新型コロナウイルスが提起する主要なデータガバナンスの課題への答え

A medical worker wearing a protective face mask monitors remotely the live footages of patients at the Intensive Care Unit (ICU) ward for coronavirus disease (COVID-19) patients at St. Marianna Medical University Hospital in Kawasaki, south of Tokyo, Japan May 4, 2020. REUTERS/Issei Kato TPX IMAGES OF THE DAY - RC2GHG9P1REO
Image: REUTERS/Issei Kato TPX IMAGES OF THE DAY - RC2GHG9P1REO
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  • 新型コロナウイルスの危機は、健康データの取り扱いに関する重要なガバナンスの課題を提起している。

  • データ管理に唯一の正解となる方法はない。

  • 枠組みは、各社会が自国の国民に適したデータアプローチを構築する助けとなりうる。

世界各国がSARS-CoV-2ウイルスの拡大を封じ込めようと苦闘する中、政府による個人の私生活への介入が改めて注目を集めている。この致命的な健康上の脅威に対抗するため、国家は個人や企業の活動をどの程度強力に統制すべきなのか。公共の安全のために、プライバシーやその他の権利はどの程度制限されるべきなのか。

各国がデータをどのように扱うかは、パンデミックへの対応において極めて重要な要素であることが明らかになっている。人々の健康状態、移動、他者との接触に関する情報は、病気を抑え込む上で、物理的な隔離や都市封鎖と同じくらい重要となりうる。こうしたデータは機微性も高く、ほとんどの国では厳格なプライバシー規制の対象となっている。

こうした規制は、かつてないほど厳しい目にさらされている。特に、政府の介入度合いが高い国々が、新型コロナウイルスの感染曲線を下降させることに成功しているため、その傾向は顕著である。自由主義的な民主主義国家にも同じことができるのか、そしてそのためにはどれほどの代償が必要なのか、と問う声が多く上がっている。

我々の考えは、自由主義社会であっても、プライバシーなどの個人の権利を保護しながら、より大きな公益のために個人データをより有効に活用できる、というものだ。その鍵となるのは、価値の創出と共有を重視し、幅広い合意によって作られた明確なルールを用いる、体系的なアプローチである。

多くの国のデータガバナンス制度の下では、パンデミックやその他の危機の際にプライバシー保護が緩和されうるため、政府は通常よりも強い権限で私的情報にアクセスできる。しかし、例外が具体的にどのような場合に、いつ、誰に対して適用されるのかを定めたルールは曖昧であることが多く、管轄地域によっても異なる。実際には、現在の危機に直面する政策立案者は、極めて重大な局面において、緊急時に関連する多くのデータプライバシーの問題に、リアルタイムかつその場限りの対応を迫られてきた。

正確で網羅的なデータは、感染症対策の多くの業務にとって不可欠である。すなわち、病気がどこで、どれほどの速さで広がるかを予測すること、避けられない希少な資源を配分すること、いわゆる感染クラスターを特定すること、そして感染者と確認された人々の接触者を追跡・特定することである。人々の移動を監視できれば、隔離はより効果的になる。さらに、ウイルスは国境を尊重しないため、封じ込めの取り組みを機能させるには各国が情報を共有しなければならず、また他国から受け取る情報が信頼できるものであると確信できる必要がある。

問題を複雑にしているのは、健康関連データの範囲が急速に拡大しているという事実である。医療情報として何が含まれるのか、そしてそれを収集する組織の範囲の双方において拡大が進んでいる。日常的な生活習慣に関するデータも、ウイルスの拡散を追跡する上で病院の診療記録と同じくらい有用でありうるし、ポケットの中のスマートフォンに搭載された技術も、研究室の技術と同じくらい感染症との闘いに力を発揮しうる。しかし、それは議論に加わるべき利害関係者が増えることを意味する。

これまでのところ、新型コロナウイルスと闘うための最も強硬なデータ活用型の介入の一部は、アジアで行われている。当局は、一般市民へのリアルタイムの感染状況の提供から、検疫措置を実施するための人々の移動の追跡に至るまで、あらゆる目的で情報を活用してきた。中国は監視インフラを活用して感染者を追跡しており、一部の中国の都市の住民は、店舗やレストランに入るために、健康であることを証明するスマートフォンのQRコードを提示しなければならない。シンガポールは、新型コロナウイルスの保有者に対して、広範囲にわたる個人情報を政府に提供するよう求めている。韓国は、スマートフォンのアプリやテキストメッセージを通じて大規模な追跡を実施してきた。いくつかの国では、感染者にGPSブレスレットなどの追跡装置を装着させている。

