新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、個人の健康安全保障を含むよう、移住をめぐる言説が変化している。
ウイルス対策に必要な移動制限は、移民や庇護希望者が保護を受けることを困難にし、不平等、差別、搾取を悪化させるおそれがある。
こうした新たな移住をめぐる言説は、社会経済的包摂と社会的結束に長期的な影響を及ぼす。
冷戦の終結、9.11テロ攻撃、シリア難民危機を受け、移住に関する世論の論調は、経済的、文化的、社会的、人道的な文脈ではなく、国際安全保障に焦点を当てるようになった。
今や新型コロナウイルス感染症のパンデミックと「他者」への恐怖が、個人の健康安全保障へのリスクも焦点に加え、移住をめぐる言説をさらに変化させている。
移民のエッセンシャルワーカーは、引き続き世界的なパンデミック対応の最前線で重要な業務を担っている。しかし、経済活動の停止、国境の閉鎖、目に見えない敵への恐怖により、世界各地で移住政策が厳格化し、新たな「健康安全保障化」をめぐる言説が広がっている。
パンデミックの影響に対処するために必要とはいえ、人々の移動制限によって、庇護希望者や非正規移民が保護を受けることはより困難になる。国際社会が「人道的休戦」を呼びかける中でもリビアの内戦が続くなか、欧州各国政府は庇護希望者や移民を入国させていない。国際海事法が、海上で危機に陥った難民や庇護希望者を「救助する義務」を定めているにもかかわらず、地中海での捜索・救助・上陸活動は停止された。アムネスティ・インターナショナルの報告書によると、マレーシアとタイは迫害から逃れるロヒンギャ難民を乗せた船を積極的に追い返し、入国も拒んだ。米国は、メキシコとの南部国境から到着し、庇護を申請する人々への入国を認めない措置を講じている。
こうした新たな移住をめぐる言説は、移民を受け入れる社会における社会経済的包摂と社会的結束に、より長期的な影響を及ぼす。スティグマ化、誤情報、差別はすでに外国人嫌悪の高まりにつながっている。移民コミュニティからの送金収入に大きく依存する経済は、厳しい移民政策の実施に伴う雇用喪失に加え、国外退去措置の脅威にも直面している。国民には自宅にとどまり、外界との接触を制限することが求められる一方、移民の置かれた状況は異なる。一部の国では、逆説的な「準隔離」が設けられている。移民は経済の存続を支えるために働くことができ、働くことを求められる一方で、外界との接触や地元住民との交流は禁止され、夜間外出禁止措置によって移民の基本的なケアやサービスへのアクセスも制限される。こうして隔離体制が生まれている。
パンデミックによって、経済の多くの分野、とりわけ医療と農業における移民労働者の重要性と不可欠さが注目されるようになった一方、移民政策への長期的な影響は、移動と社会的包摂をより厳しく規制する方向に向かっているようだ。これはグローバル化の転換点となり、シンガポールのようなハブ都市モデル、シェンゲン圏の自由移動、さらにはインドや中国における国内移住や都市化にも、新たな柔軟性と機動力が必要となる可能性がある。
オーストラリアとニュージーランドの国境規制を緩和したタスマン海横断の移動圏など、「移動バブル」の形成はすでに始まっている。ラトビア、リトアニア、エストニアも、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑え込むことに成功し、同様の発表を行った。こうした「安全圏」は、感染者数の多い国から来る移民に対する安全保障化の言説をさらに強めるおそれがあるだけでなく、新たな形の経済的孤立主義とグローバル化ももたらす。景気回復と持続可能性を導くため、生産ラインやサプライチェーンがこうした圏内に移転され、地域化する可能性がある。その結果、こうした変化は既存の不平等を強め、グローバル・ノースとグローバル・サウスの格差を拡大させるおそれがある。
同時に、こうした新たな障壁や制限にもかかわらず、世界的な移住はますます人目につかないところへと後退する可能性がある。とりわけ、保健制度や法の支配が脆弱な経済では、密入国あっせん業者、人身取引業者などの違法集団が介入し、人々の窮状を利用する。
新型コロナウイルス感染症に直面する今、差別から連帯へと、言説を変えなければならない。国連は、ウイルスを広めていると不当に非難され、悪者扱いされている難民や移民に対する誤情報や差別と闘うため、キャンペーンを開始した。世界保健機関(WHO)は、特定の人々への公然としたスティグマ化を防ぐためのガイドラインと助言を発表した。パンデミックの間、ソーシャルメディアは不安や憎悪の源となってきたが、思いやりのある言説を育み、連帯を示す場としても活用されている。ハッシュタグでは、#IAmNotAVirus、#JeNeSuisPasUnVirus、#nosoyunvirusなどが拡散し、メディア各社は、影響を受けたコミュニティを支援する移民グループの物語を取り上げている。
パンデミックが収束した後も、とりわけ強硬な移住政策を進める政府のある国では、制限的な国境政策を撤廃するのは難しいかもしれない。しかし、政策立案者は、自国の経済を機能させるうえで不可欠な役割を担う移民労働者への見方を、改めざるを得なくなる可能性がある。
このパンデミックをきっかけに、外国生まれの労働者の保護を強化し、教育水準の低い移民も高度な技能を持つ移民も、自国経済の成功と持続可能性に貢献する重要な存在として評価するよう求める声が高まることを願いたい。

