人々の長寿化に伴い、労働人口と退職後の人々との間の扶養比率は不均衡となり、持続不可能な水準に達している。
治療より予防が重要だが、医療サービスは病気の予防より治療に重点を置いている。
製薬業界は、患者が予防と治療をより受けやすくなるよう、医療制度との連携を強化する必要がある。
COVID-19はいまなお世界の保健医療コミュニティの関心の多くを占めているかもしれないが、パンデミック後に医療提供者やイノベーターが直面する課題は非常に大きい。心血管疾患(CVD)は世界の死因の第1位であり、あらゆるがんを合わせた数より多くの人々の命を奪っている。その根本原因は複雑だが、一つ明らかなことがある。公衆衛生システムは、この問題に大規模に対処できる体制が整っていない。
世界の保健医療インフラの多くは、戦傷、感染症、母子保健に対応するため、第二次世界大戦後に整備された。しかし、それ以来、社会は大きく変化した。人々の長寿化により、労働人口と退職後の人々との扶養比率は不均衡となり、持続不可能な水準に達している。比率が縮小している前者が、より長い寿命ゆえに高額な医療を必要とする後者を、経済的に支えている。2030年までにほとんどの高所得国では、医療費が国内総生産(GDP)全体の10%に達すると予想され、米国では20%に近づく見込みだ。
治療より予防が重要
さらに、医療制度では、インセンティブが逆転していることがあまりにも多い。治療より予防が重要であるにもかかわらず、たとえば心臓発作は、心臓の健康診断、健康的な食事、適度な有酸素運動によって予防するより、発症後にステントや血液をサラサラにする薬で治療されることのほうが多い。
この傾向は懸念すべき連鎖反応を引き起こす。資金難の医療制度では資源が不足し、医師や看護師の過重労働につながる。一人ひとりの患者と十分に向き合う時間がなくなり、患者には病気を予防するための知識や動機が不足する。その結果、健康上の成果が悪化し、健康格差が拡大する。
医療制度を再設計し、疾病予防を重視するとともに、集団レベルで健康を測定可能な形で改善するため、包括的かつ協調的な取り組みが必要だ。このプロセスは、業界と医療制度が連携し、患者により良い医療を提供するという共通の目標のもと、互いの取り組みを補い合うパートナーとして協働することから始まる。
大きな課題だが、最近の研究はその実現方法を示している。ハーバード大学ヘルスシステム・イノベーション・ラボの研究は、CVD対策において政府と民間企業の戦略的パートナーシップがいかにこれを実現できるかを明らかにしている。
全体像に影響を与えるシステム思考
研究者たちは、政府と業界の6つのパートナーシップを分析した。大規模に健康を改善するには、まずこうした連携をシステム思考に基づいて進める必要があると結論づけた。つまり、ある保健医療分野のリーダーは、全体像を無視して特定の病気への対処や新たな治療法の導入だけに焦点を絞ることはできない。医療制度の一領域で行われる革新的な変化が、制度全体にどのような波及効果をもたらすのか、また短期・長期に意図した結果と意図しない結果をどう生むのかを考える必要がある。特に重要なのは、信頼、率直な対話、透明性、説明責任が欠けた制度では、最高の専門知識や技術も成果を上げられない場合があると、研究が明らかにしたことだ。
これらのことはすべて、製薬企業が医療制度において、より良いパートナーとなる方法を示している。製薬業界は、医療制度が直面する課題にもっと真摯に耳を傾けなければならない。医療制度から聞いたことを生かし、効果があるだけでなく、医療制度ができる限り簡単かつ費用対効果の高い方法で提供できる治療法を設計する必要がある。パートナーとして関与し、予防(教育と啓発を通じて)と治療(アクセスと提供体制を通じて)の両面で患者がより受けやすくなるよう、新たな協働の方法を見つけなければならない。
製薬業界と医療提供者のパートナーシップ
これらは、私の勤める会社であるノバルティスがCVD対策に向け、イングランドの国民保健サービス(NHS)と実施している、先駆的な集団健康パートナーシップ(ハーバード大学が調査したパートナーシップの一つ)に適用してきた原則だ。英国では、CVDによる死亡は死亡者の4人に1人を占め、医療制度に年間190億ポンド超の費用をもたらしている。主な治療法は、コレステロールを下げるためにスタチンを毎日服用する初期治療だが、患者の50%がスタチン療法を2年以内に中断し、患者の80%は推奨されるコレステロール値に達していない。
コレステロール管理の改善に向け、私たちが提供できることの真の可能性を実現するには、考え方を変え、医療制度と緊密に連携した統一戦略を策定する必要があると、私たちは理解していた。NHSのリーダーたちと協力し、そのニーズを把握することを約束した。2年間にわたり、ともに効率的な診療経路を設計し、CVDを有し、悪玉コレステロール値が高い人々をできる限り多く特定し、コレステロール低下療法の恩恵を最大限に受けられるようにした。適応し、協働することで、私たちのパートナーシップは集団レベルの真のニーズに応えることを可能にした。
医療制度との協働に同様のアプローチを取ってきた他の事例からも学んでいる。たとえば、マレーシアの製薬企業とマレーシア保健省の間の協働パートナーシップは、C型肝炎治療薬の開発と普及に大きな進展をもたらした。より大規模な取り組みである革新的医薬品イニシアチブは、大学、製薬企業、患者団体、各国の規制当局による幅広い連合を構築し、新しい治療法の実用化を支援している。こうした連携は、糖尿病や認知症など、世界で特に大きな負担となっている疾患への対策に進展をもたらしてきた。
進展には、統合的なパートナーシップが欠かせない。医療制度と製薬業界は、変化する患者のニーズに応えるため、一体となって取り組む必要がある。ともに、こうした課題に対応できるよう適応することができるし、そうしなければならない。





