エデルマンの新たな報告書によると、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、地政学をめぐる企業への新たな期待が生まれている。
調査対象者の約95%は、企業が事業を展開する国への、正当な理由のない侵攻に対し、企業が政治的または経済的圧力をかけることを期待している。
つまり、ロシアでの事業を停止する企業は信頼を大きく高める可能性がある一方、同国で事業を続ける企業は信頼を大きく失う可能性がある。
侵攻開始以降、すでに1,000社を超える企業がロシア市場から撤退した。これは、アパルトヘイトをめぐる南アフリカからの200社の撤退の5倍の規模だ。
過去3年間、企業は最も信頼される機関として台頭してきた。「エデルマン・トラスト・バロメーター」において、企業の最大の強みは能力であり、政府を50ポイント以上上回る。物事を成し遂げるこの能力を背景に、気候変動対策、職場の公平性、構造的人種差別、持続可能性など、複数の分野にまたがる課題で政府が果たせなかった役割を企業が担うことへの期待が高まっている。そのためには、財務実績、業務の卓越性、イノベーションという本来の役割を超える必要がある。
地政学分野で企業に求められる行動
「2022年エデルマン・トラスト・バロメーター特別報告書:地政学と企業」によると、ロシアによるウクライナ侵攻によって、地政学が企業の優先課題に加わった。同報告書は過去1か月に14か国で1万4,000人を対象に実施された調査に基づく。回答者の6割弱が、地政学を現在の企業の優先課題だと答えた。これに対し、経済的責任を挙げた人は85%、社会的課題を挙げた人は77%だった。
侵攻後3か月で1,000社がロシア市場から撤退したことは、企業に新たな価値基準が生まれた証拠である。ロシアから撤退する企業のリストをまとめた、イェール大学経営大学院のレスター・クラウン教授ジェフリー・ゾネンフェルドによれば、ロシアからのこの歴史的な大規模かつ迅速で、自発的な企業撤退は、その規模と影響において比類がない。これは、アパルトヘイトをめぐって南アフリカから撤退した、前例のない規模とされた200社の事例の5倍にあたる。後者には20年を要し、長期化し、消極的で、圧力を受けての撤退だった。
地政学分野で企業が行動することへの新たな期待が生まれている。ほぼすべての人(95%)が、企業が事業を展開する国への正当な理由のない侵攻に対し、政治的・経済的圧力をかけることから、侵略国を公に非難することまで、企業が対応するよう求めている。社会的課題への取り組みを企業に促してきた主要な利害関係者である消費者や従業員も、地政学上の力強い対応を支持している。回答者のほぼ半数(47%)は、ウクライナ侵攻への対応を基準に、ブランドや企業の商品を購入したり、ボイコットしたりした。ウクライナへの対応が期待に沿った場合、従業員は雇用主への忠誠心が大幅に高く(79%対55%)、その雇用主を人に勧める意向も強い(80%対54%)。
地政学が今や信頼を測る試金石となっている。ロシアでの事業を停止する企業は、元従業員を保護する場合、信頼が大きく高まる可能性がある(31ポイント増)。一方、ロシアで事業を続ける企業は信頼を大きく失う(38ポイント減)。ロシアで事業を続けることについて、どの業界も例外扱いされない。人々の命を支える医療・食品業界でさえ、撤退を求める圧力を受けている(それぞれ、事業継続を支持する人はわずか40%、36%)。
ウクライナ侵攻を受け、主権国家への侵攻をはるかに超える幅広い問題が浮き彫りになった。調査では、少なくとも95%が、抑圧的な政府や労働者への虐待といった問題に対し、企業が力強く対応することを望んでいることが分かった。企業は投資判断を通じて、地政学や国家政策に文字どおり影響を及ぼせると見なされている。3分の2は、企業が強力な介入を行えば、気候変動対策や人権改革を前進させられると考えている。また、企業は道義的な一線を引くことも期待されており、62%が、企業は撤退または事業縮小によって不正な行為を罰するべきだと答えた。
新たな地政学的企業の顔として、CEOに期待が寄せられている。60%を超える人が、ロシアで事業を続けるかどうかをめぐる政策論議をCEOが主導するべきだと答え、6割弱が、自国の利益を優先するべきだと答えた。これは、賃金格差、気候変動、人種的公正、自動化やリスキリングなどの社会的課題に関する政策をCEOが主導することも期待する70%と同程度である。
トラスト・バロメーター特別報告書が指摘する懸念の一つは、機関への信頼をめぐる「大衆と富裕層の格差」の拡大だ。インフレ、金利上昇、失業への不安が、パンデミックによる甚大な人的・経済的損失に重なっていることが、明らかに影響している。ロシアの侵略への対応を主導した政府を持つ大国の民主主義国家3か国、ドイツ、英国、米国では、信頼が4~6ポイント上昇した。しかし、この信頼の上昇は所得上位25%に集中しており、下位25%は低迷したままだ。その結果、5か国で信頼格差が過去最大となり、最も深刻なのは英国の34ポイントで、ドイツ(28ポイント)、フランス(23ポイント)が続く。米国の信頼格差は過去最大ではないものの、23ポイントと依然大きな問題だ。機関への信頼格差が最も大きいのは企業で、所得上位25%の信頼度は72%、下位25%では52%となっている。食品価格の高騰や燃料不足の可能性は、特に人員削減を伴う景気後退が起きた場合、企業の責任として問われることになりそうだ。
これまで財務・経済面の実績と社会的影響の両立に取り組んできたCEOは、今や地政学という3つ目のボールも空中に保たなければならない。どれか一つでも落とせば重大な結果を招き、仕事はますます難しくなる。インフレが猛威を振るい、世界的な景気後退の可能性があるなか、CEOは社会的課題への取り組みを放棄せずに、本来の経済的役割に一層注力しなければならないかもしれない。社会的課題については、活動家にならなくても、企業のリーダーは行動するという使命を果たせる。
地政学の面では、ロシアからの撤退が前例となり、次の危機では行動への期待がさらに高まるだろう。米国と中国は世界の二大大国であり、両国間の将来の危機が企業に対応を求める場合、企業が負う経済的コストははるかに大きくなる。経済、社会、地政学上の責任の間で、トレードオフは避けられない。賢明なCEOは企業価値に沿って行動し、その優先事項が大きく異なる利害関係者に対し、行動の理由を説明する準備を整えておく。





