技術的に先進的で、持続可能かつ強靱なインフラは、包摂的なポストコロナの経済回復への道を開くことができます。
低・中所得国では、長期的な強靱性を重視したインフラ整備に1ドルを投じるごとに、4ドルのリターンが見込まれます。
政府は、持続可能で技術的に先進的かつ強靱なインフラプロジェクトに投資が向かうようにすべきです。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる経済的打撃を受け、世界各国の政府は世界経済を刺激する政策の策定を迫られています。多くの政府が、短期的に経済を押し上げ、長期的に社会全体に幅広い恩恵をもたらす、実績ある手法を検討しています。それがインフラ投資です。
世界各国は、2008年以降の金融危機に対する景気刺激策以来、最大規模となるインフラ投資を開始しようとしています。その理由は明白です。需要が極めて大きいのです。世界では今後、2040年までに、必要なインフラ投資額と実際の投資額との間に15兆ドルのギャップが生じると見込まれています。供給面では、GDPの1%をインフラに投資すると、同年の経済生産高は約0.4%、4年後には1.5%増加します。
新たな世界を築く
ショベルカーが土を掘り始める前に、2020年の世界が2008年とどう異なるのかを理解しておくことが大切です。
イノベーションの導入で長らく後れを取っていたインフラ部門は、他の産業との技術格差を縮めるために懸命に取り組んできました。また、破壊的な技術革新により、インフラシステムの設計、建設、管理のあり方も変わりました。気候危機への取り組みの重要性に対する意識も変化しています。例えば、地球規模の気候変動への対処を大統領と議会の最優先課題にすべきだと答えた米国成人の割合は、2008年以降、14ポイント上昇しました。
新型コロナウイルス危機が続く中、危機発生時にも効果的に機能する、強靱で適応力のあるインフラを求める声が高まっています。この大きな機会を踏まえ、各国がインフラ投資計画に着手する際には、持続可能で技術的に先進的かつ強靱なインフラの整備を目指すことが不可欠です。それは、財政、環境、社会の各面で世界に責任を果たすことにつながります。
経済的な恩恵
経済面から見れば、技術的に先進的で、強靱かつ持続可能なインフラを整備する理由は明らかです。低・中所得国だけでも、将来を見据えた強靱性を優先するインフラに投資することで、純便益として4兆2,000億ドルを得られる可能性があります。つまり、1ドルの支出につき4ドルのリターンが得られるのです。
インフラ資産の設計、建設、運用段階に新技術を取り入れることで、機能性を高めながらコストを大幅に削減できます。人工知能(AI)、高度なデータ分析、フィンテック、クラウドコンピューティング、5G、新素材、再生可能エネルギー技術、3Dプリンティングは、世界のインフラの姿を変えつつあるイノベーションのほんの一例です。これらを活用すれば、プロジェクト費用の削減、工期の短縮、地域社会への影響の軽減、環境負荷の最小化、安全性の向上が可能になります。
持続可能なインフラシステムの計画、建設、運用にテクノロジーを活用する利点は、多くの意思決定者に認められています。その一例が英国です。英国は、国全体のデジタルツイン計画を実施し、インフラシステムのあらゆる要素を単一の安全なネットワークに接続する予定です。デジタルツインとは、AI、データ分析、機械学習を組み合わせ、物理的な対象物のデジタル版を作るコンピューターモデルです。ほぼリアルタイムで貴重な知見を提供し、インフラの計画と運用の最適化に役立ちます。英国は、より持続可能なインフラ管理によるコスト削減と効率向上を通じ、この計画が年間70億ポンドの価値を生み出すと見込んでいます。
環境面での恩恵
環境面でのメリットも明らかです。世界の二酸化炭素排出量の主な発生源であり続けてきたエネルギーインフラでは、再生可能エネルギー技術が大きく進歩しました。風力発電と太陽光発電は現在、世界の3分の2を超える地域で最も費用対効果の高い発電方式となっており、米国、中国、ブラジル、インドもその中に含まれます。
環境保全を促すインフラ整備は、グリーンエネルギー分野に限られません。インフラ分野で急速に進む技術革新により、今やインフラのあらゆる側面が生態系の保全に貢献できるようになっています。
オーストラリア東海岸にある急成長中のブリスベン港は、増え続ける大型コンテナ船に対応するための解決策を必要としていました。これまでであれば、運営者はおそらく海底を浚渫していたでしょう。これは費用がかかり、環境にも悪影響を及ぼす作業です。そこで同港は、クラウドコンピューティング技術を活用することにしました。この技術は潮流、潮位、風向・風速などのデータを分析して予測を行い、環境条件に応じて大型船を港内に誘導できるようにします。2017年から運用されているこのプログラムにより、浚渫を行わずに港の処理能力を高め、さらに大型の船舶も受け入れられるようになりました。同時に、運用の安全性、計画能力、持続可能性、将来への対応力も向上しました。
社会的な恩恵
先進的で持続可能かつ強靱なインフラを整備することが、社会にもたらす恩恵も忘れてはなりません。自然災害からパンデミックまで、時代とともに変化する課題に耐えられるよう、最新のイノベーションや技術を取り入れた学校や病院などの社会インフラを整備する必要があります。
例えば、ナンタケット・コテージ病院は、米国東海岸沖の小さな島にある病院です。最新の技術と持続可能性に関する進歩を取り入れ、今後起こり得るさまざまな課題に適応できる医療施設を整備しています。環境面での緊急時対応計画、適切な資材の使用、緊急時の公共サービスへのアクセス、空間の柔軟性に重点を置くことで、自然災害や長期的な環境変化、患者数の急増から病院を守っています。夏になると人口が1万1,000人から5万人に膨れ上がる島では、これは極めて重要です。
同様に、マイケル・ティペット・スクールの開発者たちは、ロンドンのランベス区にある同校の基本原則として、持続可能なイノベーションと強靱性を掲げました。プロジェクト管理者は、主要な建材として近年人気が高まっている集成材を選びました。集成材は、コンクリートや鉄鋼のように炭素排出量の多い選択肢に比べて環境に優しいだけでなく、現場ですばやく組み立てられるため、時間と費用を節約できます。その結果、特別支援学校の変化するニーズに容易に対応できる、明るく柔軟な空間が実現しました。
経済の屋台骨
このインフラ革命は自然に起きるものではありません。イノベーションは大きく進展しましたが、この分野の技術的な洗練度は他の分野に後れを取っています。既存のイノベーションをより広く取り入れ、新たなイノベーションをさらに育てる必要があります。どちらの面でも、政府との連携強化が好ましい結果をもたらす可能性があります。
地域社会の参画もさらに促す必要があります。インフラプロジェクトの全段階で、地域の関係者と協力して進捗を伝え、地域住民から意見を得る機会を設ければ、成功の可能性は大きく高まります。また、プロジェクトでは適応性と再現性を重視すべきです。成功事例を見つけて広く共有すれば、時間と費用のかかる試行錯誤をなくすことができます。
インフラは経済の屋台骨だとよく言われます。その屋台骨が、未来の重みに耐えられるようにしなければなりません。この機会を生かし、先進的で強靱かつ持続可能なインフラの整備に取り組めば、それを実現できます。
世界経済フォーラムのインフラ分野における取り組みについては、こちらをご覧ください。都市、インフラ、アーバンサービスの未来を形作るプラットフォーム