これらの措置のすべてが、どこででも受け入れられるわけではなく、一部の権利監視団体は行き過ぎを懸念する声を上げている。しかし、アジアにおける介入のすべてが強制的なものだったわけではない。創意工夫や自発的な協力も、同様に見られた。例えば、感染拡大の初期に、中国・台湾の保健省は、サージカルマスクが入手可能な店舗に関する情報の提供を開始し、供給状況の情報を30秒ごとに更新した。これは、国民の安心を促し、買い占めの抑制に寄与した、官民による自発的なデータ協力の一例である。

日本では、東京都がコロナウイルスのデータをオープンソース化する方向で動いている。また、地方自治体と厚生労働省は、国内で最も利用者の多いメッセージングアプリであるLINEと提携し、新型コロナウイルスに関する任意の健康アンケートをユーザーに配信している。回答は同社が収集し、保健当局と共有される仕組みだ。これまでに、LINEの利用者8,300万人のうち、2,500万人以上が参加している。

「機微なデータを扱うための体系的かつ国境を越えたアプローチは、現在の危機に対処するためだけでなく、次の危機に備えるためにも不可欠である。」

藤田 孝典

データ管理やプライバシーに対する姿勢や法制度は、アジア域内でさえ大きく異なっている。世界規模で見れば、その差はさらに大きい。個人がデータプライバシーに対する権利を保障する法律が最も厳格であるとされる欧州では、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、情報公開をより一層進めるべきだという声が上がっている。一方で、この危機が濫用や、不可欠な保護の後退につながりかねないという懸念も生じている。

我々は、機微なデータを扱うための体系的かつ国境を越えたアプローチが、現在の危機に対処するためだけでなく、次の危機に備えるためにも不可欠であると考えている。第四次産業革命センターにおいて、我々は、プライバシーなどの人権と、データを収集する組織の利益および公共の利益、すなわち社会全体のニーズとのバランスを図るデータガバナンスのアプローチに取り組んできた。

我々はこのアプローチを「認可された公的目的によるアクセス(Authorized Public Purpose Access:APPA)」と呼んでいる。その中核にあるのは価値に関する問いである。通常は私的なデータであっても、全員にとって潜在的な価値を持つ場合には、そのデータへのアクセスを広げるべきだという議論が成り立つ。1月に発表された白書において、我々は既存のデータガバナンスモデルを検証した結果、そのほとんどが、3つの主要な利害関係者グループ、すなわち、個人のデータ主体、テクノロジー企業やその他のデータ保有者、そして政府(その利益は市民の利益と一致する場合もあれば、しない場合もある)のいずれかの利益に偏っていることを明らかにした。我々は、データの社会的に有益な可能性を最大限に引き出しつつ、プライバシーなどの個人の権利やデータ保有者の正当な利益を保護することを目的とした、よりバランスの取れたガバナンスモデルを提案した。

重要なのは、データの種類、アクセスする主体、そしてその目的に基づき、アクセスに関して広く受け入れられる仕組みと制限を設けることである。そのデータはどれほど価値があり、またどれほど機微なものか。提案されている利用者は、正当で信頼できる主体か。そして、その目的は重要かつ広く有益なものか。すなわち、そのデータは一部の少数の人々ではなく、社会全体の人々の利益のために使われるのか。

APPAは、一律に適用できるルールの集合ではない。どの社会にも、必然的に独自の優先事項がある。我々はAPPAを、健康データの管理をめぐる議論における参照ツールとして提供している。新型コロナウイルスのパンデミックを経て世界が新たな日常を模索する中、この議論は、我々全員にとってますます激しく、重要なものとなっていく。

本記事の執筆に協力した者: 菅 千鶴: 世界経済フォーラム第四次産業革命センター日本代表、Jonathan Soble: 編集・コミュニケーション責任者、井上 裕介: 医療データ政策プロジェクト・フェロー、岡本 雅子: 医療データ政策プロジェクト・フェロー、小野寺 玲子: 医療データ政策プロジェクト・フェロー、末江 泰徳: 医療データ政策プロジェクト・フェロー。

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