1965年、米国はメキシコ人労働者を禁止した。その後、何が起きたのか?

A child waves a Mexican flag as Pope Francis leads the Angelus prayer in Saint Peter's Square at the Vatican April 23, 2017. REUTERS/Tony Gentile - RTS13IPH
A study about the complicated impact of immigration on nations.Image: REUTERS/Tony Gentile
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英国はまもなくEUを離脱する。米国とハンガリーは国境の壁を大幅に拡張する計画だ。こうした近年の保護主義的な政策転換の波は、移民がもたらす影響への有権者の懸念に一因がある。賃金と自国出身労働者の雇用を増やすため、移民を制限するよう代表者に求める人は多い(Mayda 2006)。ただし、移民をめぐる文化的、財政的な懸念も大きい(Hainmueller and Hopkins 2014)。

しかし、移民を排除する現実の政策が賃金や雇用の引き上げに成功したかどうかについて、経済学の文献には直接的な証拠が驚くほど少ない。移民研究の多くは、1980年にキューバ難民がマイアミへ押し寄せた際の影響を分析したCardの画期的な研究(Card 1990)に倣っている。研究者が分析するのは、受け入れ国の特定の移民政策の変更ではなく、移民の増加につながった海外の出来事だ。選択的な季節労働ビザの導入など、国内政策の具体的な変更によって促される移民は、外生的な難民流入によって生じる移民とは大きく異なる可能性がある。過去の政策変更を直接評価すれば、将来の政策により確かな根拠を与えられる。職業訓練プログラムや求職支援など、賃金と雇用の改善を目的とした積極的労働市場政策には、数多くの直接評価が行われてきた(LaLonde 2016)。一方、積極的労働市場政策として設計された実際の移民制限が目標を達成したかを直接評価した研究は、ほとんどない。

短期的かつ狭い労働市場では、移民制限の効果を調べるまでもないように思われる。労働需要曲線が右下がりなら、労働供給を減らせば価格は必ず上がるからだ。

しかし、必ずしもそうとは限らない。企業は賃金を引き上げる以外にも、労働力不足に対処する方法を数多く持つ。生産手法を変える、異なる生産技術を導入する、新技術を開発する、既存従業員の人的資本に投資する、別の製品を作る、別の労働市場へ事業を移す、あるいはその部門から撤退して他に投資することもできる。近年の研究によると、内生的な技術変化の特定の形態のもとでは、中長期的に労働需要曲線が右上がりになる。労働力不足が技術変化を促し、労働の限界生産物を低下させるためだ(Acemoğlu 2007, 2010)。この結果は利用可能な技術の形態に左右され、理論上の「中期」が具体的にいつ到来するかは、どの状況でも明らかではない。

メキシコ人のブラセロ排除

新しい論文(Clemens et al. 2017)で私たちは、積極的労働市場政策として設計された、1965年の米国における大規模な移民制限の変更を研究する。米国の労働市場から、季節労働に従事していたメキシコ人労働者が約50万人も突如排除された。ジョン・F・ケネディ米大統領を含む当時の議員らは、この政策の目的は米国人労働者の賃金と雇用を増やすことだと述べていた。

こうしたメキシコ人の肉体労働者、すなわちブラセロたちは、1942年に始まった一連の二国間協定のもと、主に農場で働いていた。米国は1962年にこの制度の制限を開始し、1965年に完全に廃止した。当時、米国で働いていたメキシコ人のおよそ3分の1が職を失った。この出来事は、米国人労働者を支援することを明確な目的として外国人労働者を大規模に排除した、最も最近の事例だった。

研究を始めるにあたり、私たちは全国各地の公文書館を調査した。米国の地域によってブラセロ労働者(およびその後の排除)への依存度は大きく異なっていたため、最も影響を受けた地域で労働市場の状況が相対的に改善したかを調べるのは簡単に思えるかもしれない。しかし、州ごと、時期ごとのブラセロの人数をまとめたデータベースが一度も作成されていないと知り、私たちは驚いた。当時は広く公表されていたものの、今では全国の図書館に残る黄ばんだ印刷報告書にしか記録されていない人数を、まずはつなぎ合わせる必要があった。先行研究の多くは、データを示さず、排除がなかった場合に何が起きていたかを特定する方法もないまま、ブラセロの排除によって米国人労働者の状況が改善したと論じていた。

州別のメキシコ人労働者数を記録した公文書により、ブラセロ排除という自然実験を明確に可視化できる。図1は、州別・時系列で見た、米国の季節農業労働者のうち雇用されたブラセロが占める平均割合を示す。「高い影響を受けた」州とは、排除前の1950年代半ば、制度の最盛期に、ブラセロの割合が20%を超えていた州を指す。「影響が小さかった」州では排除前のブラセロの割合は0.3%から9%で、「影響を受けなかった」州ではゼロ(0%)だった。1962年の制限と1965年の制度廃止は、図から明瞭に見て取れる。

