新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、サプライチェーンの脆弱性を明らかにするとともに、ブロックチェーンなどの技術によって効率性を高め、多様なステークホルダー間の信頼を強化できる可能性を示しました。
しかし、組織が新技術を迅速に導入しようとするなか、この危機は、導入において迅速さと明確さの両方が必要であることを浮き彫りにしました。
この必要性は、以前からこの分野に存在していました。そこで世界経済フォーラムは、ブロックチェーン導入ツールキットを開発しました。これは、ブロックチェーン導入プロジェクトで生じる課題に対処するため、検証済みのベストプラクティスを記録した、先例のない一連のハイレベルなガイドラインです。
世界経済フォーラムは、グローバル・サプライチェーンにおけるブロックチェーンのガバナンスにどう取り組んでいるのでしょうか。
世界経済フォーラムは1年以上にわたり、6大陸にまたがる50カ国の100を超える組織と協働しました。また、来歴やトレーサビリティから自動化や業務の効率化まで、40件のブロックチェーン活用事例を詳しく調査しました。
ツールキットの14のモジュールは、サプライチェーンにおけるブロックチェーン・ソリューションの導入に関する主要な成功要因とリスク要因を示しています。組織はこのツールキットを活用することで、より責任あるブロックチェーン導入を支援し、初期導入に伴うリスクを軽減するとともに、意図しない結果を慎重に検討できます。
このプロジェクトの鍵となったのは、ツールキットを試験導入した実際のブロックチェーン導入事例です。これらのパイロットプロジェクトは、プロセスによってブロックチェーンの導入を容易にする重要な方法を示しています。
2つのパイロットプログラムから、次のような利点が明らかになりました。
客観性と指針
パイロットプロジェクト第1号:アブダビ・デジタル庁
課題:アラブ首長国連邦のアブダビ・デジタル庁は、独自のブロックチェーン戦略とガイダンス文書の策定、公開を目指していました。このガイダンス文書は、アブダビ政府機関が公共部門のデジタル・インフラ全体にブロックチェーンを導入する際の支援に用いられる予定でした。
パイロットの開始前、ADDAはブロックチェーン技術に関する包括的なガイドラインの策定に苦労していました。新興技術は変化が速く、基準として参照できる明確なベストプラクティスがないことも多いためです。
ADDAは、アブダビ政府機関と外部組織との間で安全な「データマーケットプレイス」を支援する政府向けブロックチェーン・プラットフォームの開発に取り組んできました。こうした取り組みは、技術政策や戦略計画、施策の策定などを含む、先を見据えたデジタル政府の実現という同庁の総合的な使命に沿うものです。また、ブロックチェーン技術を活用し、2021年までにUAE政府の取引の50%をブロックチェーンで実施するという連邦政府の計画に歩調を合わせることを目指す、UAEの連邦ブロックチェーン戦略を支援しています。
導入: ADDAはツールキットに適した明確なユースケースを特定し、第四次産業革命センターUAE(C4IR UAE)とともに試験しました。ツールキットの質問を活用して、ADDA独自のガイドラインと導入戦略の策定を進めました。質問への回答によって、導入段階でADDAが何をすべきか、またどのような支援を提供すべきかが明確になったと、ADDA技術・政策部門のエグゼクティブディレクター、アブドゥラ・アル・ケンディ博士は説明しました。
このガイダンスにより、ADDAは迅速に取り組みを進めることができました。「ツールキットによって取り組みに大きな客観性がもたらされ、コンソーシアムの設計に関する判断や決定における主観性が軽減されました」とアル・ケンディ博士は説明しました。
効率的で体系的なプロセス
パイロットプロジェクト第2号:サウジアラムコ
課題:サウジアラムコは、新たに開発されたツールキットを活用し、サプライヤー管理と資格確認に関する2つの重要なユースケースの実現に取り組んでいます。1つ目のユースケースでは、時間と手間のかかるサプライヤー管理プロセスに対する解決策を特定します。この解決策は、幅広い業界課題への対応に活用できます。こうした課題には、サプライヤーの迅速な登録やリアルタイムのサプライヤー情報の提供など、現在の技術では容易に解決できないものがあります。
2つ目のユースケースでは、資格確認と学位の真正性の認証に向けた導入戦略を特定します。この戦略により、確認にかかる時間を大幅に短縮し、証明書や学位の不正を防止できます。
導入: ツールキットのベストプラクティスを活用し、サウジアラムコは資格確認と学位認証を管理するチームを編成する、体系的なアプローチを策定しました。このアプローチでは、作業を管理可能な単位に分割し、現実的なマイルストーンを設定して達成できるようにしました。
どちらのユースケースでも、計画と導入の際にすべての領域と側面を網羅できるよう、ツールキットはサウジアラムコに明確なチェックリストを提供しました。
「組織が新技術を迅速に導入しようとするなか、COVID-19危機は、ブロックチェーンの導入において迅速さと明確さの両方が必要であることを浮き彫りにしました。」
今後の展望
サプライチェーンが果たす役割は、かつてないほど重要になっています。ツールキットには豊富なリソースがあり、多様なサプライチェーンとそのステークホルダーにおけるブロックチェーン導入を効率化し、レジリエンスの維持を支援できます。
パイロットには含まれていませんが、新型コロナウイルス危機に直接対処する他のプロジェクトでも、まもなくツールキットのガイダンスが活用される予定です。その一つが、企業向けソフトウェア企業R3の取り組みです。同社は、ブロックチェーンを活用してパンデミック再保険を購入する概念実証プロジェクトに、ツールキットを適用する計画です。
さらに、C4IR UAEは、連邦政府機関とともにツールキットの適用を拡大することも検討しています。より幅広い対象に展開することで、2021年連邦ブロックチェーン戦略を推進し、各機関がCOVID-19後のサプライチェーンを再評価するのを支援したいと同センターは考えています。
ブロックチェーン導入における迅速さと明確さは常に重要ですが、組織が健康危機に取り組む今後しばらくの間は、いっそう欠かせないものとなります。ブロックチェーンがもたらすセキュリティと透明性を踏まえ、各機関がデータ共有のためのアプリケーションやネットワークを開発するうえで、ツールキットのガイダンスは不可欠となるでしょう、とC4IR UAEのマリアム・アル・ムハイリ氏は述べています。


