

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