Image: VoxEU

ケネディ大統領は、ブラセロたちを排除することで、国内労働者の賃金と雇用の状況を改善できたのだろうか。私たちは、排除への曝露度に応じて各州の実質農業賃金がどう推移したかを調べる。図2は、同じ3群の州について平均農業賃金を示す。前述のとおり、各年は2つの季節に分けている。ブラセロの流入は通常、前期(7月まで)と後期(7月以降)に分かれていたためだ。

Image: VoxEU

ブラセロ労働への依存度が最も高かった州では農業賃金が上昇し、排除後の上昇ペースは排除前を上回った。しかし驚くべきことに、こうした賃金の推移は、ブラセロへの依存度が低かった州や、排除の影響をまったく受けなかった州の賃金推移と区別がつかない。むしろ、影響を受けなかった州のほうが賃金の伸びは速く、最も影響を受けた州との格差はわずかに縮まった。ブラセロの排除が国内農業労働者の賃金を上げたのなら、まさに逆の結果が観察されるはずだ。

ブラセロの排除も、米国の農業雇用を大幅に増加させたようには見えない。私たちは、こうした単純な調査結果がさまざまな条件でも成り立つかを詳しく検証した。この期間中、ブラセロたちは、非正規のメキシコ人労働者を含む他の外国人労働者によって大幅に置き換えられることもなかった。限られた部門における、この非常に大規模で対象を絞った労働供給の衝撃は、国内労働者にまったく及ばず、積極的労働市場政策としてはあっけなく失敗したようだ。

説明と教訓

賃金を引き上げたり、国内労働者をより多く雇用したりする以外に、米国の農場はこの大きな衝撃にどう対応したのだろうか。農場には多くの選択肢があった。耕地の整備、播種、収穫、梱包を機械化する技術を導入できた。改良品種の種子、除草剤、殺虫剤をより多く使うこともできた。生鮮市場向け作物ではなく加工食品の原料を生産するために、品質基準を調整することもできた。農産物の価格を引き上げる、海外へ生産を移す、農業から撤退して資本を他に投資することも可能だった。作物ごとに程度の差はあるが、こうしたことはすべて起きたようだ。

こうした調整経路のいくつかについて、私たちは新たな証拠を示す。ブラセロ労働が最も重要だった3つの作物、すなわちトマト、綿花、テンサイでは、機械収穫や圃場管理に使える技術がすでに存在していたが、排除当時の米国の農場では部分的にしか導入されていなかった。こうした技術の導入が一部にとどまる状況では、賃金を変えずに限界的な企業が生産技術を切り替えるのが最適であることを、理論モデルで示す。また、ブラセロの排除と、この種の技術変化との実証的な関連も確認する。最も顕著な例はトマトで、排除によって既存の機械収穫技術が突如として大規模に導入されたことは明らかだ。さらに、そうした技術が利用できなかった、ブラセロ労働への依存度が高い作物では、ブラセロの排除が通常、相対的な生産量の減少を招いたことも示す。農場が作付け構成を変える、国外へ生産を移す、生産物の価格を引き上げる、あるいは廃業するといったことが原因として考えられる。

多くの自然実験と同様、今回の事例から他の状況にそのまま適用できる教訓が自動的に得られるわけではない。調整の重要な経路が技術の進歩だったため、既存の技術では代替しにくい労働者、たとえばフィリピン出身の高齢者介護労働者を排除すれば、国内労働市場にまったく異なる影響が及ぶ可能性がある。

ただし、この事例は、積極的労働市場政策として移民を排除し、意図的に労働力不足を生み出す政府に、謙虚さも求めている。1960年代の多くの事情に通じた議員は、米国で農業労働力を不足させれば、苦境にある国内労働者が助かるのは明白だと考えていた。議会で証言したある研究者は、そう考えない議員は「需要と供給の法則を廃止」する必要があると笑いながら述べ、それは「重力の法則を廃止」するのと同じだとした。そうした見方は誤りだと分かった。移民障壁を積極的労働市場政策として効果的に機能させるには、個々の障壁を評価する研究を大幅に増やし、確信の度合いを少し下げる必要がある。

参考文献

Acemoğlu, D(2007)「技術の均衡バイアス」Econometrica 75(5): 1371-1409.

Acemoğlu, D(2010)「労働力不足はいつイノベーションを促すのか?」Journal of Political Economy 118(6): 1037-1078.

Card, D(1990)「マリエル難民流入がマイアミの労働市場に与えた影響」ILR Review 43(2): 245-257.

Clemens, M A、E G Lewis、H M Postel(2017)「積極的労働市場政策としての移民制限:メキシコ人ブラセロ排除から得られた証拠」、NBERワーキングペーパー23125(2017年4月改訂版はCenter for Global Development ワーキングペーパー451)。

Hainmueller, J、D J Hopkins(2014)「移民に対する世論」Annual Review of Political Science 17: 225-249.

LaLonde, R J(2016)『積極的労働市場政策』、The International Library of Critical Writings in Economics 318、ノーサンプトン(マサチューセッツ州):Edward Elgar。

Mayda, A M(2006)「移民に反対するのは誰か?移民に対する個人の態度を国際比較で検証」Review of Economics and Statistics 88(3): 510-530.

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